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男女逆転「大奥」大正解のキャスティングと3度目の実写化が“いま”に響く理由

NHKドラマ10「大奥」、第1回で冨永愛演じる8代将軍・徳川吉宗が大正解の形で登場したとき「これは来た!」と確信を得たドラマファンは多いはず。各時代の出演者たちもキャリア至上の熱演を見せている

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男女逆転の江戸パラレルワールドが展開する、よしながふみ原作の人気コミックを実写化したNHKドラマ10「大奥」が好評だ。「なぜ再び、いま?」そんな不安を一瞬で拭い去ってくれたのは、第1回で冨永愛演じる8代将軍・徳川吉宗が登場したときだ。

原作から抜け出てきたかのような、強く明確な意志を感じさせる切れ長の瞳、黒衣の姿の風格とカリスマ性。冨永さんほど、駿馬で浜辺を駆ける女将軍・吉宗が似合う人はいない。いつか必要になるかもと「独自で殺陣や乗馬の練習もしていた」という冨永さん。TVドラマ化もされた名君がもし女性だったら…という世界を大正解の形で見せてくれたことに「これは来た!」と確信を得たドラマファンは多いはず。もちろん、各時代の出演者たちもキャリア至上の熱演を見せている。


信頼と安心のドラマ10枠


よしながふみによる原作は「MELODY」(白泉社)にて2004年から2021年まで連載され、コミックは全19巻に及ぶ。英訳され、フェミニズム漫画でありジェンダーを考える作品として海外からの評価も高い。

これまで、2010年10月に映画『大奥』が公開され、2012年にTBS系にてドラマ&映画のWプロジェクトで映像化、ドラマ「大奥~誕生~」として“有功・家光編”が描かれた後、映画『大奥~永遠~』で“右衛門佐・綱吉編”が描かれた。

今回は連続テレビ小説「ごちそうさん」や大河ドラマ「おんな城主 直虎」などの森下佳子が脚本を手がけ、家光編から物語のラストとなる大政奉還までが初めて映像化。

今秋から放送が決定したSeason2にて、8代・吉宗の遺志を継ぎ、若き医師たちが赤面疱瘡撲滅に向けて立ち上がるその後の物語から、女将軍をはじめとした幕府の人々が“江戸城無血開城”のために奔走した幕末・大政奉還の物語を描いていく。


そして放送枠のドラマ10といえば、2022年4月期から6年ぶりに金曜夜10時から火曜夜10時に戻ってきたが、「セカンドバージン」(2010)をはじめ、近年は「女子的生活」「透明なゆりかご」(2018)、「トクサツガガガ」「これは経費で落ちません!」(2019)など現代社会を生きる様々な女性たちのドラマや、「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」(2021・2022)、「正直不動産」「拾われた男」(2022)など話題作を多数輩出しており、ドラマファンから厚い信頼を寄せられる枠となっている。


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原作とシンクロ!? 冨永愛×中島裕翔の吉宗公×水野にときめく


第1回【8代 徳川吉宗×水野祐之進 編】で描かれたのは、謎の疫病「赤面疱瘡」が蔓延した後の江戸中期。若い男子だけが赤面疱瘡に罹ることから男性の人口は女性の1/4にまで減り、家族や労働の形態をガラリと変えてしまった。男を食べさせるのは女の役目という世界。“お世継ぎ”を生み育てるための大奥も美男3,000人とうわさされる“男女逆転”の場となっている。

貧しい旗本の長男・水野祐之進役の中島裕翔(Hey! Say! JUMP)は水のようにスキッとキリッと凜々しく、純粋で気風のいい役柄を好演した。善意で女性たちに“種付け”をして回っている水野は、戦のない太平の世、武家の男子が目指す頂点は「大奥に入って将軍様との子をなすしかない」とうそぶき、幼なじみの町人の娘・お信(白石聖)との未来を諦めて母や姉の幸せのために大奥入りする。この2人の、当時としては許されない身分違いの恋には冒頭から泣かされる。ちなみに2010年の映画版では、二宮和也が水野役を演じていた。

一方、紀州徳川家から将軍となり、ド派手な裃(かみしも)をまとった“御鈴廊下”の御中臈たちから千両箱が飛んでいくように見えていたのが、冨永さん演じる吉宗。この国の行く末を一番に考える吉宗は、インフレが止まらず羽振りが良いのは大手の商人ばかりという、まるで現在と同じような状況にある民の暮らしを案じて大胆な倹約政策をとったことで知られる。

そんな吉宗は、水野のお人好しで一本気な性格と黒地の流水紋の裃を選んだセンスを気に入り、夜伽(よとぎ)のお相手に選ぶ。御目見以下のときには別世界の出来事のように杉下(風間俊介)の話を聞いていた水野だが、圧倒的威厳を放つ上様を前にしても正直であり続けた姿が印象的だ。

冨永愛

将軍の初めての相手となった者は“ご内証の方”として打ち首にされるのが“大奥の定法”だったが、吉宗は水野との心からの対話によってその秘めた思いを汲み、町人・進吉という新たな道を用意する。人の道に外れたことはしない、その度量の大きさ、私欲にまみれていた大奥総取締・藤波(片岡愛之助)を「黙りゃ!このタヌキジジイ」と一蹴する姿はまた実に格好よいもの。

かと思えば、ときどきこぼれる無邪気な笑顔や御用取次・加納久通(貫地谷しほり)との丁々発止のやりとりのギャップも魅力で、久通の藤波すら恐れない肝の座り方も気持ちがいい。

そして、大奥のあり方に疑問を持った吉宗が3代・家光の時代から大奥の成り立ちや様々な出来事を記してきた村瀬正資(石橋蓮司)による「没日録」を読む、という形で時代は遡っていく。



堀田真由×福士蒼汰、キャリアを更新する名演!


第2回からは、福士蒼汰堀田真由による【3代 徳川家光・万里小路有功 編】だ。公家出身の僧・有功は春日局(斉藤由貴)より還俗を強いられ、大奥入りすることに。赤面疱瘡で没した家光の身代わりとなった家光の娘・千恵の御中臈とするためだ。

眉目麗しい僧侶の姿から一転、まげを結った“お万の方”こと有功の姿で改めて福士さんに見惚れた方も多いだろう。やがて大奥での日々を“修羅道を生き抜く”かのようだと言い表す、聡明かつ高潔にして、柔和で一途な役柄は福士さんにとてもよく似合っている。

また、これまでヒロインのライバル役や友人役などで注目され、現在「ゼクシィ」のCMガールも務めている堀田さんは、TBS日曜劇場「危険なビーナス」などで見せたような生意気さや小悪魔的な魅力、生い立ちや過去のトラウマによる暴力性とそれに相反する可憐さなど、まるでプリズムのような家光(千恵)という難役を見事に演じ切った。

儚い悲恋を体現した両者の演技は、第1回で魅せられたファンを「大奥」の世界にいっそう引き込ませることに成功した。間違いなく2人にとっての代表作となるはずだ。

第5回より

家光こと千恵は子を生むためだけに連れてこられ、母も、名前も、女としての身なりも取り上げられた。御中臈たちは、“上様”でありながら「小娘」「じゃじゃ馬」呼ばわりして見下す者ばかり。千恵が第3回で言った「畜生ども」とはもちろん愛猫・若紫に対するものではなく、若い彼女を凌辱した男たちに対するものだ。

そんなトラウマを抱えた彼女を、羽衣のような繊細な優しさで包み込んだのが有功だった。有功の前では、千恵として天真爛漫さを見せることができた。公家出身であった有功もまた大奥では見下されていた存在であり、後には男性不妊に関しても公然にされ、代わりの者が次々と想い人である家光こと千恵を抱く、という苦汁をなめる。

第5回より

また、部屋子になった小僧・玉栄(奥智哉)も陰湿な暴力に遭い、有功を守るために自身も暴力に染まってしまうが、有功が信頼して御中臈の役目を託すことができたのは玉栄であればこそ。

心から愛し合っていても、体を重ねることは許されない。いわば拷問に近い苦行に有功が平静を保てなくなるシーンでの福士さんの殺気は素晴らしく、取り乱した有功を抱擁する奥さん演じる玉栄の姿までも、傷つき凍えた雛同士が身を寄せ合うかのようだった。

第5回より

さらに、自らが経験した嫉妬や羨望、孤独といった負の感情から逃げることなく向き合い、男たちの品性に欠けた言動を目の当たりにしてきた有功が、大奥内での学問や役割分担を徹底していったことも興味深い。

なお、今回の「大奥」には仮面ライダーや、戦隊、ウルトラマンなど特撮作品で名を上げた俳優陣が多いことにも注目。「仮面ライダー」出身の福士さんに、奥さん、“お楽の方”を演じる濱尾ノリタカ、“お夏の方”役の押田岳、御中臈・和田役の佐藤祐基ら。角南役の田中幸太朗は戦隊出身で、第1回で水野に大奥を案内した松島役の橋本淳も同様。藤波の寵愛を受ける柏木役は「ウルトラマンタイガ」主演の井上祐貴だった。



現代人が共感できるメッセージも


赤面疱瘡という人間が太刀打ちできない疫病の流行は、コロナ禍そのもの。状況が一変し、従来の環境・価値観の変化が否応なしに求められるのなら、新しい感性や意見を受け入れ柔軟に対応していかなければ、安心して“お子”を生み育てられる世の中にはならない。

徳川の世を存続させるという使命(むしろ枷)のために自分を犠牲にする生き方を強いられた家光(千恵)と有功、春日局、正勝(眞島秀和)たち。多くの犠牲の上に成り立つ太平の世とは、真の平穏なのか? そもそも、家光公の血を引く女子に世継ぎを生ませる策は春日局が考えついたものだが、斉藤さんが演じた鬼気迫る春日局の姿には、それまでどれほどの修羅を生き抜いてきたのか思いを馳せずにはいられない。千恵を案ずれば案ずるほど、「お子をなせば幸せになれる、女とはそういうもの」と刷り込まれてきた価値観の過ちを自覚していたことだろう。

第2話より

何もかもを奪われ“腹だけを貸せ”とされた千恵の姿には、カナダの作家マーガレット・アトウッドによる「侍女の物語」を映像化した海外ドラマ「ハンドメイズ・テイル」を想起した方もいるかもしれない。そして21世紀のいま、リアルにそう考える者たちがいるのがこの国だ。



仲里依紗×山本耕史、曲者同士がバッチバチ!


第5回の中盤からは【5代 徳川綱吉・右衛門佐 編】へと時代は移る。同性からも支持される仲里依紗が、華やかな元禄の世にあって“色狂い”と町人たち(阿佐ヶ谷姉妹に!)からうわさされる家光の娘・綱吉を演じる。自らの幸福と快楽を追求する綱吉。その将軍に見初められながら、男女関係よりも権力を望む右衛門佐を演じるのが、曲者を演じさせたら右に出るものはいない山本耕史

第6話より

桂昌院(竜雷太)もかつての堅物・玉永から一変(!?)、女性の前では形なしになる様子が描かれ、世の移り変わりを感じずにはいられない。綱吉を思う柳沢吉保(倉科カナ)も加わった人間ドラマの深みも見どころとなるだろう。


今後、いっそう濃密になる性描写に対しては、日本初の“インティマシー・コーディネーター”であり「エルピス―希望、あるいは災い―」「サワコ ~それは、果てなき復讐」やNetflix「金魚妻」などに参加してきた浅田智穂さんの存在も重要だ。

いま描かれるからこその「大奥」、その奥義には期待しかない。

【第9話あらすじ】
吉宗は江戸で発生した赤面疱瘡に効くかもしれないとある物を試すも敗北に終わる。責任を感じた水野からの訴えで吉宗は大きな決断を下すことに。それと同時に吉宗を悩ませるのが長女の家重(三浦透子)。家重は体を思うように動かせない苛立ちから周囲を困らせることが多く、新たに家重の小姓となった龍(當真あみ)は将棋であることに気づく…。

ドラマ10「大奥」は毎週火曜22時~NHK総合ほかにて放送中。


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《上原礼子》

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。レイア姫は永遠の心のヒーロー。

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