「豪華な俳優さんたちが活き活きと暴れていることに興奮しました!」本作の原作となったベストセラー小説を書いた伊坂幸太郎は、こう語っている。
原作タイトルは「マリアビートル」だが、ド派手なエンタメアクション超大作となった映画は英訳版小説と同じ『ブレット・トレイン』(BULLET TRAIN:弾丸列車)と名付けられた。
東京から京都までの新幹線「ゆかり号」に、てんとう虫=レディバグという名のとことん運のない殺し屋が乗り込んだことで物語が展開。伊坂作品の醍醐味である、緻密かつ圧倒的な筆致で新幹線という限られた空間の中に1つの世界が広がり終着駅へと収束していくように、ブラッド・ピットと『デッドプール2』のデヴィッド・リーチ監督が手掛けた本作も、“そことそこが、そう繋がってくるの!?”と驚く人間関係と想定外の事態が次々と巻き起こっていく。
韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』がゾンビと人間のエゴの恐怖を増幅させたように、時速350km、京都まで約120分、弾丸のように直進する“動く密室”「ゆかり号」では因縁による復讐が連鎖する。そこに不運にも乗り合わせてしまったレディバグと殺し屋たちの相関関係に着目した。
※以下、ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
ブラピ演じるレディバグと
9人のクセ強殺し屋の関係は!?
運のない殺し屋:レディバグ/ブラッド・ピット
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いつも事件に巻き込まれ、自分とは無関係な人の死や不幸に遭遇してしまう、伝説級に運の悪い殺し屋レディバグ(ブラッド・ピット)。自分の不運は自ら呼び込んでいると考えており、殺し屋ながらセラピー通い。セラピストのバリーの言うことが彼には絶対だ。依頼人のマリアから、病欠の殺し屋カービーの代理で急きょ「ブリーフケースを盗む」だけの簡単な仕事を請け負い、これを機に暴力とは無縁な人間になることを決めたはずが…。
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ブリーフケースを早々に見つけ下車しようとするレディバグだったが、身に覚えのない9人の殺し屋たちに列車内で次々と命を狙われ、降りたくても降りられない状況になってしまう。
双子の殺し屋の1人タンジェリンことミカンに遭遇した際にも、バリーの受け売りらしく「お互いの間には壁がある…」と唐突な話をし始めたり、パニック発作の際には「日記をつけよう」と言い出したり、日頃どんなことで彼が苦悩しているのか「有害な説得の教訓にしよう」といった言動からも見えてくる。こうして自己改造を試みているところなのに、暴力とはできるだけ無縁でありたいのに、状況が許さないレディバグ。
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殺し屋と対峙すれば強いことは強いのだが、基本的に防戦一方。怖がり、不安がり、体育座りでうずくまり、いまにも泣き出しそうな涙目になり…。バスター・キートンやハロルド・ロイドら往年のコメディ俳優たちの動きを参考にした身のこなしが可笑しさを誘い、こんなブラッド・ピットは見たことない、という方もいるのでは?
かつては『トロイ』『ファイトクラブ』『Mr.&Mrs.スミス』などで鍛えあげた身体やアクションが話題になったブラッドの“有害な男らしさ”への意識が垣間見え、また、代表的なこの3作品ではリーチ監督がスタントマンを務めていた縁もある。『ムーンライト』『それでも夜は明ける』など「PLAN B」の敏腕プロデューサーとしてもお馴染みだが、劇中でも「プランB(別の作戦)はあるか」とイジられている。
息子に重傷を負わせた犯人を捜す元殺し屋:キムラ/アンドリュー・小路
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何者かにデパートの屋上から突き落とされ重傷を負った息子ワタルの復讐のため、「ゆかり号」に乗り込む。自分の“仕事”のせい、と自身を責めている点ではレディバグと似ているが、キムラの激情は“犯人”であるプリンスへと向かう。しかし、プリンスは何枚も上手で、キムラに暗殺を頼むためわざと息子を突き落としたと言い、彼は息子の命と引き換えにブリーフケースの奪取や解除にこき使われてしまう。
やがて、不運な殺し屋レディバグと出会い、父親のエルダーが米原駅から乗り込んできたことで(よく間に合ったね!)、ラストの激闘まで生き残った。『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(2021)にも出演したアンドリュー・小路が演じている。
腕利きの双子:ミカン(タンジェリン)/アーロン・テイラー=ジョンソン、レモン/ブライアン・タイリー・ヘンリー
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本作を観たら好きにならずにはいられない、幼い頃から一緒に育った似ていない双子の腕利き殺し屋コンビ。伝説的な裏社会のボス、ホワイト・デスから誘拐された彼の息子サンの救出とブリーフケースに入った身の代金の奪還を命じられている。レディバグの任務は、このブリーフケースを横取りすることだった。レディバグは彼らにボリビアでしてやられたことがあり、ヨハネスブルグではレモンがレディバグを銃撃するという因縁も…。
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「きかんしゃトーマス」好きという設定が原作から引き継がれたレモン。何でもトーマスの世界に照らしてみるレモンは優れた人間観察力で、甘やかされて育った放蕩息子サンを、早速「若くて、抜けてる」とパーシー(トーマスの親友)みたいと評している。
一方のミカンは仕立てのよいスーツを着込み、スタイリッシュな印象を与え、ホワイト・デスの伝説についてレモンに話して聞かせるが、彼もどこか“たが”が外れている。レディバグによって駅のホームに追い出されたはずが、なんと走行中の列車の最後尾に飛び乗り、ガラスを破って戻ってくるという荒行を成し遂げる。
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原作では、ミカンはレモンに“誰かに殺されそうになったときには、メッセージを残す”と約束しており、ついにその瞬間が訪れたとき、レモンはトーマスの世界の悪役“ディーゼル”のシールをプリンスに見つけることになる!
アーロン・テイラー=ジョンソンは『キック・アス』の頼りないオタクの青年よりも、『TENET テネット』や『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』『GODZILLA ゴジラ』のイメージがいまや強いかもしれない。本作では、彼がコメディもしっかりこなせることを思い出させてくれる。
また、『エターナルズ』の同性パートナーと家庭を築いた、発明の才能を誇るファストス役が記憶に新しいブライアン・タイリー・ヘンリーは、ドラマ「アトランタ」でも見せる飄々とした面白さがポイント。彼が演じるレモンが大切なことは全て教わったという「きかんしゃトーマス」を侮ってはいけない。
メキシコNo.1の殺し屋:ウルフ/バッド・バニー
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ブリーフケースを手に入れたレディバグが、品川駅で降りようとしたときに乗り込んでくるのがウルフだ。どういうわけかレディバグに強い恨みを抱いており、突然ナイフで襲われたレディバグは正当防衛として逆にウルフを仕留めてしまう。
実は天外孤独のウルフは初めて愛した人との結婚式で、花嫁やその家族、ギャング仲間を出血性の謎の猛毒によって失っていた。その式に潜んでいたレディバグを復讐相手と思い込み、「ゆかり号」に乗り込んできたのだ。簡単に終わる任務のはずが、レディバグの心積もりを早々に覆してしまった1人目の暗殺者。
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ウルフを演じるバッド・バニー(ベニート・A・マルティネス・オカシオ)はプエルトリコ出身の世界的ラッパーで作曲家、俳優としても活躍している。グラミー賞受賞ほか、2022年5月リリースの「Un Verano Sin Ti」はSpotifyで1日に最も聴かれたアーティストの世界記録を有している。
変装の達人で毒使いの暗殺者:ホーネット/ザジー・ビーツ
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富士山から駅のホームまでアイコニックな日本の風景や、裏組織の造型、見たことがあるようでないようなコテコテにデフォルメされた日本が舞台だからこそ、フィクションとして楽しめる本作。なかでも、テレビ番組「モモンガ テレビキッチン」の人気マスコットキャラクター・モモもんは、「ゆかり号」にファミリー向け専用車両が作られるほどの大人気キャラクター(五輪キャラクターに若干似ているといううわさもある)。
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なんと、そんなモモもんが不運な殺し屋レディバグを突然襲う!? 実は、そのモモもんの着ぐるみに入っていたのは、動物園から毒蛇を盗んだホーネット。「私の蛇を盗んだね」と勘違いされたレディ・バグは、ミカン&レモンとのスーツケースを巡る攻防の中で確かに蛇に出会っている! 終盤にはその蛇に噛まれてしまうレディバグは、ホーネットが持っていた解毒剤を奪い、何とか生きのびる。また、ウルフの愛する人を猛毒で殺害したのも、実はホーネットだ。
『デッドプール2』でリーチ監督と組んだザジー・ビーツは、今回車内販売員の姿でアクションを披露。ちなみに『デッドプール2』で演じていたドミノの特殊能力は、“運を操る”こと。ミュータント随一の幸運の持ち主だった。本作での登場はアッという間だったため、ホーネットのスピンオフがあってもいいくらい。
「運命」を語りたがる剣の達人:エルダー/真田広之
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先日、ブラッドやミカン役のアーロンとともに来日=凱旋帰国した真田広之が演じるのは、キムラの父親であり、重体の孫・ワタルを守ろうとし、ヤクザ・峰岸の仇であるホワイト・デスに復讐を誓うエルダー。数多くの修羅場をくぐってきただけに何かと運命について語りたがる。ブラッドが「(作品の)格が上がりました」と語るように真田さんの存在感と剣術アクションは重厚な魅力を映画に加えた。
なお、エルダーはキムラとの通話の中で聞こえたプリンスの「正直にね」という言葉にピンと来て、彼女こそが孫ワタルを突き落とし、息子キムラを脅している張本人だと気づく。
世界最大の犯罪組織を率いる冷酷非道なホワイト・デス/マイケル・シャノン
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トップにいた峰岸を裏切り、世界最大の犯罪組織を率いるようになったロシア系の男。ミカンがレモンに話したようにいくつもの伝説を持っているが、その分、多くの恨みを買っており、エルダーもその1人。
実は「運命を支配する」という考えのもと、この「ゆかり号」に殺し屋たちを集めたのは彼。愛妻の事故死に関わった殺し屋のカービーや、ミカン&レモン、瀕死の妻を手術するはずだった外科医を毒殺したホーネットなどを集結させ、全員を葬ろうとした。
ところが、列車に乗ったのはカービーではなく、どこまでもついてないレディバグだ…。プリンスの策略で乗車したキムラやエルダー、そして防弾チョッキで生きのびたレモンと共に、クライマックスの大激闘にもつれ込んでいく。『シェイプ・オブ・ウォーター』『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』など、悪役にも定評のあるマイケル・シャノンの迫力はまさに“死神”にぴったり。
ホワイト・デスの息子で犯罪組織の後継者?:サン/ローガン・ラーマン
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「親父はあんたらを理由もなく殺せる」と意気がる、典型的な二代目の放蕩息子。何者かに誘拐され、双子の殺し屋ミカン&レモンに救出されるも、ホーネットに毒殺されてしまう。双子は彼と身の代金の入ったブリーフケースを京都にいる父親ホワイト・デスに届けることになっていたが、これも全てホワイト・デスが仕組んだこと。面倒事ばかり起こし、妻が事故に遭うきっかけにもなった不出来な息子を実の父親が手にかけたのだ。
サン役に扮したのは、『ウォールフラワー』のローガン・ラーマン。ブラッドとは、劇中で父子のような関係を築いた『フューリー』で共演している。
レディバグたちを翻弄する謎の女子学生プリンス:ジョーイ・キング
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原作の男子中学生から最も変更されたキャラクター。優れた洞察力と思い通りに物事が動いていく運の強さで、車内で起こる全ての出来事を裏で掌握し暗躍、本人も言うように「物語のキモ」となったプリンスは、実はホワイト・デスの娘。誰が見ても長男のサンよりも賢く、裏稼業に向いているというのに、女の子だから父親に認めてもらえない。そこで、キムラを陥れ、父を暗殺させようとしたのだ。
自分の容姿によって(特に年上の男性から)過小評価されることも自覚しており、逆手に取って利用する。たとえ大人の男性であっても、他者を容易に服従させるしたたかさ、狡猾さを持っている。
事実、レディバグやミカンも騙されかけたが、レディバグは日頃からセラピストのバリーに言われていることを思い出し、ミカンは撃たれ、エルダーには通用しなかった。トーマス好きのレモンには「お前はディーゼルだ」と意地悪で自惚れが強く、いつもトーマスたちを馬鹿にしていじめるキャラのようだとすぐに見抜かれている。
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そんなプリンスの父親への愛憎入り交じった感情や、マンスプレイニングへの抵抗が、彼女をいっそう悪へと駆り立てることになってしまうのは実に残念なことではある。
子役から活躍し、『キスから始まるものがたり』シリーズや実録クライムドラマ「見せかけの日々」、最近ではディズニープラスの映画『ザ・プリンセス』など、多彩な役柄を演じてきたジョーイ・キングの卓越した演技力はとにかく必見だ。
豪華俳優がカメオ出演!
予習しておきたいのは、あの作品!?
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まず、原作小説のタイトルロールであるマリアを演じるのは、サンドラ・ブロック。終盤までは声だけの出演ながら、レディバグの境遇や言動を把握し、コントロールする。マリアにようやく出会えたときのレディバグの涙目は、語り継がれることになりそうだ。2日間しか撮影時間の取れなかったサンドラだが、本作へのカメオ出演が縁でブラッドに自分の主演&製作映画『ザ・ロストシティ』への出演を依頼、ブラッドが快諾して同作には颯爽と現れる謎のクールガイとして登場することになった。
予告編や海外版ポスターにも登場する新幹線「ゆかり号」の車内販売員に扮するのは、「ザ・ボーイズ」のキミコ役や『スーサイド・スクワッド』のカタナ役の福原かれん。
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また、車掌は「HEROES/ヒーローズ」ほか、プロデューサーとしても日本とハリウッドの架け橋になっているマシ・オカと、国際的にも知られる2人の日系俳優が登場。ただ、福原さん自身がアジアンヘイトの被害にあったこともあり、劇中の扱いには疑問も残る。
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ミカン&レモンから逃げるため、レディバグに身代わりにされてしまう乗客としてチャニング・テイタムが登場。彼も『ザ・ロストシティ』のメインキャストであり、ここにも繋がりがある。プロデューサーのケリー・マコーミックによれば、採用されなかった未公開テイクもあるらしい。
そして、大事な任務の日に腹痛になった殺し屋カービー役を演じるのは、デッドプールでお馴染みのライアン・レイノルズだ。『デッドプール2』にブラッドが2秒間だけカメオ出演したことのお返しで、本作にも2秒間だけ出演! 彼の登場を期待していた方は多かっただろう。
もちろん「きかんしゃトーマス」の主なキャラクターをざっと知っていれば、いっそう本作を楽しめるはずだ。
『ブレット・トレイン』は全国にて公開中。