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【映画と仕事 vol.19】不可能と言われた「ガンニバル」映像化を実現! 『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞受賞の山本晃久プロデューサーの勝算

ディズニープラス「スター」にて、昨年12月より独占配信がスタートし、毎週1話ごとの更新(水曜配信/全7話)でいま、まさにクライマックスを迎えようとしているのが、二宮正明の人気コミックを原作としたヴィレッジサイコスリラー「ガンニバル」である。

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「ガンニバル」山本晃久プロデューサー
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――大江さんの名前が出ましたが、『ドライブ・マイ・カー』でもご一緒された大江崇允さんに脚本を、そして『岬の兄妹』でセンセーションを巻き起こした片山慎三監督を起用された意図と経緯を教えてください。

まず、片山慎三さんにこの作品をお任せしたいということ、大江さんに脚本をお願いしたいということは私から提案させていただきました。

意図としては『岬の兄妹』で片山さんが見せてくれた、作家性と娯楽性の絶妙なバランス感覚が本当に秀逸だと感じたこと。なかなかこの感覚を持っている人はいないと思います。もちろん、日本の映画監督で優れた方は多いですが、バランス感覚ってなかなか難しい部分だと思うんです。

片山さんのことは前から知っていまして、人柄やどういった演出をされるかということは理解していましたし、この「ガンニバル」という題材にも興味を持ってくれるだろうとは思っていました。

大江さんに関しては、原作の有無にかかわらず、物語の世界観を構築する際の“分析能力”が非常に高い人なんですよね。物語の世界観を細分化した上で、何が必要で何が必要じゃないか? あるいは何を加えるべきか? といったことを精緻に分析してくれるんです。「これはこういう物語なのではないか?」と言語化する能力に優れていて、それはものをつくっていく上での指針にもなるので非常に助けられます。

また、非常に柔軟な頭の持ち主でもあるので、ディスカッションを重ねていく中で「そうか、自分はこう思っていたけど、こういうことだったんですね」と再構築する力にもたけています。さらに、それ等を脚本に落とし込んでいく際の“構成力”も素晴らしく、今回で言うと、長い物語を全7話に振り分けたり、1話ごとの物語の運びという部分での“柱”の立て方でも非常に優れているんです。

この「ガンニバル」という入れ子構造の難しい物語を大江さんならまとめ上げてくれるだろうと思っていましたし、もしかしたら、我々が思ってもいないような新たな発想や視点を加えてくださるのではないかと期待してお願いしました。

――原作の脚本化を進める中で、大切にした部分、大江さんや片山監督と話し合ったことについてお聞かせください。

まず何より、原作の味わいというものを余すところなく伝えようということ。原作を読まれた方ならおわかりになると思いますが、本当にどうなっていくのかわからないし、展開もテンポも早いんですよね。読み始めると、全巻を一気に読んじゃうような原作が持っている“熱量”は大切にしたいということは話しました。

一番大切にしたのは、第3話の構成ですね。ここで大悟の過去のエピソードと、現在の後藤家の襲撃によるカーアクションが交差して描かれます。エモーショナルな過去と、いま起きているアクション&サスペンスが“入れ子構造”となって、クライマックスに向けて加速していきます。

当初はこういう構造ではなく、過去と現在がセパレートされていて、過去のエピソードから始まり、それが終わってから現在のパートという流れだったんです。ここに関して僕のほうから「見たことのない映像体験にしたい」という話を大江さん、片山さんにしました。

主人公の阿川大悟の過去がめくれていく部分と、現在軸で起きている後藤家の襲撃に対処する大悟の“狂気”みたいなものが、重なる瞬間があるんじゃないか? 過去に娘を守るために彼が取った行動と、現在、後藤家の襲撃に対して見せる狂気が重なる――それは、その後、ある人物が発する「お前も同じじゃろ? 俺は家族を守るためなら何でもする。お前もそうじゃろ?」というセリフともシンクロするんですね。

それを見たら視聴者はきっとゾクゾクするだろうし、大悟という主人公は何をしでかすかわからない! と彼から目が離せなくなるんじゃないかと思いました。

片山さんは、そこでの僕の提案を僕以上に深く理解して、あの映像シークエンスで結実させてくださいました。

――主人公の警察官・阿川大悟を柳楽優弥さんが演じていますが、いまのお話にあったように、赴任先の村で遭遇する奇妙な事件に巻き込まれていくだけでなく、途中で妻から「楽しんでいるでしょ?」と指摘されるような、どこか狂気を帯びた男を見事に演じられています。

柳楽さんの起用に関しては満場一致でしたね。本当にすごい俳優さんで、現場であれほど強い影響力を持てる俳優さんはなかなかいません。カメラの前に柳楽さんが立っているだけで、物語の世界がこちら側に流れ込んでくる錯覚を覚えるような――レンズを通して視聴者に届けるだけでなく、現場にいる我々に対してまでも没入感を与えて、その場を掌握するような強い存在感を持った俳優さんですね。

阿川大悟という男を柳楽さんでしか演じられないようなやり方で演じてくださったと思います。柳楽さんが持っている――例えば過去の作品で言うと『ディストラクション・ベイビーズ』で見せたような狂気のかがやきみたいなものが、「ガンニバル」でも見られます。

何を軸にお客さんにこの作品を興奮してもらうか? という指針、何を見せるべきか? という編集の方向性などが、柳楽さんの芝居で定まっていったと思います。柳楽さんに出演をお願いし、快諾していただいた瞬間に、この作品の“核”が定まったんだなと思いますね。

――お話にもあった第3話のカーアクション然り、映像の質の高さも目を引きます。きちんと予算と時間をかけて、クオリティの高い作品をつくろうという意思が伝わってきますが、プロデューサーとしてこの作品を成功に導く“勝算”はあったのでしょうか?

映像のクオリティに関しては、まず片山慎三さんにこの作品をお願いしたということ。そもそも、片山さんと知り合ったのは、何本かお仕事をさせていただいているカメラマンの池田直矢さんのご紹介なんです。

今回も池田さんに撮影監督をお願いしているんですが、池田さんのセンスが本当にすごいことはわかっています。映像の質の高さという点に関しては、片山さんと池田さんのコンビによる部分が大きいですし、そこに照明、美術、録音などの素晴らしいスタッフ陣が加わってくれました。何よりもまずスタッフへの信頼がありました。

これだけのスタッフを揃えた上で、“力点”をどこにするかを選ぶ必要はありました。全てのシーンに100%の予算と時間を注いでつくりあげていくというのは現実的になかなか難しいですし、様々な制約はあります。

スケジュールが決まった時点で、「この作品は、ここに賭けるんだ」という力点を選んでいかないといけないのですが、その選択肢の豊かさは今回、確実にあったと思います。

実際の撮影に関していうと、ロケ現場があちこちに点在してしまったことで、現場のスタッフやキャスト陣は本当に大変だったろうと思います。


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《黒豆直樹》

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