アニメ界のアカデミー賞とも言うべきアニー賞で、ディズニーやピクサーなど競合ひしめく中、今年最多8部門に輝いたNetflixオリジナル映画『ミッチェル家とマシンの反乱』。他のアニメにはない本作のユニークさとはーー。
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コロナ禍の影響も受け、劇場公開ではなくNetflixオリジナルとして配信となった『ミッチェル家とマシンの反乱』は、あの大ヒット作『スパイダーマン:スパイダーバース』のフィル・ロード&クリス・ミラー製作。監督マイケル・リアンダ自身の体験をエッセンスに、親子関係の再生をロボットたちの反乱に立ち向かう姿を通して描くコメディアニメーションだ。
主人公ケイティの視点で描かれるポップな世界
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『スパイダーマン:スパイダーバース』もコミックとアニメの融合が印象的だったが、本作でも冒頭SONYのロゴからすでにコミックから飛び出して来たような、随所に散りばめられた手書きアニメのような効果が何といっても印象的。虹やハート、恐竜など、3Dアニメでありながら敢えて「手書き感」を追求しているのが本作の特徴だ。
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VFX部門のマイケル・ラスターによれば、キャラクターや背景も、細部に筆で描いたような影等の効果を付けることで温かみのある質感を演出し、できるだけ手書きの原案に近づけたそうだ。また、映画製作者を目指す主人公ケイティの感情が動くシーンでは、ケイティから見える世界を視聴者も感じられるような創りになっているのも面白い。楽しいことや悲しいことがあれば、ケイティ視点のポップな世界にぐんぐん色付けされていくのも観ていて楽しいポイントだ。
変わった家族が世界を救う!?
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ストーリーとしては変な家族が、ひょんなことからマシンの反乱に立ち向かうというというのは一見「クレヨンしんちゃん」シリーズのような展開だが、「クレヨンしんちゃん」の野原家とは違うのは家族間の関係、特に父親と主人公ケイティの仲があまり良くないこと。
父親はいつまでもケイティの事を子ども扱いしがちで、ケイティは自分のやっている映画製作を父親にも認めてほしいがそれが叶わずできるだけ早く家から出たいと思っている。母親と弟もそれぞれコンプレックスを抱えており、機能不全家族とまでは言わないものの、どうにも歯車がかみ合わないバラバラな家族…。何か華々しい取り柄があるわけでもない、そんな家族が、人類最後の砦としてマシンの反乱に挑むのだが、闘い方も破天荒! 後半のブサカワな愛犬マンチの思いがけない活躍にも注目だ。
オリヴィア・コールマン演じるヴィランに共感
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この作品が単なる「家族だからこそやっぱりいいよね」と言うだけに留まらないのは、オリヴィア・コールマン演じるヴィランことAIの「パル」の存在が大きいとも言える。新型マシンに挿げ替えられ、これまで長らく愛されてきたと思っていたパルはお役御免に…。そんなことをするなら、AIとマシンたちで人間をお役御免にしてやる! と反乱を起こすのだが、この行動論理そのものが何とも人間的。家族であろうとなかろうと、親しき仲にも礼儀あり。相手の尊厳を守ることの意義も間接的に伝えてくれる。
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そして、テクノロジー=悪という二項対立ではなく、その価値も充分描く奥深さも面白さの一つだ。スマホに夢中で家族のだんらんが台無しだと嘆く父親、Wi-Fiが無ければ暴動レベルで混乱する人類など、テクノロジーに依存する姿を皮肉たっぷりに描きつつも、ストーリーが進むに連れテクノロジーのポジティブな可能性にちゃんと触れる点も見どころだ。
単なるドタバタアニメではなく、幾重にも工夫されたディテールに唸る。片時も視聴者を飽きさせない工夫が随所に散りばめられており、気づけば約2時間夢中で観てしまうこと間違いなしだ。
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