ジメジメとした梅雨シーズン間近。Withコロナの時代にまだまだ不安もある中、気分転換には思わず心が躍るミュージカル映画がおすすめ!
ディズニー公式動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」には、あの「シンデレラ」を新たにオマージュした『スニーカーシンデレラ』や、才能に満ちた次世代スターの主演作『ハリウッド・スターガール』といったオリジナル新作映画から大ヒットブロードウェイ・ミュージカルまで必見作が続々。ワクワクする歌とパフォーマンス、胸打つストーリー、キャストたちの熱演に魅了されるミュージカル映画を紹介する。
◆『スニーカーシンデレラ』(配信中)
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アニメーションや実写版など、これまでさまざまな形で描かれてきた「シンデレラ」の物語を、ニューヨークのクイーンズに暮らす少年を主人公に、“ガラスの靴”をスニーカーに替えて描いたオリジナルの最新ミュージカル映画。
クイーンズ・アストリア地区の亡き母が遺した靴屋で、意地悪な継父と義理の兄弟たちと暮らし、ストックボーイ(商品補充係)として働いている少年エル(チョーズン・ジェイコブス)は、ある日、伝説的なバスケットボール選手で現在はスニーカービジネスを手がけるダリウス・キングの娘キラ・キング(レクシー・アンダーウッド)と運命的に出会う。とっておきのスニーカーをデザインして向かったパーティーでエルはキラと再会するが、真夜中0時の鐘で慌てて会場を飛び出し、片方のスニーカーをエスカレーターに落としてしまうのだ。
スニーカーカルチャー×ヒップホップ・ミュージックの融合という斬新な形で、誰もが知るおとぎ話をアップデート、夢を追うこと、自分らしく生きることを表現した本作。ストリートでグルーブ感たっぷりにステップを刻むエルをはじめ、こうした文化の主役を担ってきたアフリカ系の俳優たちがメインキャラクターとなり、男女の立場も逆転。小さな靴屋の片隅で人知れずスニーカーをデザインするエルと、スニーカーで財をなしたセレブ一家で窮屈に暮らすキラが“抑圧された日常から抜け出し、自分らしく輝きたい”という共通点で繋がっていく。
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だが、現実世界でもあらゆる場所で起きているように、どれほどの才能と情熱を持っていたとしても、出自や経歴、肌の色によって夢への扉が堅く閉ざされてしまうことがある。それでもエルがどれだけ真摯に、誠実にスニーカーを愛してきたのか。それは1人1人が選ぶスニーカーを観察することで、人となりや好みまで当ててしまう特技を彼が持っていることからもよく分かる。この辺りも“ちょっとした魔法”といえるかもしれない。
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『IT/イット』シリーズでマイク役を務めていたチョーズン・ジェイコブスが、そんなエル役をエネルギッシュに好演。お気に入りのミュージカル・シーンはオープニングの「KICKS」という彼は、「エルが、高く舞い上がって空を飛んで、誰も彼に手が出せないという壮大なシーンなんだ。それは、映画の残りの部分のトーンを象徴すると思うよ」と語る。ドラマ「リトル・ファイアー~彼女たちの秘密」でケリー・ワシントンの娘役を演じたレクシー・アンダーウッドも、次世代スターとして光を放っている。
◆『ハミルトン』(配信中)
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既成概念を打ち破るキャストといえば、『ミラベルと魔法だらけの家』『モアナと伝説の海』でアカデミー賞にノミネートされたリン=マニュエル・ミランダがその名を一躍世に知らしめた大ヒットブロードウェイ・ミュージカル『ハミルトン』だ。
ヒップホップやR&B、ジャズなどの要素を取り入れ、トニー賞をはじめグラミー賞、ピューリッツァー賞などを多数獲得した本作は、初代大統領ジョージ・ワシントン、第3代大統領トーマス・ジェファーソンなどの実在の人物(白人)をアフリカ系やラティーノの俳優たちが演じている。リンが演じたアレクサンダー・ハミルトンは彼と同じくカリブ海出身の移民で孤児であり、奴隷制反対の立場を貫いていたことでも知られる。
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新型コロナと“ブラック・ライブズ・マター”運動が世界を揺るがすなか2020年7月3日よりディズニープラスにて世界同時配信されると、独立記念日の7月4日までの視聴者数は過去5年のシアター動員数を優に超えたとか(「ハミルトン 歴史が君を見つめている」より)。本国でもチケット入手困難といわれたこのブロードウェイの画期的・歴史的傑作を、家にいながらにして臨場感たっぷりの“特等席”で楽しめるのは何よりの魅力だ。
さらに、いまやハリウッドの重要人物の1人となったリンのみならず、出演しているブロードウェイ初演キャスト陣は大出世を遂げた俳優も多い。ハミルトンを決闘の末に破ったアーロン・バー役のレスリー・オドム・Jr.はケネス・ブラナー監督『オリエント急行殺人事件』に抜擢、トーマス・ジェファーソン役のダヴィード・ディグスは映画『ブラインドスポッティング』でも知られ、リンも関わる実写版『リトル・マーメイド』に参加。また、ハミルトンの息子フィリップ役のアンソニー・ラモスはリン原作の映画版『イン・ザ・ハイツ』の主演だ。
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そして、アンサンブルキャストの1人だったアリアナ・デボーズはスティーヴン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』でアニータ役を演じ、クィアを公表している有色人種の女性として初めてアカデミー賞を獲得する歴史を作ったばかり。
◆『メリー・ポピンズ』/『メリー・ポピンズ リターンズ』(配信中)
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パラソルをさしながら空から舞い降りたメリー・ポピンズ(ジュリー・アンドリュース)が、バンクス一家のピンチを救う不朽の名作『メリー・ポピンズ』(1964)。それから20年後を舞台にした『メリー・ポピンズ リターンズ』では、一家の窮地に再びメリー・ポピンズが駆けつける。前作への愛とリスペクトが込められたオマージュが、あらゆる場面で息づく続編だ。
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大人になったマイケル(ベン・ウィショー)とジェーン(エミリー・モーティマー)、マイケルの子どもたち3人をケアするメリー・ポピンズ役を新たに演じたのはエミリー・ブラント。ちょっぴりツンとしていても、自ら魔法を楽しむお茶目な部分と愛する人を失ったバンクス一家と悲しみを共有する人間味を秘めており、エミリーが微細な表情の変化で魅了する。
また、『ハミルトン』のリン=マニュエル・ミランダがメリー・ポピンズの友人で街灯点灯夫のジャック役で大活躍、2人の息の合った歌とダンスに心が躍る。
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メリー・ポピンズの風変わりな従姉トプシー役に『プラダを着た悪魔』や『イントゥ・ザ・ウッズ』でエミリーと共演したメリル・ストリープ、マイケルが務める銀行の社長ウィリアム・ウェザオール・ウィルキンズ役にコリン・ファースら豪華な顔ぶれと、前作でメリー・ポピンズの親友バート役を演じたディック・ヴァン・ダイクの登場はワクワクするサプライズで、見どころは盛りだくさん。
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大恐慌時代、バンクス一家が困難なときを迎えるなか、銀行家をはじめ一部の者だけが潤っている状況は現在の情勢ともよく似ている。そんなうっ屈とした空気をメリー・ポピンズが吹き飛ばし、少しだけ心を軽くしてくれるだろう。
◆実写版『アラジン』(配信中)
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日本でも120億円を超える大ヒットとなった『アラジン』。アラジン役を中村倫也、ジャスミン役を木下晴香、“ランプの魔人”ジーニー役をアニメーションと同じく山寺宏一が演じた吹替版も話題となった。
砂漠の王国・アグラバーに暮らす、貧しけれども心優しい青年アラジン(メナ・マスード)が、身分を隠して町に来た王女ジャスミン(ナオミ・スコット)と出会い惹かれ合う。王位を狙う国務大臣ジャファーに利用され魔法の洞窟から魔法のランプを持ち出したアラジンは、ジーニーに最初の願いを叶えてもらい“王子”となってジャスミンと再会する。
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アラジンのように自由に街を駆け回ることもできないジャスミンは、王女として政略結婚を勧められ、ジャファーから“言うことを聞けばラクに生きられる。意見はするな”と釘を刺される。注目は、そのシーンの後に披露される実写版オリジナル楽曲の「スピーチレス」。これまで女性たちは“口を塞がれて”きたけれど、もう黙ってはいられないと、終盤で彼女が歌い上げる2度目の「スピーチレス」は必見だ。
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また、本年度アカデミー賞の一件で世界中のファンを失望させたウィル・スミスだが、ヒップホップの要素が加わった「フレンド・ライク・ミー」を歌って踊りこなせるのは、やはりウィルしかいないと改めて思う瞬間も。そして、本作を象徴するお馴染み「ホール・ニュー・ワールド」の新アレンジバージョンが流れるシーンでは、憂うつになりがちな雨の日のみならず、窮屈な毎日を生きる誰もが束の間の空の旅を楽しむことができる。
◆『ハリウッド・スターガール』(6月3日より配信開始)
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2016年、12歳でオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」で優勝し、「次世代のテイラー・スウィフト」とも評されたシンガーソングライター、グレース・ヴァンダーウォールの初主演映画『スターガール』(2020)から待望の続編が登場。『スターガール』は全米ベストセラー小説の実写映画化で、ディズニープラスのサービス開始当初から人気を博してきた青春ミュージカルだ。
本作『ハリウッド・スターガール』は、いわゆる“ミュージカル映画”ではないものの、前作以上に音楽の魅力満載の作品になっている。その歌声とウクレレで学校中を鼓舞し、魅了した不思議な少女スターガール・キャラウェイ(グレース)が、フリーの衣装デザイナーをしている母アナ(ジュディ・グリア)の仕事の都合で前作の舞台アリゾナからロサンゼルスに引っ越す場面から幕を開ける。
スターガールは、せっかく友だちができても街から街へと移動を繰り返す暮らしに疲弊していた。落ち着いた人間関係の構築を心から欲していたのだ。そんなときに出会ったのが、兄テレル(タイレル・ジャクソン・ウィリアムズ)と自主映画制作をしているエヴァン(イライジャ・リチャードソン)で、シズルリール(プロモ映像)作りに誘われる。さらに、母も聴いていた憧れのシンガー、ロクサーヌ・マーテル(ユマ・サーマン)と思いがけず出会ったことで、スターガールの世界は次第に手応えを持って色づいていく。誰もが夢追い人の街ロサンゼルス=L.A.では、彼女の自由な精神や個性が周囲から浮いたりせず、むしろいっそう輝きを増す。
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馴染んだウクレレを手放しながら、“とりあえずやってみる”と新しい世界に飛び込んでいくスターガールは、まるで演じているグレース自身のよう。本作のために書き下ろした曲「Figure It Out(フィギュア・イット・アウト)」が、そんな予想もしていなかった夢の実現を歌い上げる。
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「この映画のテーマは“夢を見ること”だと思います」とグレースは言う。「映画の中にこんなセリフがあります。『思った通りの形にならなかったとしても、夢は叶ってる』。今まで聞いた中で一番美しい言葉だと思います。多くの人の心に届いてほしい言葉です」と作品に込められたメッセージに共感を寄せる。
「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」で印象深い演技を見せたエヴァン役のイライジャ・リチャードソン、隣人ミッチェル役のベテラン俳優ジャド・ハーシュ、歌声を披露するユマ・サーマンらとのケミストリーも素晴らしく、関わった人々を変えていく不思議なパワーを持つスターガールらしさは健在だ。
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ユマ自身も「ロクサーヌはこの少女に癒されているんだと思います」とコメントする。ロクサーヌにとってスターガールは、自分が自由であることに気づかせてくれ、楽しむことを思い出させてくれる存在。「そんな彼女を見て、ロクサーヌは本当の自分もまだ“あの子と同じなんだ”と気づくようになるんです」。
そして、映画作りではL.A.の美しいマジックアワーを最新iPhoneがとらえる一方、“写真・録画・録音禁止”の小さなバーのステージでハスキーな歌声を響かせるスターガール。その対比は、監督ジュリア・ハートのパートナーであり、本作プロデューサーのジョーダン・ホロウィッツが手がけた『ラ・ラ・ランド』にも通じる。ロクサーヌの90年代のアルバムがカセットテープなのも、10代にとっては“目新しい”。しかも、映画の仕事のためにL.A.に来た母アンが直面するトラブルはつい最近もニュースになったような出来事で、サウンドはどこか懐かしくても、確かに“いま”の映画となっている。
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