神秘的な森と湖に抱かれて、優しく穏やかに紡がれる世捨て人たちの人生賛歌『やすらぎの森』

カナダ・ケベックの人里離れた森で、愛犬たちとひっそりと質素に暮らす80代の男女の愛と再生を描いた『やすらぎの森』が、深緑の季節に日本に上陸する。

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『やすらぎの森』(C)2019 - les films insiders inc. - une filiale des films OUTSIDERS inc.
『やすらぎの森』(C)2019 - les films insiders inc. - une filiale des films OUTSIDERS inc. 全 16 枚
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カナダ・ケベックの人里離れた森で、愛犬たちとひっそりと質素に暮らす80代の男女の愛と再生を描いた『やすらぎの森』が、深緑の季節に日本に上陸する。

“人生80年”といわれたのは過去のこと。人生の時間は延び、終活やエンディングノート、葬儀の簡素化などが度々話題にのぼり、“第2の人生”といわれるように、その晩年においても多様な生き方が可能になってきた。自分の人生にどんな幕をおろすのか、もしくはまったく新たな人生の章を紡ぐのか、本作は詩情豊かな物語と映像世界を通じて示唆を与えてくれる。


カナダの名優たちが体現する、
世捨て人たちの最終章




森の湖畔にたたずむ小屋で、隠遁生活を送る年老いた3人の男性たち。ある日、画家のテッド(ケネス・ウェルシュ)が小屋の中でひとり息を引き取ってしまう。遺されたチャーリー(ジルベール・スィコット)と元さすらいのミュージシャン、トム(レミー・ジラール)のもとに、やがて、60年以上も精神科療養所に入れられていた女性ジェルトルード(アンドレ・ラシャペル)が加わる。

ジェルトードは「マリー・デネージュ」という新しい名で、おそるおそる森での生活をスタートさせ、第2の人生を歩み出す。時々、眠れない夜の話し相手となり、泳ぎ方を教えてくれたチャーリーと心を通わせるうちに、彼女は80歳にして初めて愛の喜びを知る。

『やすらぎの森』(C)2019 - les films insiders inc. - une filiale des films OUTSIDERS inc.
また、亡きテッドは、かつて地域に甚大な被害をもたらした山火事の伝説の生存者で、自らの被災体験を大量の絵に遺していた。その暗鬱とした筆致に自身の過去を重ねながら、次第に少女の頃のような瑞瑞しい感情を取り戻していくマリー。そんな中、再び山火事の危険が迫り、3人は“重大な決断”をすることになる。

『やすらぎの森』(C)2019 - les films insiders inc. - une filiale des films OUTSIDERS inc.
ジェルトルード/マリー・デネージュを演じたのは、カナダの演劇、映画、テレビ界で約70年のキャリアを築いたアンドレ・ラシャペル。ときに“ケベックのカトリーヌ・ドヌーヴ”とも形容された彼女は、ケベック人であることに誇りを持っていたという。本作をそのキャリアの引退作として選び、また遺作ともなった。

『やすらぎの森』(C)2019 - les films insiders inc. - une filiale des films OUTSIDERS inc.
マリーに惹かれていくチャーリーには、グザヴィエ・ドラン主演『神のゆらぎ』(13)のジルベール・スィコット。本作でカナダ・スクリーン・アワード主演男優賞にノミネートされた。また、同・助演男優賞を受賞したのは、ギターを弾き語るトムを演じたレミー・ジラール。『みなさん、さようなら』(03)で末期がんの父親を演じたことでも知られる。


愛と尊厳を感じさせる、詩情溢れる
物語と映像美に注目


『やすらぎの森』(C)2019 - les films insiders inc. - une filiale des films OUTSIDERS inc.
舞台となるのは、ケベック州の広大で緑豊かな針葉樹林の森と湖。荘厳さを感じさせ、来訪者を寄せつけないこの森は“存在しない者”として生きるには格好の場所だろう。冒頭、霧めいた湖で3人の世捨て人たちが泳ぐ姿は、まるで仙人のような隔世感が伝わってくる。

だが、やがて1人が欠け、新たなメンバーが加わる。少女時代に不当な措置によって精神科療養所に入れられ、人生のほとんどを奪われた女性だ。原作小説は、著者ジョスリーヌ・ソシエが自身のおばに捧げたもので、おばが16歳から亡くなる87歳まで精神科施設に追いやられていた事実から着想を得て、物語を書き上げている。

『やすらぎの森』(C)2019 - les films insiders inc. - une filiale des films OUTSIDERS inc.
ソシエの協力を仰ぎながら、ルイーズ・アルシャンボー監督が紡いだ物語は、「人生の晩年を迎えた世捨て人たちの物語ではありますが、『人生』や『歳を重ねる』ということだけに着目しているわけではなく、その中には希望や夢、そして愛があります。人生を楽しむこと、人生とは今です。失ったものは忘れて、とにかく『今を生きる』ということに感謝したいと思いました」と、自身でも振り返るものとなった。

“今を生きること”を最も感じさせてくれるのが、陽光注ぐキラキラとした湖でマリーがチャーリーに支えられて泳ぐシーンや、ろうそくの灯りがゆらぐ中で2人が触れ合うシーンだろう。そこには、物悲しさよりも愛と生命の光を感じさせる美しさがある。

『やすらぎの森』(C)2019 - les films insiders inc. - une filiale des films OUTSIDERS inc.
一方、元ミュージシャンのトムが弾き語るシーンは対照的だ。レナード・コーエンの「バード・オン・ザ・ワイヤー」やトム・ウェイツの「タイム」の歌詞と彼の心情がリンクし、“今”この瞬間の手応えを噛みしめているかのようで胸に迫る。


「不思議な映画体験」「生きる残酷さと救いが詰まっている」と圧倒される人続出


『やすらぎの森』(C)2019 - les films insiders inc. - une filiale des films OUTSIDERS inc.
映画レビューサイト「coco」が行ったオンライン試写会では、「映し出される自然の美しさと、どことない儚さ。しっとりゆったりと染み込んでいく」「センセーショナルな背景があっても雄大な自然と自由の前では小さく見える。不思議な映画体験」「あの森は、ただ美しくて見ているだけで癒されるような『やすらぎ』でもあり、他者との関係や今までの環境から逃れるための『やすらぎ』でもある」と、ケベックの深い森が醸し出す世界観に圧倒されたという声が相次いでいる。

「緊急事態宣言下で公開されるであろう今作は、真の意味で“自由な生き方”を教えてくれる」「人生を生きる残酷さと救いが詰まった佳作」と、“いま”だからこそ一層響いたというコメントも。また、「彼女(アンドレ・ラシャペル)の心身共にすべてを捧げた演技、命の輝きが眩しいくらい」「歌う事しかなかったトムの過去が気になった」など、ケベックの名優たちが演じたキャラクターにも称賛が集まっている。

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『やすらぎの森』は5月21日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開。

《text:Reiko Uehara》

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