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【映画と仕事 vol.9 前編】Netflixの人気作にも参加! “ワードローブ・スーパーバイザー“として活躍中の日本人が語るアメリカの撮影現場

映画の世界に携わる人たちにお仕事の内容について聞く「映画お仕事図鑑」。連載第9回目となる今回、ご登場いただくのは、ニューヨークで“ワードローブ・スーパーバイザー”として活躍中の増田沙智さん。

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低予算インディーズ映画のスタッフから積み重ねたキャリア



――その後、どういう経緯で現在のワードローブ・スーパーバイザーのお仕事をするようになったんでしょうか?

大学在籍中も学内の「衣装部」でインターンのようなことをしたり、教授に付いて、学外で行われる舞台公演やファッションショーの手伝いなどをさせてもらっていました。ただ、舞台はなかなかお金にならないということ――好きではあるんですが、仕事にするとなるとちょっと難しいなということを思い始めて、それなら映像系のお仕事はできないか? ということを考えるようになりました。

でもどうしたら映像の世界で衣装の仕事をできるのか? コネクションもないし、教授も舞台関係の人間は知っていても映像の関係者は知らないということで…。そこで、卒業の少し前の時期から、とにかくいろんな人にメールをしました。インターネットで映像関連の会社などを検索して、連絡先があった場合は「インターンでいいのでお仕事をさせてください」と。200通くらいはメールしたと思います。

中には返信をくださる方もいたんですが、タイミング、それから何よりもビザの問題がすごく大きくて、なかなか仕事にはたどり着けなかったんですよね。いまにして思うと、先方からしたら、雇いにくい存在だったんだろうなと思います(笑)。

先ほども話に出たOPTがあったので卒業後も一応、仕事をすることはできて、大学を出て1~2か月が経った頃かな? ほぼ無給なんですが、インターンのような形でインディーズ系のある映画の衣装デザイナーさんからたまたま声をかけていただいて、仕事をさせてもらったんです。

ただ、その作品が急にバジェット(予算)がなくなって、シャットダウンしてしまい…(苦笑)。また仕事を探さなきゃと思ってたら、1か月後にその作品の撮影続行が決まりました。とはいえ、デザイナーやアシスタントは辞めることになったので、私の役割も終わりかなと思っていたら、その作品のプロダクション・デザイナーの方から「あなた、こないだまでよくやってくれていたから、引き続き衣装の仕事を、スーパーバイザーとしてやってくれないか?」とお話をいただいたんです。正直、私は実際の衣装の仕事について、まだほとんど何も知らない状態だったんですが、やる人が誰もいない状況で「あなたしか頼める人がいないから」と言われまして「引き受けますけど、現場でのアドバイスが必要です」と伝えました。彼女が「私も現場で指導するから大丈夫!」と言ってくれたこともあり、引き受けたんですが、現場に行くと彼女はいなくて…(苦笑)。もうどうしようかと毎日、半泣き状態の中で仕事をしてましたね。

――いきなり映画の現場で仕事を任されて…。

当然なんですが、映像作品の場合、シーンごとのつながりを理解しておかないといけないんですけど、そんな基本的なことすらちゃんとできなくて「どこまで撮影したの?」「今日はどこから?」みたいな感じで…。半ば、投げ出された状態で、資料を見つつ「間違ってたらどうしよう? いや、誰か何か言うだろう」という気持ちで手探りで進めていきました。

最初の現場がそんな感じで、その後はまたアルバイトをしながら、次の仕事を探しました。この業界、コネクションが大事で、人の紹介で仕事を得ることが多いんです。衣装の仕事でいうと、事務所に所属してるのはデザイナーだけで、それ以外はほぼフリーランスなんですね。最初の2~3年は、インディペンデント系の映画やTV作品の「衣装」の仕事をやっていました。そこで自分なりにコネクションを増やしてやっていく中で、ユニオン(組合)に入ることができて、その後も徐々にコネクションを広げていきました。

スタジオ内の衣装ルームスタジオ内の衣装ルーム
――当時は「衣装」として、具体的にどういったお仕事をされていたのでしょうか?

インディペンデントの映画の現場では「スーパーバイザー」もしくは「デザイナー」という肩書でした。その方がビザが取得しやすいんですね。それでビザを取得し、ユニオンにも加入したんですが、ユニオンから請け負う仕事はまず「コスチューマー」というポジションから始めないといけないんですね。

――「コスチューマー」という仕事は、最初に説明いただいた「衣装」チームと「ワードローブ」チームかという区分けで言うと…。

衣装の管理をする「ワードローブ」チームに属している仕事ですね。「ワードローブ」を統括するスーパーバイザーの下で働いています。基本的にセットにいて、俳優さんの衣装に関するお手伝いをするというポジションですね。

細かいんですが、あるシーンが終わって休憩に入って、役者さんが衣装のボタンを外したとして、次のシーンを撮る際にはちゃんとボタンを締めないといけない。そういう、シーンごとのつながりの管理・チェックもします。つながりに間違いがないように、衣装やモニターに映っている写真も撮ります。

規模にもよりますが、大きなスタジオ、メジャープロダクションだとフルタイムで働いているコスチューマーは3人ほどいまして、1人がメインの俳優さんの担当をし、あとの2人がほかの俳優さんたちの衣装まわりを担当するといった感じで振り分けられるんですね。

具体的な仕事としては朝、担当の俳優さんが着用する衣装を準備すること。たまに洗濯をすることもありますね。あとは現場で俳優さんが寒かったら、コートを持っていく。ヒールを履いている女優さんに休憩中に履くスリッパを渡したり…基本的に、衣装に関する身の回りのお世話をする仕事ですね。

――増田さんも、ユニオンに加入してからは、まずは「コスチューマー」としてキャリアをスタートさせたということですね。そこからなぜスーパーバイザーを務めることに?

あるシリーズ作品の現場にコスチューマーとして入っていたんですが、たまたまスーパーバイザーが解雇されるということが立て続けに起きたんですね。そこで「スーパーバイザーをやってくれ」と言われまして、仕方なくやることになったんです。

そのときは現場でコスチューマーの仕事をこなしつつ、スーパーバイザーの仕事もしなくてはならず、セットにパソコンを持ち込んであれこれ仕事をしつつ、役者さんのケアもするという感じでした。

――現場で俳優さんのお世話をしつつ、衣装、人、お金、スケジュールなどの管理・統括も行なうという…かなり大変そうですね!

大変でしたね(笑)。そのまま2回ほどスーパーバイザーをやったんですが、私としては決してやりたくてやっているというわけでもなかったんです。ただ、デザイナーさんから「あなた、向いてる。やるべきよ」と言われまして…。自分としては「いや、私なんて全然です」と思ってたんですよね。もうちょっとユニオンの仕事でコスチューマーとして経験を積みたいなと。

そうして、また新しいスーパーバイザーが来たんですが、その方もいろいろあって解雇となりまして…。

――また解雇(苦笑)!?

こっちはわりとすぐに人が入れ替わるんですよね。きちんとルールがあって「第一段階は口頭注意をしてそれをプロデューサーに文書で報告」みたいに手順を踏んでいくんですが、段階が進むと、容赦なく解雇となってしまうんです。

結局、そのスーパーバイザーも辞めることになり、また私に「やってくれ」と声がかかったんです。ただ、その時はコスチューマーとして現場で役者さんとも密な関係性ができていて、役者さんの指名で仕事をしていたので、現場から「いま、サチを引き抜くのは無理だ」という声が出て、現場に残ることになり、結局、スーパーバイザーの下でアシスタント的な仕事をしていたトラック・コスチューマーというポジションの人間が、スーパーバイザーに昇格することになりました。

ただ、それもなかなかうまくいかず…。それはあるドラマのシーズン2の撮影だったんですが、デザイナーから「お願いだからシーズン3はあなたがスーパーバイザーをやってくれ」と言われまして。そこで「もう逃げられないな…。そういう運命なのかな?」と思い始めましたね(笑)。これはきっと私に「やれ」ということなんだろうと引き受けまして、それが4年ほど前の話です。それから現在まで、スーパーバイザーとして仕事をしてきました。

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《text:Naoki Kurozu》

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