昨年3月、PARCO劇場オープニング・シリーズ第1弾公演として開幕する予定だった本作は、コロナ禍により初日を延期、さらに45回予定のところ、わずか10回の上演となってしまった。そこで観劇が叶わなかった多くの人々のリクエストに応えて、今回アンコール公演が行われる。
本作は、16世紀、167人の寄せ集めの兵を率いて2400万人のインカ帝国を征服した、成り上がりのスペインの将軍ピサロの物語。日本初演は36年前の1985年PARCO劇場。山崎努がピサロを、渡辺さんがインカ帝国の王・アタウアルパを演じた。
そして今回、自身に「俳優を一生の仕事とする」覚悟を決めさせる一本となった本戯曲に、渡辺さんがタイトルロールとして帰還。ピサロに対峙する太陽の子・インカ王アタウアルパは、宮沢さんが務める。
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公演に向けて感染予防対策を講じ、一丸となって全力投球中の稽古場から到着した写真では、並々ならぬ熱量が感じられるようだ。
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公演が止まってしまったとき、すぐさまリベンジ公演をやろうと声を上げたのは、主演の渡辺さん。その願いが実現して4月、大階段のセットが組まれた稽古場に、総勢29名のキャストが結集。初演をともに立ち上げたメンバーに加え、一部新顔も迎えての再始動。演出のウィル・タケット、演出助手兼振付のシドニー・アファンデル=フィリップスの姿もあった。
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この日の稽古は、戦いによる大殺戮が繰り広げられた一幕のラスト、その鮮烈な余韻を残しての二幕頭からスタート。回想する老マルティン(外山誠二)が見つめる中、おぞましい光景を見たことに打ちひしがれ、嘔吐する小姓マルティン(大鶴佐助)。副隊長デ・ソト(栗原英雄)がそんな彼を励ますところに、ピサロの一喝が刺さる。渡辺さんの険しい眼光、雷鳴のような一声に稽古場中の息が止まった瞬間、タケットが立ち上がって芝居を止め、一気に緊張が解かれ、穏やかに指示する。そして、囚われの身となったアタウアルパとして、大階段の上に座っていた宮沢さんが降りて来て、そのやりとりを集中して聞く姿がなんとも印象的。
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さらに、ピサロが初めてアタウアルパと対話するシーンの稽古へと続き、黄金よりも太陽の子アタウアルパに惹かれ始めているピサロの心の動きを、鋭利な視線を放って豪気に、かつ俊敏に、多彩な表現で魅せていく。そして宮沢さんが醸し出す肝の据わった安定感には驚きを隠せない。初演で見せた神々しく透明感あるその姿に、さらに太い芯が備わったように感じられた。
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「ピサロ」あらすじ
西暦1531年。齢60を超えた粗野な成り上がりの将軍ピサロは、彼の人生の最後の遠征となるインカ征服への準備を始めた。集まった兵士は一攫千金を夢見る平民たち。そんな傭兵を含む167名を率いて、ピサロはペルー征服へと出発。
6週間をかけ、森をぬけ、2週間かけてアンデスを超える過酷な行軍の末に、数千人のインディオを虐殺し、自らを太陽の子と謳うインカの王アタウアルパを生け捕りにする。ピサロは、アタウアルパを釈放する代償として莫大な黄金を要求。そして、莫大な黄金を手にしたピサロとスペイン人たちは――。
PARCO PRODUCE 2021「ピサロ」は5月15日(土)~6月6日(日)PARCO劇場にて上演。