プロデューサーや撮影も自ら務めるアメリカの孤高の女性監督、ニナ・メンケスの3作品が5月10日(金)より、日本の劇場初公開決定。初期の傑作2本『マグダレーナ・ヴィラガ』『クイーン・オブ・ダイヤモンド』、現時点での最新作『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』を上映する。
その特異な作品づくりと、そこから生み出される研ぎ澄まされた映像世界によって、多様なアメリカ映画界の中でも唯一無二の存在として1980年代初頭から現在まで活動を続けるメンケス監督。
女性たちが対峙する内面世界や、孤独や暴力といったテーマを扱い、ご都合主義に微塵も流されることなく、過激なまでに独自の美学を貫き通すメンケス監督の作品は「デヴィッド・リンチに負けず劣らず、無意識を描き出す芸術家」(The New York Times)、「ペキンパーやカサヴェテス以来のアメリカのどの監督よりも、暴力というテーマについて雄弁」(LA Weekly)などと評されてきた。
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また、シャンタル・アケルマンやケリー・ライカートらを引き合いに出して賞賛され、数々の国際映画祭に招聘されてきたものの、我が国では長い間劇場公開されることがなかった。
だが、近年、初期作品がアカデミー・フィルム・アーカイブとマーティン・スコセッシの映画財団によって修復されるなどさらに評価の気運が高まり、昨年、国立映画アーカイブで開催された特集「アカデミー・フィルム・アーカイブ 映画コレクション」にて代表作『クイーン・オブ・ダイヤモンド』が上映。その圧倒的な映像は観客の度肝を抜いた。
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今回はその『クイーン・オブ・ダイヤモンド』と、長編第1作目『マグダレーナ・ヴィラガ』、さらには現時点の最新作『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』が公開決定。
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殺人の容疑をかけられた娼婦を主人公に、彼女の内と外との生きる世界を描く『マグダレーナ・ヴィラガ』、ラスベガスの女性ディーラーの倦んだ日常を追う傑作『クイーン・オブ・ダイヤモンド』、そして、現在にいたるまで映画がいかに「Male Gaze=男性のまなざし」に満ちているか、そして我々の実生活にも影響をもたらしているか、多くの名作の抜粋を用いて解き明かすドキュメンタリー『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』。
いずれもが驚きにあふれた3作。自らを「映画の魔女」と呼ぶ、知られざるメンケス監督の作品群は見逃せない。
『マグダレーナ・ヴィラガ』1986年
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殺人の容疑で捕まった娼婦のアイダ。映画は時系列を曖昧にしながら、彼女の肉体的、精神的な細部をとらえ、孤独な女が生きる世界と、内なる心の世界を描きだしていく。女性たちの「決して語られることもない物語」であり、残酷な現実に舞台をおきながら、静かな闘いと声を浮かび上がらせる詩的な美しさに満ちた1本。主演はメンケスの妹であるティンカ・メンケスが演じている。ロサンゼルス映画批評家協会賞の「年間最優秀インディペンデント/実験映画賞」を受賞。
※アルべロス・フィルムとアカデミー・フィルム・アーカイヴによって修復。共同提供:EOSワールド・ファンド
『クイーン・オブ・ダイヤモンド』1991年
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きらびやかなカジノのネオンと、不毛な砂漠の風景がならぶラスベガスの地で生きる女性ディーラー、フィルダウス(ティンカ・メンケス)の倦怠な日常を大胆かつミニマムに描き(監督いわく、本作は「私が描いたアメリカ合衆国像」/プレスより抜粋)、「90年代のアメリカにとっての『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コルメス河畔通り23番地』となりえるだろう」(Chicago Reader)と絶賛された傑作。厳格な構図でとらえた地にたたずむ女の姿は繊細で、素晴らしく力強い。
※アカデミー・フィルム・アーカイヴおよびザ・フィルム・ファウンデーションによる新たな修復。資金提供:ジョージ・ルーカス・ファウンデーション 共同提供:EOSワールド・ファンド
『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』2022年
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フェミニストの映画理論家たちが何十年にもわたり探求してきた「Male Gaze=男性のまなざし」の問題。
本作は、映画というメディアがいかに「男性のまなざし」に満ちているか、そしてその表現がいかに我々の実生活に影響を及ぼしているかの事実をヒッチコックからスコセッシやタランティーノ、さらには2020年代の最新作まで大量の映画のクリップを用いて解き明かしていくドキュメンタリー。
「ニナ・メンケスの世界」『マグダレーナ・ヴィラガ』『クイーン・オブ・ダイヤモンド』『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』は5月10日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開。