世界中で猛威を振るうコロナウイルス。経済にも計り知れない損害をもたらしているが、その渦中でアメリカの映画業界も大打撃を被っている。終わりの見えない非常事態に不安が渦巻くハリウッドの舞台裏を現場のノウハウを活かして探ってみた。
前代未聞の週末興行収入ゼロ!映画業界史上初の異常事態

先週火曜日の3月17日、ハリウッドが位置するカリフォルニア州より全米初の外出厳重自粛令が発令された。バーやレストランを筆頭に映画館もその扉を閉じざるを得なくなった。シアトルやニューヨークなど大都市を抱える他州でも、次々と外出自粛令が発令されたことから大手映画館を筆頭にやがて小規模の映画館も営業自粛を始めた。
そして全米各地で映画館のネオンサインが消えてから約1週間。以来初めてのウイークエンドを迎えたハリウッドでは、本来であれば週明け3月23日には週末ボックスオフィスの統計が発表され業界紙を賑わせるはずだった。しかし今週は殆どの映画館が閉鎖しており正確な興行収入の統計が不可能ということで、「ウイークエンド興行収入ゼロ」扱いという、100年プラスに渡る米国映画業界始まって以来の異常事態となったのである。

3月4日、コロナウイルスの影響を見越して真っ先に『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の配給スタジオが、当初の公開日4月2日を11月25日に延期されるというニュースを発表した。
ディズニー実写作品『ムーラン』は巨額の宣伝費用をかけ3月27日全米公開予定だったが、3月23日現在で公開日未定に変更された。

また、第1作目が大ヒットし3月18日の続編公開が期待されていたエミリー・ブラント主演のホラー・サスペンス作品『クワイエット・プレイス PARTII』も公開日未定に変更。春休みの家族連れ客が期待されていた『ピーターラビット2』は夏休みに賭けて8月公開予定に変更。
5月1日全米公開予定だったマーベルの期待作『ブラック・ウィドウ』は公開未定、『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』はなんと1年後に公開延期と、コロナ.ウイルスの影響で、たたみ掛けるようにリリース予定の変更が発表された。
撮影延期と製作遅延の余波

延期や無期棚上げになってしまったのは映画の公開だけではない。ウイルスの影響で世界の至る所で行われていた映画や番組の撮影が一時中止を強いられている。
撮影がストップしてしまった作品の数はNetflixやAmazonのオリジナル作品なども入れると100本以上にのぼる。撮影中断の暗礁に乗り上げている作品は、大作だけを例にあげても、『リトル・マーメイド』(ディズニー実写版)、『シャン・チー/Shang-Chi(原題)』(MCU=マーベル)、『アバター2』、『マトリックス4』、『ファンタスティック・ビースト3』、『バットマン』、『ジュラシック・ワールド:ドミニオン/Jurassic World: Dominion(原題)』、『ロード・オブ・ザ・リング』(Amazonオリジナル)、『ミッション:インポッシブル7』…とまだまだある。
どうやら、Disney+(ディズニープラス)に人気作品「マンダロリアン/シーズン2」は、撮影を終了しており難を免れたらしいが、Disney+オリジナルで待望のマーベル作品「ロキ」は撮影中断の憂き目にあっており、再開の目処が立っていない。
製作・現場スタッフへの重大な影響
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ウイルス問題で最も厳しい余波を受けているのは、映画製作において縁の下の力持ちである製作・現場スタッフたちだろう。
アメリカには日本の様な国民保険が存在しない。殆どのスタッフはフリーランスとして作品ごとに雇われているため、個人で民間健康保険に入っている。これがベラボウに高い。スタッフをしている作品が一時棚上げとなり解雇となってしまったら、自分の家賃や光熱費の支払いはもとより、我が身を守る健康保険の支払いにも大いに困ることになる。解雇された時点で国掛りの一時保険にも入れるが、その費用たるや月々10万円前後という呆れた額で、仕事のある人間でも加入できない様な保険だ。
また監督や大道具など、労働組合に入っているスタッフも1年間に一定の時間数を働かないと組合から出されている健康保険を解除されてしまう。まさに死活問題である。
「憩い」となったストリーミングサービス
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外出自粛令が発令されて、家で過ごすことになった人たちの「憩い」となっているのがストリーミング配信サービスだ。昔なら家に閉じ込められることになったら、TVか読書だっただろうが、昨今ではストリーミングを楽しむのが主流と言える。
そこで映画館が使えなくなった映画会社は、一部の劇場用映画を即時ストリーミング公開に切り替えた。例えば、日本では5月公開予定エリザベス・モス主演サスペンス作品『透明人間』などは、すでに有料でストリーミングが開始されお茶の間での鑑賞が可能になっている。またディズニーは『アナと雪の女王2』のストリーミング開始を大きく繰り上げ、すでにDisney+で配信をスタートした。

また、自粛令が出されたあとNetflixでは加入者の大幅増加が見られたと報道されている。普段は有料の大手ネットワークCBSオンデマンドのストリーミング・サービスも3月24日から「1か月無料」サービスを開始。この機会にぜひお試しを、というわけだ。
だが搾取するばかりが企業ではない。現状態から恩恵を被っている向きもあるNetflixは、失職してしまったスタッフ達のために100万ドル基金を発足した。そのうち15万ドルはスタッフをサポートする公益事業団に贈られるという。Netflix社のほかにも続々とエンタメ関係事業が救済基金を設立しはじめている。
この先まだどうなるか分からない不安な状況ではあるが、自分にはいま何が出来るかを考え、思いやりを持って行動していくことが、映画業界のみならず社会を救うことになるだろう。