30年以上のキャリアを誇る韓国映画界を代表する名優ソン・ガンホが初めて出演したドラマシリーズ「サムシクおじさん」が、ディズニープラス スターにて独占配信開始となった。
ソン・ガンホが演じるのは、タイトルロールのサムシクおじさん。戦時中も毎日三食(サムシク)を家族に食べさせたことから、尊敬と親しみを込めてそう呼ばれている。そんなサムシクおじさんが、あるとき出会った理想家の青年とともに“壮大な計画”を目論みパートナーシップを結ぶ。
果たして、不敵な笑みを浮かべるサムシクおじさんとは一体何者なのか。彼の計画とは何なのか。初週に一挙配信される第5話までから紐解いた。
“腹が満ちれば心も開く”
1日三食が人心掌握のコツ
「おい!サムシク!」「サムシクおじさん」「サムシクおじさん?」など、先に公開されたティザー予告編でも様々なニュアンスで彼を呼ぶ声が飛び交っていた本作。
物語の舞台となるのは、同じくディズニープラス スターで配信中の「捜査班長 1958」とほぼ同時代、激動の1960年代初頭。まずは大雨降る韓国某所、とある極秘施設で取り調べを受けるキム・サン(ピョン・ヨハン)の姿から始まる。彼は“サムシクおじさん”ことパク・ドゥチル(ソン・ガンホ)と初めて出会ったころを回顧していた。
疑似親子とも違う、尊敬だけでも打算だけでもない関係性で結ばれた2人は、自国を誰もが三食を食べられる豊かな国にする、という同じ夢を抱いた者同士だ。
サムシクを本名で呼ぶ人はそういない。彼は困っている人がいれば、三食たらふく食べさせ望みを叶えてやる代わりに「何でもします」と約束を取り付け、自身の目的のために人々を動かす。靴磨きの少年も、食堂のおばさんも彼の貴重な情報源。製油会社と菓子屋を経営する事業家でありながら、市中に顔が利く謎めいたフィクサーである。
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次期指導者候補の国会議員カン・ミンソン(イ・ギュヒョン)から汚れ仕事を任され都合よくこき使われつつも、本音はおくびにも出さない。腹に一物あるふてぶてしさと、立場の弱き者を気にかける情け深さを併せ持っている。
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もちろんソン・ガンホがこれまで『パラサイト 半地下の家族』や『ベイビー・ブローカー』などで演じてきたような、ちょっと間の抜けたような人間味がないわけではない。だが、今回のサムシクはひと味もふた味も違う。彼には壮大な計画があるのだ。
思えば、『パラサイト』の父キム・ギテクは「計画がある」と息子に言いながら、実際は何の計画も持ち合わせていなかった。計画を立てても人生は思い通りにはいかない。だから、何が起きようが、人を殺そうが国を売ろうが、無計画でいれば失敗することはない、という境地に至るしかなかった。
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しかし、本作でのサムシクは志を同じくするキム・サンを担ぎ上げ、新たな大韓民国を作ろうとしている。その眼力と胆力はタダ者ではなく、場の空気を読み、相手が何を望んでいるのか瞬時に見抜き、食べ物を持って近づいては親密になる。計画を実行するために、まずは胃袋から掴むのだ。
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一方のキム・サンは陸軍士官学校を卒業後、アメリカの財団の奨学制度を受けて留学し、経済学で博士号を取得したいわば当時のエリート。
その経験をもとに、若い労働者たちを育てて韓国を産業国家に変えるという夢を抱いて帰国、内務部の国家再建局で“五カ年計画”を懸命に練っていたが、上層部は当時の大統領イ・スンマンの3期目出馬をめぐって頭がいっぱい。サンの計画は“共産主義的”といわれ、反故にされてしまう。
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「捜査班長 1958」でも描かれていたように、農業は破綻しつつあり、都市部では失業者やごろつきが続出。アメリカの援助ありきで何とか成り立っているジリ貧の自国を変えたかったサンは、婚約者ヨジン(チン・ギジュ)の父で大統領選の最大のライバルとされる革新党党首チュ・インテ(オ・グァンロク)に傾倒していた。
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あるとき、訳あって革新党の集会に顔を見せていたサムシクは、壇上で熱弁を振るうサンを見て、最初はよくいる理想主義の青二才かと立ち去りかけるが、ふとその足を止めることになる。サムシクが口ぐせのように言う「ピザを食べたことがあるか?」という言葉を、サンも口にしたからだ。
アメリカでは毎日食べられているという、野菜や肉にたっぷりのチーズがのったピザはサムシクが目指す豊かな国の象徴だ。サムシク自身は実際には知らない、その味わいや匂い、食べられぬひもじさをサンは身に染みて知っていた。
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以後、サムシクは事あるごとにサンの前に現れ、大量の米や魚、姪の好物の飴菓子を届けるようになる。“腹が満ちれば心も開く”というサムシクの持論どおり、サンは押しの強いスカウトに耳を傾けざるを得なくなる。
その誘い文句がまた詩的だ。地球が自転と公転を繰り返すように「春夏秋冬、花が咲いて散り、日が昇って沈む」。そして今度は新しい太陽(サン)が必要なのだと言いたげなサムシクの物言いは、不穏さをはらみながらもどこか味がある。たとえ虚言や偽善かもしれなくても、思わず信じてみたくなる説得力に満ちているのだ。
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2人を取り囲む魅惑的なキャストたち
2人を取り囲むキャスト陣にも世代・個性ともに豊かな面々が揃った。歪んだ過去を持ち、強欲なまでに次の権力の座を狙うカン・ミンソン議員を、「刑務所のルールブック」「弁論をはじめます。」のイ・ギュヒョンが狂気たっぷりに演じる。
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サンとともにアメリカ研修に行った軍人で、サムシクの計画に加わる首都防衛隊のチョン・ハンミンを演じるのは「殺し屋たちの店」も記憶に新しいソ・ヒョヌ。
そして、ソン・ガンホ演じるサムシク、ピョン・ヨハン演じるサン、ソ・ヒョヌ演じるハンミンと1つのテーブルを囲む首都防衛隊のチャン・ドゥシク少将として、「梨泰院クラス」をはじめ「秘密の森~深い闇の向こうに~」や『キングメーカー 大統領を作った男』などに出演してきたユ・ジェミョンが特別出演。圧倒的な存在感を放つ。
さらに、『殺人鬼から逃げる夜』「ここに来て抱きしめて」などに出演、大企業サムスンの社員から放送局記者を経て俳優へと転身した経歴を持つチン・ギジュが、“飾りもの”ではない革新党党首の娘でサンの婚約者チュ・ヨジンを凛として演じる。
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また、ドラマ後半には、「少女時代」のメンバーであり、近年「財閥家の末息子~Reborn Rich~」への出演やオーディション番組のメンターなど活躍の場を広げるファン・ティファニー・ヤングが謎の女性レイチェル・ジョンとして登場することが予告されており、サンとの関係にも期待が高まるところ。
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そんなサンとサムシクの計画は、パズルのピースが1つずつ埋まるように次第に形付いてくる。
白眉なのは第5話、2人が1対1でそれぞれの思いをぶつけ合うシーン。ソン・ガンホと「ミスター・サンシャイン」『ハンサン―龍の出現―』などで知られる若手実力派ピョン・ヨハンによる約4分にも及ぶ長回しだ。
それが前菜にすぎないほど、ここからより濃厚で贅沢な演技合戦が繰り広げられていくに違いない。
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ディズニープラス スターにて「サムシクおじさん」を視聴する
「サムシクおじさん」はディズニープラス スターにて独占配信中(全16話/初週5話一挙配信、以降毎週水曜日2話ずつ、最終週3話配信)。
〈提供:ウォルト・ディズニー・ジャパン〉