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【レビュー】全6話で希望の糸をたぐり寄せる趣里主演「東京貧困女子。」 制作陣の覚悟と、他人事にしない勇気を感じる社会派ドラマ

貧困と聞くと、どこか遠い所にあるものと考えがちだ。世界が驚くほどの速さとレベルで戦後復興を果たした日本には、ずいぶん長いこと、縁のないもののように感じられてきた。だが今、貧困は深刻で身近な社会問題となっている。

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連続ドラマW-30「東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-」
連続ドラマW-30「東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-」 全 8 枚
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 貧困と聞くと、どこか遠い所にあるものと考えがちだ。世界が驚くほどの速さとレベルで戦後復興を果たした日本には、ずいぶん長いこと、縁のないもののように感じられてきた。だが今、貧困は深刻で身近な社会問題となっている。社会派エンターテインメントに定評のあるWOWOWが今期制作したのは、朝ドラ「ブギウギ」も話題の趣里主演「東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-」。原作ルポに加え、真摯な取材を元に描いた全6話で、社会の中で見過ごされがちな人々の声を、さらには現代を浮き彫りにしている。


「東京貧困女子。」特設加入ページ

全6話で浮き彫りになる
様々な社会問題と密接に絡み合う貧困の現状


ドラマ「東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-」は、タイトルからして衝撃的だ。日本の現状を直視しようとしない自分の、そして現代日本に蔓延る鈍感さを見透かされているような気がして、どきりとさせられる。本編では、貧困にはさまざまな原因や発端があるという現実、決して個人の努力や我慢では解決できない複雑な社会問題であること、そして誰もが陥る可能性があることが描かれていく。それに気づけば、この時代を生きる者にとって、貧困は決して他人事ではすまされないのだと知ることになる。

原作は、東洋経済オンラインの人気ルポルタージュ連載を書籍化した「東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか」(原作・中村淳彦/東洋経済新報社刊)。趣里演じるドラマオリジナルの主人公・雁矢摩子はシングルマザーで経済誌の契約編集者だ。三浦貴大扮するフリーライターの﨑田祐二とともに女性たちを取材しながら、様々な社会問題と密接に絡み合う貧困の現状を、全6話で浮き彫りにしていく。

 まず、ドラマを観て痛感したのは、貧困について筆者自身が何も理解していなかったという事実だ。第一話では、家が貧しい医大生が風俗で働く理由が語られ、第二話では夫のうつ発症をきっかけに売春を始めた母親の絶望、第三話では精神疾患を負った姉の介護ですべてを失った女性の失望、第四話では職場と家庭で受けた壮絶なパワハラとDVにより心身のバランスを失った主婦の告白と、深刻なエピソードが続いていく。第五話では﨑田の元恋人の貧困事情から、﨑田が風俗ライターを続ける理由がひも解かれ、第六話では壮絶なDV被害が摩子の身近で起こり、貧困の瀬戸際での葛藤が生々しく描かれる。

 いずれも壮絶だが、特に第二話に登場する母親が印象的だった。息子のために自らの性を売り、弱みにつけ込まれ続けた末に人間扱いされない自分はモノだと感じていると語る様子に、深い悲しみを禁じ得なかった。こんな母親で申し訳ない、役割を果たして早く息子の前から消えたいと淡々と語る。男性社会の中で、選択肢をもたない女性たちがセックスビジネスへと身を投じ、それでも僅かな稼ぎしか手にできないという現実もやるせない。

 また、第四話で描かれるあからさまな女性差別も深刻だ。社会・職場での「性差別」は、ことの深刻度に差こそあれ、女性の多くが体験していることかもしれない。長いこと、女性は男性優位の社会を支える役割を担わされていた。それが今、大きな醜いゆがみと化していることが、摩子の気づきを通して描かれる。

 登場人物それぞれが違った道筋を歩みながらも、同様に負のスパイラルにはまり、そこから抜け出せずにいる。はっとさせられたのは、社会にある先入観や思い込み、妙な正義感や常識が貧困当事者である女性たちを更に追い詰めているということ。それを教えてくれるのが、視聴者の代弁者とも言える主人公の摩子なのだ。自らもシングルマザーで経済的に決して楽ではない。だが、どこかで自分は彼女たちと違うと線引きをして、知らないうちに先入観を持って彼女らと接している。取材対象者である彼女たちの話を聞くうち、自らもボーダーラインに立っていることを認識。男性の支配と女性の被支配の構図が社会にある結果、多くの女性が社会の矛盾や不条理に絡め取られ貧困へと向かっていく仕組みに気づくのだ。

 摩子たちが身を置く出版業界も多くの問題を抱えている。フリーランスライターとして働く筆者も、今と何かがひとつ違っていたら、すべてが大きく変わっていたはずなのだ。その何かは、きっと誰にでもある。そこに気づく人が増えれば増えるだけ、社会が変わるためのうねりが生まれるのかもしれない。本作は確かに、そのきっかけを提示している。

企画・プロデュースを担当した大木綾子氏は「原作ルポに加えたオリジナルの縦軸ドラマは、独自の取材に基づいて描いており、作品全体に、人間不在の隙は作らないリアルを意識していた」と制作への思いを語っている。大きな社会問題について語るとき、どこまでリアリティを持って描けるかは、制作陣の覚悟によるところが大きい。WOWOWが、本テーマに徹底して取組む真摯な姿勢は随所に表れている。劇中、ライターの﨑田が語るこの言葉が制作陣の覚悟を物語っているのだろう。

「貧しさは人を殺すんだ。貧困問題を扱うっていうのは、そういう瀬戸際にいる人間を相手にすることなんだよ」


ドラマ制作陣の覚悟と勇気を感じる
社会派ドラマ


“豊かな日本”のイメージを今も引きずり、貧困問題があるということすら認めたくない人々もいるのだろう。本当に知らないのか、見ないふりをしているのか。今、多くの組織が、「見て見ぬふり」の代償を払う事態に陥っている。日本を組織として捉えるならば、まずは国民が、貧困にあえいでいる人がいるということを認め、彼らの声に耳を傾けるべきなのだ。

このドラマの公式ホームページにはこう書かれている。

「本作品を通して伝えたいことは、貧困に対して『知ってほしい』ということです。その瞬間瞬間を生きるため、生き抜くための選択があり、一方で、様々な背景で選択肢すら持たない、持てない人がいる。そういった事実に対して、まずは知る、その先で考えてみるきっかけになれば、という思いで原作ルポをWOWOWでドラマにしようと動き始めました」。

ドラマ化にあたり、「女性による女性のための相談会」実行委員会が本作の監修協力を行った。制作チームはその支援活動に参加し、取材を行ったという。大木プロデューサーは、「漠然とした考えから、具体をもって考えるきっかけになったと同時に、この作品に込めたいテーマ『知ること、その先で考えること』と『人間の繋がり』の大切さを痛感しました」とも語っている。

そこを起点に、ドラマと双璧を成す活動をスタートさせた。【「女性による女性のための相談会」実行委員会】へ放送視聴料金の一部を寄付する取り組みだ。特設ページよりWOWOWに加入すると、1か月目の視聴料の10%(230円)が同実行委員会へと寄付される。寄付金は東京都内で開催される「女性による女性のための相談会」のための会場使用料、食糧や物資などの一部に使用される。

「委員会が開催した実際の当事者支援活動に本ドラマの制作陣も参加、当事者支援活動の一端に触れて、この根強い問題の存在を体感しました。そしてその体験を通じて、生活不安のある女性のための様々な活動に微力ながらも『寄付』という形で貢献できるのではないかと思い、この施策を企画させていただきました」(公式ページより)。

事実を伝える、ドラマを作るという役割を超えて、もっとその先へと歩をすすめていく。そのことからも、ドラマ制作陣の覚悟と、他人事にしない勇気を感じる生粋の社会派ドラマだ。ドラマを観たひとりひとりが、この現実をどれだけ真摯に受けとめられるのか。希望の糸をたぐり寄せるために必要な私たちの覚悟も、試されている。


「東京貧困女子。」特設加入ページ

〈提供:WOWOW〉

《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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