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【映画と仕事 vol.8】飛天御剣流のつくり方! 『るろうに剣心』で日本のアクションを変えた男・谷垣健治

映画に携わる様々な人たちに話を伺う「映画お仕事図鑑」。今回、登場いただくのは、日本を代表するアクション監督として世界をまたにかけて活躍する谷垣健治。

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『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』(C)和月伸宏/集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』(C)和月伸宏/集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会 全 25 枚
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「アクション部のスタッフって、トレーナーというよりはカウンセラーに近い」


『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』(C)和月伸宏/集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』
――ここから、具体的に映画のアクションシーンの作り方についてお聞きしていきたいと思います。制作側から谷垣さんにアクション監督としてオファーが来たら、その後、どのようにしてアクションシーンを作り上げていくのでしょうか?

『るろ剣』を例に説明すると、アクション練習にも2種類あるんです。いわゆる“アクション練習”と“リハーサル”なんですが、前者は俳優たちとコラボレーションをする上で、その人がどういうことが得意でどんなことが苦手かを見させてもらうための時間ですね。俳優の個性を理解し、同時にこちらの考え方を理解してもらうための時間でもあります。演技における“本読み”に近いものかもしれません。

まずは基本的な動きを練習しつつ、そのキャラクターの特徴的な動きを再現してみます。僕らの言葉で“おかず”という言い方をするんですが、そのキャラクターに合ったちょっと派手な動きを探ってみたりするんですね。もちろん、そこでフィジカル能力を上げてもらうことも大事ですが、とはいえ、フィジカルの能力なんてそう簡単には上がりませんから、むしろその人を理解し、得意な部分をすごく伸ばしてもらうというのがここでの主な目的ですね。

「身体がやわらかい」「ジャンプ力がある」「以前、こんなスポーツをやっていた」――そういったことを踏まえて、剣を持ってもらっていろんな動きをしてもらい、それをカメラに収めます。1日で2時間くらいやったとして、それを1分か2分くらいの動画に編集して監督や俳優本人に見てもらいます。僕らがあれこれ言うより映像に写ってるもの、それが全てですから。

そうすると、それを見て自分がイケてるかイケてないか? もっと言うと、自分がそのキャラになれているか否かがわかるわけです。それを受けて、本人も次の練習の機会までにいろいろ考えて、練習してきて、そうすると次の練習の機会が発表の場になるんですね。そこでまた新たなことを試して、考えて…というのを繰り返していきます。

監督からも「この動き、いいね」「カッコいい」「すげー!」とかダイレクトな反応が返ってきます(笑)。それを受けて、こちらも「じゃあ、この動きを取り入れよう」「この動きをもっと伸ばしてみよう」となるわけです。

『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』(C)和月伸宏/集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』
そうやって、徐々に立ち回りも長くなっていくんですけど、そうすると当然、ミスも出てきます。そのミスをした瞬間に本人のクセや個性が見えてきて、それがまた面白いんですね。こっちで全てを決めてしまうと、決め事にしかならないけど、その人から何気なく出てくるものがキャラクターに活きてきたりするんです。例えば左之助(青木崇高)であれば、楽しくなると舌を出すんですけど、そういうクセや個性を見つけて取り入れるようにしています。

そうしているうちに、そろそろロケハンも終わって、セットの図面もできてきて、徐々に立ち回りも固まってきます。それを役者さんに移していく作業がリハーサルですね。アクション練習からやっている動きではあるんですけど、それをきちんとした立ち回りとして前後を作り上げていく。微調整しながらしっかりと形にしていきます。

よくある勘違いで、アクション練習というと、役者さんたちが一列に並んで素振りをして…という図を想像する人が多いんですが、そういうことじゃないんです。別に剣道の大会に出場するわけじゃないんでね。大友監督がよく言ってたのが「アクション部のスタッフって、トレーナーというよりはカウンセラーに近いよね」ということ。俳優がキャラクターに近づくための相談を受けつつ「じゃあ、ここまでできたので、次回はこんなことをしてみましょうか?」と処方せんを渡すという感じですよね。

もちろん、本読みであったり、衣装合わせであったり、役者が役に近づいていく機会はいくつもあるんですけど、『るろ剣』に関してはまずアクション練習を通じて、役者それぞれがキャラクターにアプローチしていきます。

『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』(C)和月伸宏/集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』
――『るろうに剣心』の場合、原作の漫画があり、剣心であれば「飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)」という流派の剣術を使い、龍槌閃(りゅうついせん)、九頭龍閃(くずりゅうせん)などの必殺技が登場します。リアリティとの兼ね合いなども含めて、そうした必殺技の存在はどれくらい意識されてアクションを作っていったんでしょうか?

意識しつつ、意識しなくなることもあったりします。ひと通りは試してみるんですよね。ただ漫画なので、実際にやってみると、ほとんどは“言葉負け”してしまうんですよね。

――原作では文字で「飛天御剣流 龍槌閃」と情報が出てきます。

技としては、大きく飛んで斬るという感じですよね。動き自体は「龍槌閃!」と言わなきゃ、立ち回りの中で普段から普通に使われてしまってる要素なので、そこは少し見せ方を変えるようにしました。龍槌閃であれば、必ず「POV(=Point of View)」――つまり、相手側の目線で撮るようにしました。画としては、剣心がこちら側(=カメラ)に向かって高いところから飛び降りて斬り伏せてくるイメージですね。そうすることで、映画を観るお客さんは、そのアングルも含めて「龍槌閃」として認識してくれるんですよね。子ども向けの番組で毎回、必殺技のシーンは同じ画が使い回されるのと同じです。そうやって“見せ方”で工夫していかないといけない部分は多かったですね。

実際にアクションで素で再現できるのはこの「龍追閃(りゅうついせん)」と「龍巻閃(りゅうかんせん)」くらいじゃないですかね? あれは相手の攻撃をかわして打ち込む技なのでできますけど。

「九頭龍閃」は大変でしたね(苦笑)。漫画では「一、二、三、四、五…」って漢字で出ますけど、そういう漫画やアニメからのアダプテーション(脚色)、落としどころを探るというのはひとつ、大きなテーマでした。

漫画、アニメ、小説、映画…それぞれのメディアの特性によって、同じシーンでも描き方は当然、変わってくるわけです。漫画では「一、二、三、四、五、六、七、八、九」と描かれていますけど、もしかしたら漫画というメディアで伝えられる“動き”の限界があったのかもしれないし、それは原作者の和月伸宏先生が実写化したとしても、漫画とは違う表現になっているかもしれない。最終的には「九頭龍閃」は実直に九方向に打ち込むのをやってますが、実写ではそれが力を持つんですね。

『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』(C)和月伸宏/集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』
実写版『るろうに剣心』で大切にしたのは、原作に敬意を払うと同時に、原作のコマとコマの間に存在するであろう細かな動きをこちら側で補い、作っていくということでした。原作と実写が補完し合うのが、一番幸せな関係なんじゃないかと思いますね。原作を大切にしつつ、とはいえ原作に引っ張られ過ぎないで、きちんとフィジカルで見せる。そうすることで、原作を読んでいる人も「これは九頭龍閃かな?」とか感じてもらえるんじゃないかと。

――『るろうに剣心』シリーズを見て、アクションに関わりたいと考える若い人たちも多いと思います。今後、日本の若い人材に期待することなどはありますか? 谷垣さん自身、今後、やってみたいことなどがあれば教えてください。

アクションというのは、どこの国の人が見ても伝わるという強みがあります。もちろん、日本映画でもいろんな人材が出てきてくれたらいいなと思いますし、僕が出会ったような個性豊かなアクション監督――それぞれがカラーを持って、観客が「このアクション監督の映画なら観たい!」「このアクション監督なら信用できるから観よう」と思ってくれるような存在が育ってきたらいいなと思います。

ただ、映画界全体の話で言うなら、“日本映画”という枠にとらわれずに、どこにでも行ってほしいなって思います。僕自身、ちょっとカッコつけて言うと「お金とカメラがあるので撮ってください」というところに身ひとつで行けたらいいなと思っています。実際、この10年、身ひとつでいろんなところでやってきて、そうするといろんなところにネットワークができるんですね。互いの交流が深い分、意外とスタント、アクションの世界なんて狭いんですよ。

実際、今回の映画でやってたチームはいま、別の作品のためにベルリンに行ってるし、僕もこれから中国、バンクーバーでの撮影が控えてます。日本映画はもちろん大切ですけど、そういうボーダーにとらわれずに、どこにでも行ってできたらと思っています。

『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』(C)和月伸宏/集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
【プロフィール】

谷垣健治(たにがき けんじ)

1970年生まれ。奈良県出身。倉田アクションクラブでアクションを学び、1993年に香港に渡る。ドニー・イェンら現地のアクション監督の下で学び、アクション監督となる。「香港動作特技演員公會 Hong Kong Stuntman Association」に所属する唯一の日本人。主な参加作品に『るろうに剣心』シリーズ、『モンスター・ハント 王の末裔』、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(2021年7月全米公開)など。2020年には監督作『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』が公開された。
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《text:Naoki Kurozu》

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