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映画業界始まって以来の大ニュース!? ストリーミングはハリウッドを制するのか

大手映画スタジオの一社であるワーナー・ブラザース(WB)が、2021年度劇場封切り予定作品の全てを、劇場封切り日と同じ日にストリーミング・サービスHBO Maxにて同時公開すると発表したのだ。

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「HBO Max」プレゼンテーション (C) Getty Images
「HBO Max」プレゼンテーション (C) Getty Images 全 7 枚
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《文:Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美》

大手映画スタジオの一社であるワーナー・ブラザース(WB)が、2021年度劇場封切り予定作品の全てを、劇場封切り日と同じ日にストリーミング・サービスHBO Maxにて同時公開すると発表したのだ。それも、月決め契約料プラス視聴料課金(プレミアムPV(Premium Pay Per View))ではなく、HBO Maxに加入していれば公開後の新作品見放題という太っ腹な公開方式である。映画ファンにとっては夢のような話だが、映画業界内の状況は真逆の様相を呈している。

劇場作品のストリーミング配信、業界内に広がる余波


『ムーラン』ワールドプレミア Photo by Charley Gallay/Getty Images for Disneyディズニープラスでの配信になった『ムーラン』
ストリーミングと劇場での同時公開を始めたのはワーナーが初めてではない。今年8月には、ディズニーが実写版超大作『ムーラン』を劇場とストリーミングで同時公開すると発表して、ハリウッドが蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

大金を注ぎ込んで作った大型作品が映画館閉鎖あるいは開けても定員制限に加えてお客も来たがらないという状況の中、ついに新たな公開戦術を使用するに至ったのである。視聴にあたっては、ディズニープラスの月決め契約料のほかに『ムーラン』視聴料として30ドルが課金されるPPV(Premium Pay Per View)の方法が取られた。

「AMCシアターズ」-(C)Getty Images米大手映画館チェーン「AMCシアターズ」
また同時期にユニバーサル・ピクチャーズがAMCと、劇場公開期間を短縮してストリーミングで早い時期に公開しても良いという新契約を結んで話題になった。

AMCとユニバーサルの取り決めは双方合意のもとに交わした契約である。だが今回のワーナーの発表は多くの関係者にとって全くのサプライズだった。映画チケットの売り上げパーセンテージがボーナスになるという契約をしている監督・プロデューサー・俳優などにとって、作品の短期間劇場公開後すぐにストリーミング行きという形態は大変な痛手となる。

クリストファー・ノーラン - (C) Getty Imagesクリストファー・ノーラン監督
『ダークナイト』以来ワーナーのお抱え監督という感があったクリストファー・ノーラン監督は、寝耳に水のニュースに対し憤りをあらわにした。「最高の映画会社と仕事をすることに誇りを感じていたのに朝起きて見たら、その会社が最悪のストリーミング会社に変貌していた。信頼関係で成り立っている映画業界で、長年の仲間に対して相談もなくこんな仕打ちをするとは」という激怒の声明だ。ノーラン監督に続き、全米映画監督組合(DGA)も抗議の声明を発表した。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ-(C)Getty Imagesドゥニ・ヴィルヌーヴ監督
また、ワーナー配給で新作リメイク『DUNE/デューン 砂の惑星』の公開が待たれていたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督も怒りをぶちまけた声明を発表している。ワーナーと長年親しかった関係者にとって、今回のニュースはまさに親元に裏切られたという感があるのだろう。HBO Maxはスタートしたばかりなのに、すでに業績が芳しくないと報じられている。我が身を救うための企業戦略とは言え、ビジネスの世界は義理も人情もないことを思い知らされる。

ハリウッド映画業界に新時代到来か


ウォルト・ディズニー -(C)Getty Images
興行収入の歩合が主な収入源である劇場業者たちは、ワーナーの非情なニュースを聞き、億単位の興行成績を叩き出すディズニーがストリーミングと劇場の同時公開を始めたらどうなるのかと懸念しているに違いない。もしディズニーがワーナーのそれにならったら、劇場業界はひえ上がってしまうだろう。

いっぽうディズニー陣営では12月10日(木)、株主総会が行われた。「(ワーナーのような)劇場封切り作品をストリーミングサービスに直行させるような事はしない」と代表取締役が発表したものの、来年以降発表されるディズニー大型作品の大多数がディズニープラスのストリーミング向けの作品であることも明らかにした。この状況から見て残念ながら劇場主側の未来は明るいものとは言えない。

「HBO Max」プレゼンテーション (C) Getty Images「HBO Max」プレゼンテーション
これまでは映画チケットの売り上げ歩合をボーナスとして受け取る契約をしていたプロデューサーや監督、俳優たち(厳密に言うとその弁護士やエージェントたち)に及んでも、ストリーミング公開が幅をきかせる「新時代」を生き抜くために、自分の取り分を如何にしてキープするかの契約書対策が必要となるだろう。果たしてこの状況がクリエイターたちにどんな影響を及ぼすかも注視する必要がありそうだ。

何もかもが新しいことだらけなストリーミングの世界はどこか西部開拓時代を彷彿とさせる。未知なことも多いが、新しいチャンスも存在している。ハリウッド映画業界の新時代が始まろうとしている。

《text:Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美》

映画プロデューサー・監督|MPA(全米映画協会)公認映画ライター Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美

東京出身・ロサンゼルス在住・AKTピクチャーズ代表取締役。12歳で映画に魅せられハリウッド映画業界入りを独断で決定。日米欧のTV・映画製作に携わり、スピルバーグ、タランティーノといったハリウッド大物監督作品製作にも参加。自作のショート作品2本が全世界配給および全米TV放映を達成。現在は製作会社を立ち上げ、映画企画・製作に携わりつつ、暇をみては映画ライター業も継続中。

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