「ロキ」シーズン2の第5話「サイエンス/フィクション」では、前回のラストで崩壊してしまったTVAを元に戻すため、様々な時間軸をタイムスリップするロキがテンポよく描かれた。
「ひとりは嫌だ」とようやく本音を漏らしたロキ。彼が何より望んでいたのは、在り続ける者の襲来を防ぐことでもTVAを守ることでもなく、苦楽を共にしてきた(?)メビウスら友人たちとの再会だった。
お馴染みの顔ぶれに会いたくて…数々の分岐時間軸を旅するロキ
せっかくヴィクター・タイムリーを分岐時間軸のシカゴ万博からTVAに連れてきたのに、いざ時間織り機を直そうとしたら、見事にスパゲティ化されてしまった前回。
目を開けたロキは、TVAの制御室に再びタイムスリップしていたが、誰の姿も見えない。「フェイルセーフ・モード」が起動する中、時間軸を監視する部屋も無人で、同じ場所にタイムスリップしてきた未来の自分がいただけ。
そこから、様々な分岐時間軸にいる友人たち1人1人のもとへ向かうことになるロキ。それぞれのシーンは長くはないながらも、各キャラクターがどんな人生を望んでいたのか、何が得意だったのかが見えてくるような時間旅行となった。
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まずは、1962年のサンフランシスコ、アルカトランズ島。“ザ・ロック”と呼ばれた悪名高き刑務所からいま脱出しようとしていた男…a.k.aケイシーである。
仲間らしき2人からフランクと呼ばれていた彼は、脱獄不可能といわれたアルカトランズ刑務所から脱獄したものの行方不明となり、クリント・イーストウッド主演で『アルカトラズからの脱出』として映画化された実在の人物フランク・モリスか!? シーズン1・1話では、飛行機をハイジャックして身の代金を奪い、パラシュートで飛び降りたD.B.クーパー事件がモチーフとなっていたが、今回も実際に起きた不可解な出来事がモチーフとなった。
その後は一瞬、メビウスと初めて会話したTVAのタイムシアターに行ったり、シルヴィがいる1982年・オクラホマのマクドナルドにも行ったり…。2012年のニューヨークではa.k.aハンターB-15が、小児科医のウィリス先生となっていた。神聖時間軸ではロキが仕掛けたN.Y.大決戦が起こるはずだが、ケガをした少女はどうやら木登りをしていて落ちたらしい。
そして2022年のオハイオ州・クリーヴランドには、2人の息子のシングルファーザーであるドンa.k.aメビウスがいた。『アベンジャーズ/エンドゲーム』のタイム泥棒作戦以前であり、ドンの妻は指パッチンで消えていたのかもしれない。
念願のジェットスキー販売店を経営しているドン。店名は「ピラニア」。マーベルコミックにはピラニアというキャラクターがおり、「ルーク・ケイジ」(もはや懐かしい)にも登場しているが、まったくの別人ではある…。
また、1994年のカルフォルニア州・パサディナでは、大盛り上がりのFIFAワールドカップアメリカ大会の会場…ではなく、売れないSF作家A・D・ダグa.k.a O.B.(ウロボロス)の家に現れた。
今回は、スパゲティ化のVFXやプロダクションデザインには引き込まれたが、物理学者でもあるダグの研究室兼書斎のプロダクションデザインは特に見事。画面を停止して目を懲らして見た方も多いかもしれない。天井に設置された巨大なオブジェには、それこそタイム泥棒作戦の装置もよぎる。
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ダグから教えを請い、望む時間と場所に時間移動を試みようとするロキ。SFでは行動理由(WHY)がすべて、どうしてTVAが壊れる前に戻りたいのか。その理由を“TVAを救うこと”と考えながらレッツ・トライするも、できない場面は久々に笑いを誘う。トム・ヒドルストンはやっぱり、素晴らしいコメディ俳優だ。
さらに、こんな時にタイムパッドがあれば…仕組みさえ分かればなぁ…となったところで、ロキが冒頭で胸のポケットにしまったTVAの公式ガイドブックに気づく! これぞタイムミステリーで仕掛けが“繋がる”醍醐味である。第3話でミス・ミニッツとレンスレイヤーがヴィクター少年にガイドブックを託したように、今度はロキがダグa.k.a O.B.にガイドを与えた。
最後の1人は、もちろんシルヴィだ。本心では彼らを一心に求めながらも、なかなか“真っ直ぐに”会いにいけない感じ、素直じゃないところが、まさに愛すべきロキらしい。
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シルヴィに「あなたの望みは? ほら正直に言ってごらん」と言われて、ようやくロキはシルヴィをはじめ彼らが大切な友人であり、彼らと過ごしたTVAを守りたいと、「ひとりは嫌だ」と口にするのだ。
本来の神聖時間軸ならば、ロキは母と父を失うも兄ソーとは和解し、地球に居場所を見つけようとした矢先に『インフィニティ・ウォー』でサノスに倒されてしまう運命だった。
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枝分かれしてきた本作のロキの居場所は、紛れもなくメビウスやB-15、ケイシー、O.B.たちがいるTVA。それが、変異体のロキとしての彼の物語だった。
シルヴィから、皆、元の場所で好きなように自分の人生を生きて“自分の物語を書いている”のだからと、一度は自身のエゴを手放すことを決めたロキ。
だが、落ち込みソングともいえる「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」の「Oh!Sweet Nuthin’」に乗せてシルヴィの大切な時間軸もスパゲティ化してしまうと、TVAがメルトダウンしたせいで分岐時間軸が次々と消え去っていることがわかる。『インフィニティ・ウォー』のサノスの指パッチンさながらの衝撃の再来である。
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ドンa.k.aメビウスたちが次々とスパゲティ化していったところで、ロキはようやく時間移動のコントロールを可能にする。そのカギは「誰を思うか」。サイエンス(科学)ではなく、フィクション(物語)だった。
「物語を書き換える」と宣言したロキが時間移動して向かった先は、どうやら第4話で描かれたヴィクター・タイムリーが時間織り機の元へ向かう直前のようだ――。
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残すところ、あと1話。いつも駆け足気味になってしまうのがマーベルドラマの最終話だが、エンドクレジットで流れるザニアックのアーケードゲームの「コインを入れろ」という声の通りに、ロキはリスタート=リライトを試みるのだろうか。
最終話でどんな物語に書き換えようというのだろう? TVAを再建するのだろうか? そうなると、もはやロキは“在り続ける者”と同じだけの時空の支配力を手にしているのでは…?
ちなみに「ロキ」の公式Instagramは、いまだ「アクセス拒否」となっている。
「ロキ」シーズン2は毎週金曜10時よりディズニープラスにて配信中(米国サマータイム終了に伴い、11月10日最終話は11時から配信)。
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