映画賞を席巻し、全てのカットに美が宿る完璧な映像と忘れ得ぬ愛の物語が「不滅の名作」と絶賛された『燃ゆる女の肖像』。そのセリーヌ・シアマ監督最新作『秘密の森の、その向こう』に刻まれた前作との意外な共通点を、監督のコメントや本編映像も交えながら深堀りしてみた。
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主人公である8歳の少女ネリーが時空を超えて幼い頃の自分の母と出会い、強い絆を育んでいく舞台となるのが、解禁となった映像が捉えている秋の森だ。このシーンは、ネリーが母が幼い頃に遊んでいた森に分け入ると、自分と同じぐらいの幼い少女がたったひとりで長い枝を運ぼうとしているところに出くわす、という場面。ネリーはそれを助けることにし、ふたりで色鮮やかな落ち葉が広がる森の中を歩いていく。
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このシーンで特に印象的なのは、その少女マリオンと枝の反対側を持ち運ぶネリーが彼女の背中を見つめている、ネリーの“視線”を強く意識させるカットで撮られているところ。2人がこの森を行き来する場面は劇中何度も登場するが、このシーンから想起せずにはおれないのは、シアマ監督の前作『燃ゆる女の肖像』で貴族の娘エロイーズと身分を隠して散歩の相手をすることになる女性画家マリアンヌが距離をとって歩く、2人が初めて出会う場面だ。
監督は2作が持つ繋がりについて、「『燃ゆる女の肖像』を作ったことで得られた勢いや自信が、そのまま本作に繋がりました。そういう意味で2作は繋がっているし、本作は『燃ゆる女の肖像』の妹のような存在であると言えます。設定としても、孤独を抱えていた人達がそれを分かち合い孤独を乗り越え友情を結んでいくこと、そして2人は自由な考えを持っているという点で共通していますしね」と明かす。
大好きな祖母の死と、母が姿を消してしまった深い喪失感を抱えるネリーと、ある理由で大きな不安を抱えていた幼いマリオン。時空を超えそれぞれの家を行き来しながらどのようにお互いの想いを共有し合い、かけがえのない友情を育んでいくのか注目したい。
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ちなみに、2作のそれぞれのシーンには、距離をとりながら歩く2人が纏う衣装の色やフードの有無という意外な共通点もあるのだが、本作ではシアマ監督が衣装も担当。その理由を、「脚本を進めると同時に衣装の選定作業を行う必要がありました。なぜなら、本作の演出の中で最も大きなポイントとなった、タイムトラベルをする話でありながら、特定の時代設定を持たない話にしていくにはどうしたらいいかという問題を解決しなければならなかったからです。それは、衣装選びによるところが大きかったと思います」と監督は語っている。
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『秘密の森の、その向こう』は9月23日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国にて順次公開。