競争と緊張の毎日「同僚が急にいなくなることもしょっちゅう」
――お話を聞いていると、常に競争にさらされている、緊張感のある日々を過ごしていらっしゃるのが伝わってきます。
緊張感はありますね(笑)。社内での競争率もすごく高くて、入社して最初の3か月は試用期間だったんですが、実際にその期間で切られてしまう人も多いし、私は幸運にもここまで約1年半、仕事を続けていますが、同僚の誰かが急にいなくなる(=解雇される)こともしょっちゅうあります。
特に「GRAVILLIS」はアイディアをすごく重視する会社なんです。映画のポスターにも、こういうレイアウトにするとコンペに通りやすいといったものがあるんですけど、GRAVILLISはそれに縛られず、デザイナーは常に「クレヴァーなアイディアを出してくれ」と言われるんです。私はこの会社のそういうところがすごく好きなんですけど、とはいえ、人間のアイディアなんて、そんなに常に出てくるもんじゃないですよね(苦笑)。
朝、ある映画のアイディアを5つを出して、昼に別の作品のために5つを出して、夜、また違う作品用に5つ…って生活していると、ときどきおかしくなりそうになりますね(苦笑)。アイディア出しは本当にストレスで、私はその段階が終わって、実際に作っている段階が一番ホッとしますね。「あぁ、よかった! やっと作れる」って(笑)。
――ここまでに携わってきた作品、コンペに参加されたことについて、可能な範囲で教えてください。
以前の会社で、DVDやブルーレイのデザインに携わった作品としては『ゴースト・イン・ザ・シェル』、『ラ・ラ・ランド』、『猿の惑星』シリーズ、『レディ・プレイヤー1』、『カンフー・パンダ3』、『ザ・プレデター』、『ツイン・ピークス:リミテッド』、『レゴアイズド』、『メイズ・ランナー コレクション』、『ペット・セメタリー』、『グリース 製作40周年記念』、『レッド・スパロー』、『スター・トレック:ロッデンベリー・アーカイブス』、『プリンスムービーコレクション』などがあります。この中には世界三大広告賞のひとつであるクリオ賞で金賞を受賞したデザインもあります。
いまの会社では、『ザ・ウェイバック』、『ガンズ・アキンボ』という映画で私のデザインが選ばれました。また、タイトルは出せないんですが、私の案が採用されて、いま公開に向けて準備している作品もあります。その他、『シカゴ7裁判』、『ジョーカー』、『Candyman』、『Charm City Kings』、『ザ・ファイブ・ブラッズ』、『JUDAS AND THE BLACK MESSIAH』、『サイレンシング』、それからドラマシリーズですが、HBOの「Lovecraft Country」(邦題:ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路)や「ウォッチメン」などのコンペにも参加しましたが、最終的に私のデザインは選ばれませんでした。
――この仕事にやりがいや喜びを感じる瞬間は?
やっぱりアイディアが採用された時ですね。苦労して、苦労して、苦労して…「まさか」と思いつつ最終ステージまで残って、ようやく仕事を取れた瞬間は嬉しいです。でも、だからって私にボーナスが入るわけでもないんですよ(笑)! さっきも言いましたが、コンペティションで案を出すだけでも会社にはお金が入ってきて、勝てばさらに大きな額が払われるはずなんですけどね。
――ちなみに報酬は固定給なんですか?
そうです。年俸制ですね。残業代も出ないです(笑)。でも、24時間の中で起きている時間はずっとどこかでデザインのアイディアについて考えているようなものなので、普段、映画やドラマをプライベートで観るのがイヤになりますよ(苦笑)。
――初めて自分のデザインが採用されて、掲出されているのを見た時は…。
すごく嬉しかったですね。ただ、さっきも言いましたけど、私だけのデザインじゃなく、コンペの過程でいろんな人からの修正が加えられたりするので、SNSに「これ、私がデザインしました!」とポスティングするのは気が引けてしまうというか…(笑)。「あの人のアイディアも入ってるし、上司がここを修正してくれて通ったんだよなぁ」とか。そう考えると、やっぱりチームワークなんですよね、この仕事。
――先ほど、「映画のポスターにもコンペに通りやすいレイアウトがある」、「GRAVILLISはアイディアを重視する」というお話がありましたが、実際にアイディアを考えたり、デザインを制作する際に重要なことはどういったことですか? ハリウッドの傾向なども含めて教えてください。
まず、いま私がいるGRAVILLISは「コンセプト重視、アイディア重視」の会社なんですね。でもハリウッドの大作映画は、大きな予算で有名なキャストを数多く起用していて、そこまでアイディアを重視せずとも、有名な俳優を前面に出すことで十分に成り立つんです。メインキャストをどう見せるかみたいな部分が重要で、あまり物語そのものの深みを伝えるようなアイディアは採用されません。そこで、GRAVILLISのようにコンセプト重視で勝負しても、なかなか勝てないというのはあります(苦笑)。
私が以前いたBONDという会社はそういう大作のポスターを取るのが多かったんですが、GRAVILLISはどちらかというと、予算のあまり多くないインディペンデント系の映画、コンセプチュアルな作品のポスターを担当することが多いですね。先ほども名前が出たスパイク・リー監督の作品もそうですし、『アス』や『Candyman』(原題)を監督したジョーダン・ピールの作品などもよく担当しています。