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【映画と仕事 vol.17】『ハケンアニメ!』映画オリジナルのあのシーンはどう生まれた? 脚本家・政池洋佑が語る、「作る」だけでなく「届ける」ことの重要性

直木賞&本屋大賞受賞作家・辻村深月の人気小説を原作に、アニメ制作の現場で働く人々が織りなすドラマを描いた映画『ハケンアニメ!』が先日、公開を迎えた。

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直木賞&本屋大賞受賞作家・辻村深月の人気小説を原作に、アニメ制作の現場で働く人々が織りなすドラマを描いた映画『ハケンアニメ!』が先日、公開を迎えた。

計441ページ(単行本)におよぶ原作小説を約2時間の映画として脚色したのが、ドラマ「死役所」、「レンタルなんもしない人」、「あのコの夢を見たんです。」など、一風変わった設定やシチュエーションの異色ドラマを数多く手がけてきた脚本家の政池洋佑である。

新卒で一般企業に就職するも突如、サラリーマンとしての生活を捨て、脚本家を志したという政池だが、どのようにしてこの世界に入り、年に数本の連ドラを任される人気脚本家となったのか? いまの時代に、脚本家に必要とされる視点や能力とは? たっぷりと話を聞いた。

――まず、政池さんが脚本家になられるまでの道のりについて伺ってまいります。大学卒業後、まず企業に就職されて、その後、エンタテインメントの世界に入られたそうですね。学生時代から脚本家になりたいという気持ちはあったんですか?

いや、なかったですね。ただ、TVドラマは好きで、ドラマのプロデューサーや監督になりたくて、就職活動でTV局は受けていました。ただ、選考はわりと進むんですけど、最後の最後で落ちるんですよ。たぶん、薄っぺらさが伝わるんでしょうね…(苦笑)。

実際、薄っぺらかったと思います。「ドラマが好き」と言いつつも、僕よりももっと好きな人はたくさんいたと思いますし、なんとなくノリだけで面接は進んでたんでしょうね。結局、TV局は全部落ちたんですけど、就活で受かったUSENで新卒で働き始めたんです。 

そこで毎朝、1時間ひたすらバナーの確認をするといった仕事をしてまして。1時間ずっと「F5」ボタンを押し続けて、特定の広告が何回出たのかをカウントするんですけど「これはつらいぞ…」と(苦笑)。

僕、大学の頃にママチャリで日本縦断をしたことがあるんですけど、その頃の親友がTBSで働いていたんです。そのつながりである日、音楽番組の収録を見学させてもらったんですけど、なんて楽しそうな世界なんだろう!って。大学時代は2人ともあんなに楽しそうだったのに、一方はいまもキラキラ楽しそうにしてて、俺は「F5」を延々と押し続けてて…。

加えてその頃、大失恋をしたんですね。そのイキオイで会社を辞めて「脚本家になろう」と思ったんです。

――会社を辞める時は、この先、生きていく自信はあったんですか?

いや、完全なノリですね。当時、付き合ってた彼女にフラれて「絶対にあいつを見返してやる!」って感じでそのままノリで辞めちゃいました(笑)。いや、こう言いつつ、僕はもともと、ものすごい安定志向なんですよ。メチャメチャ貯金するタイプだし。なのにイキオイで辞めちゃったんですね。つくづく、いろんな歯車が狂った結果として、いま、ここにいるんだなと思いますね(笑)。

だから『ハケンアニメ!』を書くときも、主人公の瞳に感情移入できる部分は大きかったです。彼女は大学を出て、県庁で働いていたのに、退路を断ってアニメの世界に飛び込んでくるじゃないですか。自分自身を重ねながら脚本を書いていました。

――会社を辞められて、その後、有名な放送作家の元に弟子入りしたと伺いました。

そうです。当初から脚本家を目指してはいたんですが、構成作家にも興味があって一度、そちらも勉強してみたいなと思って、放送作家さんの弟子として働き始めました。

――その後、すんなりと構成作家に?

そうですね。構成作家というのはわりと人数が多い業界なんですね。いまも僕は朝の情報番組で仕事をさせてもらっていますが、わりと早い段階からいくつかの番組に入れましたね。

――構成作家のお仕事というのは、ドラマや映画の脚本家とは全く違うものですか?

違うと思われる部分が多いと思いますけど、僕は構成作家であることが、脚本を書く上ですごく活きているなと感じることが多いです。

『ハケンアニメ!』もそうですね。今回の原作小説を読むと、3人の主人公たちが少しだけ時系列がずれているところで奮闘していて、それぞれがすごく良いセリフを口にするんですよね。それを俯瞰で見て「このセリフは絶対に大事にしなきゃ」とか「このシーンは大切だな」というふうに組み替えながら1本の映画として“構成”していくんです。

僕はこの“構成力”が、脚本家として自分が得意な部分なのかなと感じていて、おそらく今回、僕を起用してくださった東映の須藤(泰司)プロデューサーもそこを評価してくださったんじゃないかと思います。

――構成作家が具体的にどういうお仕事なのか詳しく説明していただけますか?

やることはメチャクチャいっぱいあります。それこそ番組の企画書を書いて、その企画を会議で通して…、といったこともしますし。

先ほどもお話した映画やドラマ脚本の仕事との類似という部分で言うと、例えば、ある俳優さんのことを、情報番組で紹介するとします。「昨日の映画のイベントに出席しました」とか「過去にこういう作品に出演しています」とか「インタビューの映像があります」とかいくつも“素材”があって、それらを決められた時間の中で、どういうふうに見せたら視聴者の興味を引くことができるか? というのを考えます。

「オリンピック」であれば、「競技の映像」、「過去の映像」、「表彰式」や「インタビュー」の映像があって、それらをどういうふうに組み合わせて、どういうふうにVTRを終わらせたら、一番面白いか? カタルシスを感じられるか? といったことを考える仕事ですね。素材は決まっているので、“ゼロ”から“1”を作ることはできないんですけど、素材を並べて魅力的なVTRを作っていくということをやります。

――構成作家として仕事をしつつ、どのように脚本家にシフトしていったのでしょうか?

まずはシナリオセンターというところに通ってみました。その後、賞に応募したりもしたんですが、なかなかそこからは仕事につながらなかったんですよね。ただ、ある幸運な出会いがありまして…。

サラリーマン時代にお世話になっていた先輩がいて、その人から「昼間に西荻窪で飲もう」ってずっと誘われてたんですね。最初のうちは何度か断ってたんですけど、5回目くらいにようやく行ったんです。そこになぜかリンボーダンスを踊る人たちがいて(笑)、そこで先輩に「お前も踊れよ」と言われて僕も「イェーイ!」ってメッチャ踊ったんですけど、なぜか先輩たちはすぐに帰っちゃって、せっかくリンボーダンスを踊ったのに、ひとりで寂しく飲んでたんですよ(苦笑)。

――なかなか酷い展開です…。

「もう帰ろう」と思ったら、隣に座ってた2人組の女性が「さっき踊ってたよね?」と話しかけてくれて、ひとりがドラマのAPをやっている方で、もうひとりは脚本家の大島里美さん(※「1リットルの涙」、大河ドラマ「花燃ゆ」など)だったんですよ! 僕は「1リットルの涙」が大好きだったので「えぇっ! 大島里美がいるよ! 嘘でしょ?」って感じで(笑)。

「こんなチャンスはない!」と思って、そこから親しくさせていただいて、自分が書いたシナリオを送って読んでもらったり、一緒に飲みに行ったりするようになって、ある時、大島さんのピアノの発表会に行ったら、そこでテレ東のプロデューサーの方と知り合って、その出会いがきっかけで、脚本家として連ドラデビューすることになったんです。

いま振り返ると、あそこでリンボーダンスを踊ったことがデカかったなって思います。リンボーダンスで人生変わりましたから(笑)。だから、若い脚本家の人と話をするとき、「何かあったら、自分から動けば人生変わるかもしれない」ってことはよく言いますね。

――脚本家の金子ありささん(「恋はつづくよどこまでも」、「中学聖日記」など)に師事されていた時期もあったそうですね?

そうですね。金子さんは大島さんの先輩で、大島さんから「いま、金子さんが弟子を募集してるけどやらない?」ってお話をいただいて、「やる!」と食い気味に行きまして(笑)、金子さんの下で1年ほど修行させていただきました。

金子さんは本当に優しくて面倒見がよくて、とにかく脚本会議などの現場に常に連れて行ってくださって、そこで、僕が考えたプロットも発表する時間を持たせてくれるんです。もちろん僕のプロットなんて1ミリも使われないんですけど(苦笑)。

まず会議で、金子さんがプロットをどうやって練り上げていくか? というシナリオ術と会議術を見ることができて、さらに会議の後にカフェで1~2時間ほど、金子さんが僕のプロットの何が悪いのか? どうしたら良くなるかということをマンツーマンで指導してくださるんです。それは本当に貴重でありがたい時間でした。

その時のメモは「一生忘れちゃいけないな」と思って大切にとってあるし、いまでもたまに見返してます。「あぁ、金子さん、このことを言ってたんだ!」って当時はわかってなかったことが理解できたりしています。

――そもそも「脚本家になろう!」と思ったのはなぜだったんでしょう? 映画やドラマは昔から好きだったんですか?

好きでしたね。ただ、学生時代にそういう創作活動は全くやってなかったんです。さっきも言いましたけど、学生時代にやったことと言えば、ママチャリで日本縦断ですから。後は遊び歩いてました。だから我ながら、よくこの仕事をやれてるなぁって思います。

僕は「自分に才能がない」と認める才能があって、そのぶん、吸収力はハンパないと思うんです(笑)。他人が作った面白いストーリーから学んで、自分のものにしていくのが得意なんだと思います。いまでもいろんな作品から勉強させてもらって、自分の力にしていますね。

――好きなドラマや影響を受けた作品はありますか?

ドラマは好きでわりと何でも見てましたけど「やまとなでしこ」とか「マイ ボス マイ ヒーロー」、映画だと『耳をすませば』とかメチャメチャ好きでした。クリエイターで言うと古沢良太さんとかは本当にすごいなぁと思います。

ただ、さっきも言いましたけど、僕の武器ってたぶん「普通」であることなんですよね。ドラマがメチャクチャ大好きで、メチャメチャ見ているという人もいるじゃないですか? でも、僕は「普通」に好きで、「普通」に見てるんですよね。だから就活の時、TV局を落ちたんだと思いますけど、それは弱点でもありつつ「普通の感覚を持っている」ことが自分の特徴なのかなと思います。なので「○○さんが大好きで、憧れて、追いかけてます!」みたいなのはないですね。

――先ほど、お話に出た「武器」と通じるかと思いますが、これまでいくつもの作品を手がけてきて、ご自身の作風だったり、作品の特徴ってどういう部分だと思いますか?

『ハケンアニメ!』はちょっと違いますけど、「ぶっ飛んだ設定」と「ぶっ飛んだキャラクター」ですね。ドラマ「スナイパー時村正義の働き方改革」(※)なんかはまさにそうですね。

※「スナイパー時村正義の働き方改革」:2020年3月にCBCテレビで深夜枠で放送された連続ドラマ。情報機関の伝説のスナイパーと同機関の人事部のOLの2人だけで繰り広げられるシチュエーションコメディで、仕事一筋のスナイパーが社会の波を受け、ミッションのさなかに“残業ゼロの定時退社”や“デジタル化”といった働き方改革を強いられていくさまを描く。2020年日本民間放送連盟賞番組部門 テレビドラマ番組最優秀賞、令和2年度(第75回)文化庁芸術祭 優秀賞、JNNネットワーク協議会 特別番組賞などを受賞。

ただ、こうして賞をいただいたりもしたんですけど、番組自体は全然見られていないんですよね…(苦笑)。

――CBCでの深夜放送ということもあって、「見られなかった」という人も多いのかと思います。

Paravi(パラビ)でも配信されてるんですけど、なかなかね…(苦笑)。ネットでバズることもなく、「月刊ドラマ」の5月号にもシナリオを載せてもらったんですけど、これもあんまり売れてないのかなぁ…(苦笑)?

ちょっと話が脱線してしまうんですけど、今回、シネマカフェさんにこの「映画お仕事図鑑」でインタビューをしていただこうと思った理由が、この「スナイパー時村正義の働き方改革」がきっかけなんですけど、自分で自信のある面白いものを書いて、それが賞をとったとしても、意外と人々に届かないというのを感じたからなんです。

民放連の最優秀賞をいただいた時に「よし、これで売れるぞ」「大ブレイクするな」と思ってたんですけど、この作品をきっかけにしたお仕事のオファーというのがひとつもなかったんです。

そこにはもちろん、いろんな要素があると思うんですけど、“僕”という人間のコンテンツ力がメチャメチャ低いというのも原因のひとつだなと思ったんです。まず、僕自身が多少なりとも有名になることも大事なことだなと。

この連載で、少し前に『罪の声』の野木亜紀子さん(「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」など)のインタビューが掲載されていましたが「野木亜紀子の新作!」となると、その時点で「絶対見る!」というファンの方が多くいると思いますけど、脚本家でなかなかあのレベル、あのゾーンに達するのって簡単なことではないですよね。

もちろん、「面白いものを書く」というのが一番大切なのは言うまでもないですが、それと同時に違うアプローチ、違う戦い方も必要なんじゃないかと考えるようになったんですね。

「スナイパー時村正義の働き方改革」のシナリオが「月刊ドラマ」に掲載されたのも、その一環で「今度、Paraviで配信されるので、載せてもらえませんか?」と自分から編集部に売り込んだんです。

これまでは「面白いものさえ書いてれば、いつか評価される」と思ってた部分があったんですが、民放連の受賞をきっかけに、それだけじゃダメなんだって勉強させてもらいました。

――ここまで話をうかがってきて、『ハケンアニメ!』の脚本を政池さんに任せようと考えた須藤プロデューサーが慧眼だなと思います。

僕がお話をいただいたのは5~6年前かな? 当時はまだドラマは1本くらいしか書いてなかったと思います。

実は、最終的に実現には至らなかったあるプロジェクトがあったんですけど、その作品のプロットを僕が書かせていただいたんです。それを須藤さんが読んで気に入ってくださって、そのことがきっかけで『ハケンアニメ!』で僕を抜擢してくださったんだと思います。

――ここから今回の『ハケンアニメ!』の脚本の執筆に関して、詳しくお話をうかがってまいりますが、政池さんはこれまで、『ハケンアニメ!』以外のドラマ作品でも、漫画や小説の脚本家を手がけてきています。原作を脚本にする際に大事にしていること、心がけていることはありますか?

一番大切にしているのは最初に読んだ時に「素晴らしい!」と思ったセリフやシーン、展開で、読みながら「おぉっ!」って心が動いた部分に関しては印を付けていくようにしています。で、脚本にする際に、その部分を確実に入れるということを大事にしています。

それって当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、他の脚本家の方が書いた作品を見ていて「え? あの原作のセリフなくす?」「あのシーン、削っちゃったの?」って思うことってわりとあるんですよね。

「ちょっと待って! あのセリフのためにここまでの展開があったんじゃないの?」という部分がバッサリなくなってたりしてると「この作品の面白さの“核”を理解してますか?」って思っちゃう。まあ、これは他人の作品だからこそ冷静に見られる部分もあると思いますけど(笑)。

これはやはり、構成作家をやっている影響が大きいと思います。「このコンテンツがなぜ世の中で流行っているのか?」「この作品がなぜ多くの人の心を打つのか?」ということを考えていかなくてはいけない仕事なので。この原作の一番面白い部分はどこなのか? を的確に見つけて、それをきちんと脚本に組み込むことが大切だなと思います。

――辻村深月さんの書かれた小説「ハケンアニメ!」を最初に読んだ時は、どんなことを感じましたか?

とにかくキャラクターが魅力的過ぎるなと。全キャラクターが本当に魅力的で、これを2時間の映画にまとめるのはメチャクチャ難しいぞと思いましたね。

あとはセリフのうまさが印象的でしたね。小説家もいろんなタイプの方がいらして、必ずしもセリフで勝負しない方もいると思うんですけど、辻村さんが書くセリフは本当に“刺さる”んですよね。これは一文字も変えちゃいけないな! と思わせるセリフが多いので、それは実際に原作のまま変えずに脚本にしています。中村倫也さんが演じた王子監督が新作発表の場で熱く語るシーンとかはまさにそうですね。

――原作は、プロデューサーの有科香屋子(尾野真千子)、アニメ監督の斎藤瞳(吉岡里帆)、アニメーターの並澤和奈(小野花梨)をそれぞれ主人公にした3章の物語で展開します。この3つの物語をどのように1本の映画にしていったのでしょうか? また、映画では、同時刻に放送される瞳と王子(中村倫也)のアニメ対決が中心に据えられています。こうした構成はどのようにして生まれたのでしょうか?

映画として作るとき、バトルとした方が見やすいだろうというのはありました。原作では瞳が手がける「サウンドバック 奏の石」と王子の「運命戦線リデルライト」は違う時間帯に放送されることになってるんですけど、“ハケン(覇権)”を争うということを考えても、同じ時間帯に放送されて対決するとした方が、わかりやすく多くの観客に刺さるだろうと思いました。

原作の3章の物語は、つながってはいるけれど、時間軸がちょっとずれてるんですよね。それを同じ時間軸の物語にしつつ、対決させることで物語として見やすく、まとまるなと思いました。

そうすることで、映画オリジナルのシーンとして生まれたのが、瞳と王子がアニメイベントで、それぞれの新作について語る対談のシーンです。僕自身、あのシーンが映画オリジナルであることを忘れてて(笑)、撮影現場にお邪魔して「良いシーンだな」とか思って見てたら、ちょうど辻村さんもいらして「こういうつくり方もあるんですね」とおっしゃって「そうか、俺が作ったんだ!」って(笑)。

――原作では、瞳がアニメの世界を志すきっかけになった作品が、別の監督の作品だったのが、映画では王子のデビュー作という設定に変更されていますね。「憧れの監督との対決」となることで、瞳と王子のバトルがより運命的なものになっていると感じました。

そうですね。そこは映画として2時間で見せる上で、ギュッとコンパクトにするというのもありましたし、そうすることで瞳の思いをより強く感じさせられるんじゃないかと思いました。

――原作を読んで「キャラクターが魅力的過ぎる」と感じたとおっしゃっていましたが、この魅力的なキャラクターを映画で描く上でどんなことを意識されたんでしょうか?

2時間の映画にする上で、どうしても描き切れないキャラクターというのは出てきてしまうんですが、それでも、そのキャラクターが放つ魅力的なセリフは短くても最大限活きるように――たとえワンシーンだけだったとしてもなんとか残したいなと思って、死守しました。映画では決して長くはないですけど、並澤と市役所の宗森(工藤阿須加)のやりとりはまさにそんなシーンですね。

――特に政池さんの心に残っている大事なセリフやシーンを教えてください。

一番を選ぶのは本当に難しいですが…やっぱり、王子が瞳との対談で“オタク”について熱く語るところですかね。僕自身、読んでてしびれたし、これを中村倫也さんが演じたら面白くなるなと。このセリフを辻村さんがどれほど大切に思って書いたかということも感じました。

行城(柄本佑)が「うちは大手だからこそ、こういう作品を作る」ということを言うところも好きですね。あと、その少し前の瞳の独白で「人生には、何かを失っても、それでも何かを成し遂げたい時がある。やらなければならない時がある」というのがあるんですけど、これは瞳の人生、彼女のストーリーの全てが詰まっているような言葉だなと思いますね。

――いま、話に出ました「サウンドバック」のプロデューサーである行城に関して、映画を観てファンになる人が多いと思います。原作では「ポロシャツにジーンズ」と描写されていますが、映画では一貫してスーツを着ていますね。こうした変更など含め、“キャラクターを立てる”ためにどういった工夫をされたんでしょうか?

衣装に関しては、衣装合わせで監督や柄本さん、衣装スタッフさんが話し合って決めたんだと思います。

行城のキャラクターに関しては、とにかく瞳を振り回す男にしたいなというのはありました。彼なりに「作品を届ける」という思いもあって、そうしているんですけど、それをイヤ~な感じで見せたいなというのがあって、映画オリジナルで瞳を振り回す描写をいくつか入れています。

辻村さんが描いたキャラクターをより魅力的に見せるために一度、僕自身で飲み込んで、咀嚼して、自分に憑依させて「この男なら、こういうことをするんじゃないか?」「こうすると、辻村さんが描いたキャラクターの魅力が最大限に際立つな」と考えながら、行動を描いていきました。

――先ほど、個人的に思い入れのあるセリフやシーンについて伺いましたが、登場人物で政池さんが最も感情移入したのは誰ですか?

やっぱり瞳かな? 僕自身、この作品が初めての映画脚本で、吉野耕平監督は2本目なんですよね。だからこそ、長編アニメデビュー作のために奮闘する瞳の心情をここまで丁寧に描けたんじゃないかっていう内容の感想を試写会で映画を鑑賞したお客さんからいただいて「なるほど!そうかも」って思いました。

仕事をしている中で「これは絶対に外しちゃダメだ!」という仕事ってあると思うんです。最近は僕もそれなりにお仕事をいただけるようになりましたけど、最初の頃ってそんなにチャンスをいくつももらえないんですよ。まさに野球でいうところの“代打”みたいな感じで、巡ってきたその1打席で結果を出さないといけないという。僕の場合、文字通り最初にいただいたテレ東のドラマの仕事は、別の方が降板しての代打でしたからね(笑)。

代打って難しいんですよ(苦笑)! 誰かが作っていたものを引き継いだり、時間があまりなかったり、条件が決して良くない中で、その1回で結果出さなきゃいけないんですから。だからこそ瞳に感情移入する部分があるのかなと思いますね。

――改めて、『ハケンアニメ!』の脚本執筆の中で、一番大変だったこと、苦労されたのはどういう部分ですか?

原作でそれぞれ別の章で描かれている3人をきちんと絡めるという部分ですかね。原作では、有科と並澤ってそこまで深く絡む描写ってないんですけど、映画では有科が「リデルライト」の原画を並澤に頼みに行くシーンを描いてますし、あれは良いシーンになったなと思います。

それから、瞳と有科がボクシングジムで偶然出会って、銭湯に浸かって…というシーンも映画オリジナルですね。

原作はそれぞれの章が独立して素晴らしいので、あまり必要なかったんですけど、映画にする上で、3人の女性がそれぞれ戦いつつ、支え合うという描写は絶対に必要だなと思っていました。

かといって、あまりに都合よく、無理やり描いてもよくないので、辻村さんの世界観を大切にしつつ、彼女たちをいかに絡めるか? 瞳と王子の対談のシーンを作ったのもそうだし、冒頭に雑誌の表紙を巡るシーンを入れたのをそのためです。最初に表紙のシーンがあるからこそ、並澤をそこできちんと出して、群像劇として描くことができたんです。そのあたりはすごく考えて、工夫しましたね。

完成した映画と原作を比べてみると、時間軸を組み替えたり、オリジナルで加えたりしている部分は結構あるんです。でも、原作を読まれている方が見ても、都合よく変更したような無理やりな印象を受けることはないと思います。

――映画は瞳を中心に進みますが、瞳だけでなく有科、並澤、王子、行城らに感情移入し、自身を投影する観客も多そうですね。本当にひとりひとりの人物が“脇役”ではなく、それぞれ“主人公”として丁寧に描かれていると思います。

原作者の辻村さんが映画オリジナルのセリフで一番刺さったとおっしゃっていたのが、有科が王子に「私に(TV)局と戦えるだけの武器をください」というセリフなんですけど、出来上がった映像を見て、書いた僕もしびれましたね。“心で戦っている”というのを尾野さんと中村さんのお2人が表現してくださったなと思いました。

実は、最初の時点で瞳を主人公にするか? それとも有科を主人公にするか? というのは、結構時間をかけて議論した部分でした。初見では有科のほうが入りやすいところはありました。最終的には須藤プロデューサーが瞳を中心に据えることを決めましたが、そういう議論があるくらい、全ての登場人物が本当に魅力的でした。

――ここから再び、政池さんご自身のお仕事観などについて伺って参りますが、今後、やってみたいお仕事や目標などはありますか?

昔は「朝ドラを書きたい!」とか目標はあったんですけど、最近はとにかく「誰も書いてないような話を書きたいな」と思っています。こんな話、1億回は見たなって話じゃなく、設定やキャラクターがぶっ飛んだ物語を作りたいです。

最近、フジテレビで放送された「ここにタイトルを入力」という深夜バラエティでドラマを書いたんですけど「予算が足りなくて、撮影中にどんどんセットが減っていく」という設定のドラマなんです。徐々に会議室の机や椅子がなくなっていったり、主人公の男がパンツ一丁になってしまったりして、最終的に主人公とヒロインがパネルの写真になってしまって、会話もできなくなるんですけど、なぜかグッとくるという展開になってます。

視聴者には事前に設定などは説明されないので、物語が進むにつれて「あれ? どうなってんだ、これ?」ってなると思います。

こういう仕事をしている時に、自分はこういうのが好きなんだなって実感しました。誰もやらないようなクレイジーな話を書いてるとワクワクするんです。個人的に「笑って泣ける」話が好きなんですよね。くだらなくて「あははは!」って笑ってるのに、最後に泣けてきちゃって「え? なんで俺、これで泣いちゃってるの?」となるような。そういう話を書きたいです。

――物語の着想を得るために大事にしていることやアイディアを考える上での自分なりの方法はありますか?

よくあるのは「逆のことをぶつける」ってことですよね。「スナイパー時村正義の働き方改革」はまさにそうですけど、スナイパーという“働き方改革”とか関係なさそうな仕事にあえてそれをぶつけてみるという。

アイディア帳という意味では、スマホのメモに10年以上前から「この設定、面白いな」と思ったことをメモするようにしています。

――本作も人気小説の映画化ですが、最近の日本の映画やドラマでは、オリジナル脚本による作品よりも、どうしても人気漫画や小説を原作とした作品が多い傾向があります。脚本家としてはこうした傾向をどう感じていますか?

原作ものが好まれるのもわかります。制作側からしても、オリジナルで連ドラ全10話を作るって、メチャクチャ大変ですから。とはいえ最近、またオリジナルの作品が少しずつ増えてきている気もします。そこはチャンスだと思うので、面白い企画を考えて、通していくしかないなと思いますね。

――いま、脚本家になりたいと思っている人に「こういうことをやっておくといい」というアドバイスがあればお願いします。

いまの時代、昔と比べて脚本家になりやすいかなりにくいかで言うと、なりやすいと思います。深夜も含めてTVドラマは増えていますから。とはいえ、狭き門ではあるので、なるための戦略は必要だと思います。

いま、僕の下にひとりアシスタントがいるんですが、その子はYouTubeで漫画やシナリオを配信しています。そういうところでストーリーを作ることで脚本家としての“筋肉”をつけることはできるなと思います。

昔よりはこうした“ストーリーコンテンツ”をアウトプットする場は増えているので、ドラマを書きたいなら、その手前にあって誰でも自分の作品を発表できるところで、ストーリーを作る筋力や技術を身に着けることは役に立つと思いますね。

いまはNETFLIXやAmazonプライムビデオなど、配信事業も増えていて、コンテンツの量が増えているのはもちろん、自分が書いた作品が届く範囲も昔よりも広がっているので、そういう意味で“夢”を持てる業界でもあると思います。もちろん、大変なことはたくさんありますけど。コンテンツが増えるのは、ありがたいことですけど、TikTokとかと戦わなきゃいけなかったりするわけですから、大変ですよ!

――政池さんご自身も配信作品や韓国ドラマ、海外のドラマなどもご覧になりますか?

見ますね。「参考のために」というのもありますけど、見てるとやっぱり面白いですね。もちろん、韓国ドラマが何でも面白いというわけではないんでしょうけど、人気のある作品は日本の作品と比べてもバーンっと突き抜けてると思いますね。

先ほども言いましたけど、僕は自分で見ていて心が「おぉっ!」って動いたら、一度止めて、なぜそう感じたのか? というのを分析し、メモしておくということを10年以上やっているんですけど、韓国ドラマを見てると「おぉっ!」というシーンの連続ですね。

「愛の不時着」とか一時停止しまくってなかなか進まなかったです(笑)。あれは本当に勉強になりましたねぇ。

――「愛の不時着」はプロの脚本家の方から見てもすごい作品なんですね?

抜群に面白かったですね。僕の中で「やまとなでしこ」が長くNo.1ドラマだったんですが、久々に「やまとなでしこ」を脅かす…ヘタしたら陵駕するような作品が出てきたなと。大前提としてやはり、設定が面白いですよね。

先ほどの「どうしたら見てもらえるか?」という話とも通じるんですけど、いまの時代、「見てみたら面白かった」じゃなくて、「見る前から面白そう」なコンテンツを作らないといけないんだと思っています。だからこそタイトル、設定が本当に大事なんですよね。

意外とドラマを作っている人たちって、自分も含め、そのことを忘れがちな気もしてて。バラエティを作ってる人たちは「タイトル命!」というくらい、そこは大事にするんですけど、ドラマだと、わりとフワッとしたタイトルが多かったりしますよね。タイトル、設定に関しては以前から大事だけど、ここ数年、より大事になっているなと感じています。

――お話を伺っていて、改めて「面白い作品を作る」ということが大事なのはもちろんですが、それをどう届けるか? 「面白そう」「見てみようかな」と感じてもらうためにコミュニケーション力やマーケター的な視点も必要なんだなということを感じました。

そう思います。行城と同じですね。実際、行城が映画の中で言ってることは「わかる!わかる!」って思います。“クリエイター”というのは本来、そういう部分からもっとも遠い存在だと思うんですけど、もはやそういう時代ではないんですよね。

最初の話に戻るんですけど、やっぱり自分は「才能がない」ことを認める才能があるからこそ、一歩引いた視点で物事を見ているんだと思います。今回の映画で言うと王子のようなタイプは、才能と寝食を忘れるほどの情熱で自分の作りたいものを作って、その作品が世間に称賛される天才ですけど、自分はそうじゃないんですよね。だからこそマーケター的な視点も必要だし、実際、この映画を通じて行城に教えてもらったことはすごく多いなと思いますし、瞳と一緒に成長させてもらえたなと感じています。


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《photo / text:Naoki Kurozu》

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