「映画という表現の一つの到達点。クリストファー・ノーラン監督と同じ時代に生まれて本当に幸運だ」「21世紀最高の映画の一つ」「1秒も飽きさせない」など、ついに迎えた日本公開に反響の声が上がっているクリストファー・ノーラン監督最新作『オッペンハイマー』。
キリアン・マーフィー演じるJ・ロバート・オッペンハイマーと多くの科学者や友人、軍人、政治家などがさまざまな時系列で関わり合っていく本作で、原子爆弾を創造し世界の在り方を変えてしまった天才科学者が翻弄された激動の時代に迫った。
オッペンハイマーが生きた時代の背景
世界大恐慌とファシズム
オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)がカリフォルニア州立大学バークレー校で教鞭をとり始めたのは1929年。そのころ、株価暴落を発端にアメリカ史上最大の経済恐慌に陥り、世界に広がる。
一方で、戦闘機や戦車、毒ガスなど新兵器の開発が進んだ第一次世界大戦(1914-1918)に敗戦後、困窮するドイツにヒトラー率いるナチスが現れる。
核開発競争
第二次世界大戦(1939-1945)が始まり、ナチスに先行して原子爆弾開発をすすめる「マンハッタン計画」にて1945年7月16日、人類史上初の核実験「トリニティ実験」が成功、その4年後にはソ連が核実験を成功させる。
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原爆は日本を降伏させただけではなく、アメリカが超大国であることを知らしめることにもなった。戦後は核兵器を有する米ソ冷戦の中でアメリカでは反共産主義が広がり、「赤狩り」でオッペンハイマーも共産主義者との過去の関わりを疑われる。
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オッペンハイマーが生きた時代のキーワード
マンハッタン計画
第二次大戦中に米軍が極秘で進めた核兵器開発プロジェクト。
ナチス・ドイツが原爆を開発する恐れがあるとアルベルト・アインシュタイン(トム・コンティ)ら亡命科学者から警告を受けたフランクリン・D・ルーズベルト大統領が極秘裏に命じた。研究で先行していたイギリスと協力して1942年夏から陸軍工兵隊レズリー・グローヴス(マット・デイモン)准将を責任者としてニューメキシコ州北部のロスアラモス研究所にて計画が進む。
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弟フランク・オッペンハイマー(ディラン・アーノルド)、エドワード・テラー(ベニー・サフディ)、ハンス・ベーテ(グスタフ・スカルスガルド)ほか、さらにコンサルタントとしてオッペンハイマーの友人イジドール・ラビ(デヴィッド・クラムホルツ)ら、多くの科学者たちがこの計画を支えた。
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トリニティ実験
「マンハッタン計画」の一部であり、1945年7月16日にロスアラモスより南方のニューメキシコ州アラモゴードで行なわれた人類最初の核実験。
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「トリニティ」(三位一体)とは極秘裏の実験のコードネーム。この名称はオッペンハイマーがジョン・ダンの詩から名づけたとされ、ヒンズー教の三大神(ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァ)からとったという説がある。
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ポツダム会議
日本の無条件降伏をはじめ、連合国首脳が太平洋戦争の終結条件と戦後の対日本の処理方針を話し合った会議。
スターリンのソ連を仲立ちに戦争終結のための交渉が行われていたが、日本はポツダム宣言に対して明確な反応をしなかったため、アメリカは日本の降伏を狙いとして、1945年8月6日には広島、さらに8月9日には長崎に原爆を投下。また、8月8日にはソ連が日ソ中立条約を破り、対日参戦。8月15日、日本はポツダム宣言を受諾して降伏した。
アメリカ共産党
1919年、社会党から分かれる形で成立したアメリカ共産党は1930年に労働組合運動を組織し、党勢を拡大。大恐慌を背景に、労働者の権利と共産主義への関心が高まった。
オッペンハイマーは正式にアメリカ共産党に入党することはなかったが、共産主義や労働運動に対しては強いシンパシーを持っていたとされる。
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弟のフランク、恋人だったジーン・タトロック(フローレンス・ピュー)、妻のキティ(エミリー・ブラント)、バークレー校同僚のハーコン・シュヴァリエ(ジェファーソン・ホール)ほか、彼の周囲には共産党に入党したり、共産主義を支持する者が多かった。
また、レズリー・グローヴス(マット・デイモン)はオッペンハイマーの共産党へのシンパシーを知りながらも彼の仕事を信頼し続けた。
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共産主義
私有財産を否定し、全ての財産を共有する社会を実現しようとする思想や運動。アメリカにおける共産主義運動は大恐慌とともに労働運動として広がる。
第二次大戦後の冷戦開始に伴い、1940年代後半以降は労働組合内の反共主義の台頭や「赤狩り」と呼ばれる共産主義者のスパイ摘発運動が激化。1950年代に入ると急速に勢力が弱まっていく。
赤狩り
1940年代後半から1950年代前半にかけ、冷戦激化を背景に政治家からハリウッドの映画監督や脚本家、俳優、作家にいたるまで、アメリカ国内で行われた共産主義者の摘発・排除のこと。扇動したのが上院議員ジョセフ・マッカーシーであり、「マッカーシズム」とも呼ばれた。
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ソ連の核実験成功の一因には、「マンハッタン計画」に参加していたスパイからの情報があったとされるため、オッペンハイマーもマッカーシズム期に行われた「赤狩り」の場、下院非米活動委員会での公聴会で証言を求められた。かつて共産主義者とつながりはあったものの、スパイ活動への関与は否定、しかし原爆技術に対する機密保持許可が剥奪された。
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機密保持許可
国家機密等の重要情報を扱う公務員や政府などが特別に認めた民間人に対し、その適格性を確認したうえで情報へのアクセスを認める制度。
1954年、スパイ容疑をかけられたオッペンハイマーは機密保持許可が剥奪されたことで核関連の最先端の研究そのものから排除されることになり、事実上の公職追放となった。
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原子力委員会(AEC)
大戦を終結させた原爆などの核兵器を管理する必要性が高まり、1946年、アメリカは原子力・核兵器計画を監督・規制するために原子力委員会(AEC)を設立。
委員会は監督・規制だけでなく、原子力研究を軍から切り離し平和利用を推進する役割も担った。ルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr.)はAEC創設委員の1人であり、後の委員長。アドバイザーをつとめたオッペンハイマーは、水爆の開発に反対した。
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公聴会
連邦議会の常任委員会、その下の小委員会、あるいは特別委員会において、重要な法案や案件を審議する際に意見を聴取する。一般公開されるものは公聴会(public hearing)、一般公開されないものを聴聞会(closed hearing)という。
上院議員マッカーシーが主導した「赤狩り」の時代のスパイ容疑をめぐる公聴会は、国民の関心も高く、証人喚問では鋭い追及が行われた。多くの無実の人々が共産主義者としてレッテルを貼られ、公職を奪われた。
オッペンハイマーが1954年に機密保持許可を失ったのも、その一環である非公開の聴聞会。
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原爆研究からオッペンハイマーを事実上追放したストローズは、1959年に商務長官に任命されたが、上院での任命承認での公聴会で5年前にオッペンハイマーを追い込んだことが追及された。
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『オッペンハイマー』は全国にて公開中。IMAX®劇場全国50スクリーン、Dolby Cinema®全国10スクリーン、35mmフィルム版109シネマズプレミアム新宿にて同時公開中。