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『カモン カモン』ホアキン・フェニックス&新星ウディ・ノーマンの対話に癒される理由とは?

ホアキン・フェニックスと新星俳優ウディ・ノーマンが共演、ある日突然、共同生活を送ることになった伯父と甥っ子の日々を描いたマイク・ミルズ監督の『カモン カモン』に、感銘を受けた声が続々と上がっている

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『カモン カモン』(C) 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved. 
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「未来は考えもしないようなことが起きる
だから先へ進むしかない
先へ 先へ 先へ 先へ(C'mon C'mon C'mon C'mon)」

ホアキン・フェニックスと新星俳優ウディ・ノーマンが共演、ある日突然、共同生活を送ることになった伯父と甥っ子の日々を描いたマイク・ミルズ監督の『カモン カモン』の、最も印象的なセリフだ。確かに人生は“想定外”の出来事だらけ、映画のような新型ウイルスのパンデミックが何年も続いたり、もう二度とごめんだと思っていた侵略戦争が実際に起きてしまったり。起こりそうだと思ったことは絶対に起こらず、思いがけないことばかりが起きるもの。

だからとにかく前を向いて「先へ先へ進むしかない」と、9歳の少年ジェシーが録音マイクに向けて語る“C'mon C'mon”がタイトルになった本作には、「人生ベスト入り」「忘れたくない傑作!」「涙止まらない」「何年経っても、何度でも観たい」といった絶賛の声がSNSで上がり、モノクロームの映像や語られる言葉たちはもちろん、「ひたすら対話を続ける映画」「マイク・ミルズ監督の視線がとても温かい」など感銘を受けたという声が上がっている。


マイク・ミルズ監督が自身の子育て体験を反映


『人生はビギナーズ』で晩年にゲイをカミングアウトした父、『20センチュリー・ウーマン』で自由な魂を持ちながらミルズ監督を育てた母を描き、イラストレーター、グラフィックデザイナーなどマルチアーティストとして知られるマイク・ミルズ監督。

本作は、妻でアーティスト・映画監督・俳優であるミランダ・ジュライとの間に2012年に生まれた我が子の子育てを通じて監督自身が直面した“想定外”の出来事にインスパイアされた、子どもと大人が、人と人として対話する物語。『ムーンライト』『レディ・バード』『ミッドサマー』など話題作を世に送り出す映画製作会社「A24」と『20センチュリー・ウーマン』に続く2度目のタッグであり、作品に対する安心感と信頼は申し分ない。

ニューヨークを拠点に全米各地を取材して回るラジオジャーナリストのジョニー(ホアキン)は、妹ヴィヴ(ギャビー・ホフマン)が家を留守にする間、9歳の甥・ジェシー(ウディ・ノーマン)の面倒を見ることになる。ヴィヴの夫でジェシーの父親ポール(スクート・マクネイリー)が精神のバランスを崩してしまい、つきっきりで世話が必要なためだった。

ジョニーとヴィヴの兄妹は母の介護と死をきっかけに以前よりもさらに疎遠になっており、伯父と甥っ子とはいえ独身のジョニーにとっても、9歳のジェシーにとってもお互いが他人のような存在だ。そんな2人が同じ家で過ごし、町や海辺の音をマイクで拾ったり、想像力たっぷりのごっこ遊びをしたりする。あるときは、ジェシーが一瞬視界から消え、目の前が真っ暗になるような恐怖を味わったことも…。こうした2人の日々は、日頃子どもたちの声をたくさん取材しているはずのジョニーにとって驚きの連続。そんなとき、ジョニーは“母親”としてのヴィヴを頼りにする。

ミルズ監督といえば、『人生はビギナーズ』でも、『20センチュリー・ウーマン』でも実際の書籍が劇中で大きな意味を持って引用されていたのが印象的で、特に後者は女性解放運動の盛り上がりの最中でフェミニズム関連の書籍ばかりだった。

本作でも印象深いものの1つに、ジャクリーン・ローズによる「母たち:愛と残酷さについて/Mothers:An Essay on Love and Cruelty」(原題)がある。母というものは「究極の生け贄」で「すべてを解決する不可能な任務を負っている」といった言葉に、うなずきたくなる人は多いだろう。

“父性の不在”が長らくあった家で息子をひとり育ててきたヴィヴは、メンタルイルネスを抱える夫を支えながら、利発なジェシーについて報告する(愚痴る?)兄ジョニーの電話にも対処する。その合間にきっと、自分の仕事もしている。「仕事と子育て、どうやって両立していますか」が、どれほど野暮な問いかが見えてくる。世の中の母に対する、リスペクトがここにある。

実際に2人で電話をかけ合って撮影したというヴィヴ役のギャビーとホアキン演じるジョニー、そしてウディ演じるジェシーが醸す親密さは丁寧な関係作りから生まれたものだ。ジェシー役に大抜擢され、イギリス人ながら「あまりに説得力がある」アメリカ英語のアクセントを披露したウディとホアキンは撮影前から交流し、その上で順撮りをしながら自然で誠実な関係性を構築してきたことがスクリーンにはっきりと刻まれている。ティモシー・シャラメが憧れというこの新星俳優は、ホアキンから学んだものも多いはずだ。


世界が抱える問題を子どもたちの声が炙り出していく


「ジェシーをより理解したいと思ったとき、彼(ジョニー)はジェシーの遊びに参加し、その話に耳を傾けるようになる。それは僕自身の経験に基づくもの」とミルズ監督は言う。そして、ホアキンに対しても「“ちょっと、話していいかい?”という空間を作り出す力がある」とも語っている。子どもと対等であろうとすることは簡単ではない。話をまず聞くこと、向き合うこと、その姿勢が何気に最も難しい。

子どもたちの世界に寄り添うには、自分もそこに飛び込んでみないと始まらない。本作の見どころの1つである、子どもたちへの実際のインタビューはまさにその最たるもの。本作では冒頭から、ミルズ監督やホアキンがインタビュー取材した全米各地の9~14歳の子どもたちの“生の声”が聞こえてくる。「いま、現実社会で起こっていること」についてどう受けとめているのか、未来についてどんなことを思うのか、信頼によって生まれた対話が(たとえ、ちょっぴり“よそ行き”の言葉であっても)現実への危惧や未来への希望として生々しく響いてくる。

実はロサンゼルス、ニューヨーク、デトロイト、ニューオリンズの子どもたちから話を聞く中で、ニューオリンズのインタビュー対象者だった9歳のデバンテ・ブライアントが2020年夏、街角に座っていただけなのに銃の流れ弾に当たって亡くなる、という事故が起きている(本作はデバンテに捧げられている)。

ある伯父と甥っ子、兄と妹、母と子の小さな小さな物語でありながら、子どもたちの声は暴力や分断から、気候変動といった世界中で抱えている問題を炙り出していく。こんな世界で、ジェシーたちは大人にならなければならないのだ。子どもたちを大切にしない社会に、未来はない。彼らが生きる未来に対して責任のある大人たちが現状、まったくもって“大丈夫”じゃない。極めて重要で辛辣な問題提起は全編を貫く温かな愛とモノクロームによる寓話性でほどよく、セルフケアにも効く作品となっている。

『カモン カモン』はTOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開中。

《上原礼子》

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。レイア姫は永遠の心のヒーロー。

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