スロヴェニア国際映画祭で作品賞を含む11部門を独占した、新鋭グレゴル・ボジッチ監督の大人のための寓話が邦題『栗の森のものがたり』として日本公開決定。絵画のような映像美を堪能できる5本の特報が一挙に解禁された。
イタリアとユーゴスラビアとの国境に位置する広大な森を舞台に、ケチな棺桶職人と、夢見る栗売りの孤独な2人の人生を幻想的に描き出した本作。
時は1950年代。かつては安息の地と呼ばれ、息を呑むような美しさを誇った栗の森に囲まれた小さな村。第二次世界大戦終結後、長引く政情不安から人々の多くは村を離れ、または戻ってくるはずもない家族や隣人をただ待ち続ける。
大工のマリオは、家を出たまま戻らないひとり息子からの連絡を待ち続け、投函することのない息子宛の手紙に思いを綴っては引き出しにしまう。栗売りのマルタは、戦争から戻ってこない夫からの手紙と数枚の写真を唯一の手掛かりに、彼が現在住んでいるであろうオーストラリアに旅立つ決意だ。そんなある日、マルタとマリオは出逢い、互いの身の上を語りながら、その境遇を思いやる。そしてマリオはマルタにある提案を持ち掛けるのだが…。
監督・脚本・編集を手掛けたのは、本作が長編デビューとなるスロヴェニア出身の新鋭グレゴル・ボジッチ。本作は2019年のトロント国際映画祭でプレミア上映されるや大喝采を浴び、スロヴェニア国際映画祭では最優秀作品賞、監督賞、男優賞、撮影賞、観客賞など11部門を受賞。2020年に開催された日本・なら国際映画祭では、コンペ作品の中で「最も美しい」と評され審査員特別賞に輝いた。
フェルメールやレンブラントといったオランダの印象派の画家に影響を受けたというボジッチは、35mmとスーパー16mmフィルムを駆使し絵画のような風景を切り取る。使い古しの洗面器にピッチャーや果物、箒や靴、洗濯カゴや紙くずまでが、優しい光に照らされ、ゆっくりと時が流れる森の日常を、陰影深く描き出した独特の映像美がうかがえる。
賭け事が大好きで、病弱な妻にも辛らつな言葉を浴びせる大工マリオ役に、イタリアの名優マッシモ・デ・フランコヴィッチ。70以上の作品に出演し、多数の賞を獲得。現代映画界を代表するメソッド・アクターとしてその名を馳せている。
お金を貯めて「栗の森」を離れようと気を揉む最後の栗拾いマルタ役には、クロアチアで活躍する人気俳優イヴァナ・ロシュチッチ。
人生を重ね深みある顔に神々しささえ感じられるマリオの妻ドーラ役には、イタリアの名女優として200以上の演劇や映画に出演するジウジ・メルリが扮した。
音楽は、アイスランドのヘクラ・マグヌスドッティル。幽玄なテルミンの音色で彼らの喜びや悲しみ、喪失感の無常さを詩的に表現。また、馬車に乗る若い女性2人がシルヴィー・バルタンの名曲「アイドルを探せ」を唄い、踊るシーンはあまりに愛おしく印象的なシーンとなる。
ロシアの文豪アントン・チェーホフの短編小説にインスピレーションを受け、人生の機微を甘くほろ苦く描いた本作。生と死の境界線は曖昧で、森の中で遭遇するものは現実なのか妄想なのか…。全てのカットに美が宿る映像美、メランコリックな大人の寓話が深い余韻を約束する。
『栗の森のものがたり』は10月7日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開。