独自のユーモアセンスと人生観で、家族、そして人間の絆を情感豊かに描く映画『かなさんどー』。1995 年結成のお笑いコンビ「ガレッジセール」の”ゴリ”として人気を博すかたわら、映画監督として活躍する照屋年之の6年ぶりの最新作だ。照屋監督が自らのルーツである沖縄を舞台に、名も無き人々の愛にまつわる秘密を描いた本作の魅力をひも解いていきたい。
前作『洗骨』が大ヒット!
照屋年之が監督・脚本を務める
長編最新作
沖縄の離島・粟国島に残る風習をテーマに、家族の絆や祖先とのつながりを描いた前作『洗骨』は、笑いあり涙ありの物語で話題を集め、全国128館で上映を果たし、沖縄県内でも6万5千名超を動員する大ヒットを記録。各国の映画祭にも出品され、日本映画監督協会新人賞を受賞した。
映画監督としてのキャリアを着実に積み上げている照屋監督は本作で、「死」を見つめることで、愛と生の輝きを浮き彫りにしていく。重くなりがちな死生観をテーマに扱いながら、照屋監督らしい「笑い」の要素で観客を物語の世界に引き込み、心温まるエンディングへと誘う。
母が死の直前にかけたSOSの電話に出ず、死に目に立ち会えなかった父を責め、美花は故郷を離れた。7年後、父の死期が近いと連絡を受け、故郷へ帰り、認知症を患う余命僅かな父に再会する。父を許すことができぬまま、幸せな思い出と辛い思い出を蘇らせ戸惑う美花。だが、久々に過ごす実家で母の大切な日記を見つける。そこにしたためられていたのは、母と父だけが知る、愛おしい秘密だった―。
■ 最も謎めいた、“親”という存在
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最も近くにいるのに、最も謎に満ちた存在。それが親というものかもしれない。自分たちのように青春を謳歌し、恋に身を焦がしていたということなど、なかなか想像できないもの。本作のヒロイン、美花もそんな子供のひとりだ。
母の死後、故郷の沖縄県伊江島から東京へと移り住んだ美花。死期の近い父に再会するため島へと帰省するが、父をどうしても許せずにいる。お調子者で愛嬌はあるものの、夜は連日飲み歩いていた父。その父に文句ひとつ言わず、「お父さんの前では綺麗でいたいさ」と家でも化粧をしていた病気の母。美花は、両親の夫婦関係が理解できずにいた。そんな娘が、「死」を目の前にした父を許すことができるのかが物語の本線だ。現在進行形の本線と、母が生きていた過去とが、行き来しながら描かれる本作は、父娘、母娘、そして父母の3つの時代の異なる物語が重なり合い、ひとつの家族のストーリーに織りあがっている。
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美花の心は頑なだが、あることをきっかけに、当時は見えなかった、父と母の姿を見つけていく。そのきっかけとなるのが、認知症を患い誰のことも認識できない父が、美花を見て母の名を呼んだこと。美花は、「今さら!」と怒りに涙するものの、心に変化を芽生えさせる。すべてを忘れた父が、最後まで記憶しているのは母。父から母への愛に初めて気づいた瞬間だったのかもしれない。さらに、美花が母の日記を見つけたことで、物語は動き出す。そこにしたためられていた父と母だけの愛の秘密が明らかになったとき、美花同様に観客も、驚きとともに胸が震えるような感動の渦へと巻き込まれていくのだ。
■ 物語を笑いと涙で彩る面々
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口は悪いが愛情深い美花を演じるのは、松田るか。コミカルなシーンでは見事なツッコミぶりを披露。気の強い娘を凜とした佇まいで演じている。いわばボケ役の憎めない父・悟には浅野忠信。無言のままに後悔、悲しみ、愛情を滲ませる圧倒的な表現力で、愛すべき父親像を体現している。母・町子を演じたのは堀内敬子。明るい笑顔の中にも愛を貫く芯の強さを感じさせ、家族を繋ぐ大きな存在を熱演した。
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もうひとつの主役とも言える沖縄の美しい風景も見逃せない。サトウキビ畑、島を見守る山・伊江島タッチュー(城山)、そしてテッポウユリの花畑など、全編オール沖縄ロケ。だからこそ表現できた島独特の温かさも郷愁溢れる空気感も、本作の成功には欠かせなかったはず。ラストシーンに映し出される天国のように美しい風景は、美花が到達した深い愛を具現化している。
■ タイトルが意味することとは?
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タイトルにある“かなさんどー”は、物語の秘密を解く鍵となる琉球民謡のタイトルだ。もし意味を知らないならぜひ、そのまま映画を観て欲しい。最後に明かされるその意味に、より感動は深まり、物語を貫く愛の深さに涙が溢れてしまうはず。本作が、家族愛の物語であることに違いはない。だが、見終ってみると、根底にあるのは心震わすラブストーリーだったと感じるのだ。
映画『かなさんどー』は、すべての名も無き人々の、運命の恋に捧げられた物語。あなたの近くにもきっと、こんな素敵な宝物が隠れていることだろう。
「心に沁みた」「愛がいっぱい」
沖縄では照屋監督の前作を上回る
ヒットスタート!
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2月21日全国公開となる本作は、1月31日から沖縄県内で先行公開されている。初日の動員は1,139人、興収1,418,340円を記録。人気を集めた照屋監督の『洗骨』との初日動員を比べても118%という好調な滑り出しだ。
翌2月1日は動員1,726人(『洗骨』2日目対比:動員121%)、2日も動員1,538人(同3日目対比:動員85%)と故郷での関心の高さを伺わせている。
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鑑賞者からは、「ゴリさんがあんなに素晴らしい監督だと思わなかったです。今度から照屋監督と呼ばなきゃと」(男性)、「ティッシュ1箱は必要です。とても感動しました。また観たいと思います」(40代女性)といった声が。
親子で鑑賞する人も多く、「笑える部分もあって最高でした。特に娘と母の掛け合いが一番印象的で心に残り、すごい心に来ました」(娘と夫と来場した女性)という意見も。「優しさがたくさん詰まっていて、愛がいっぱい沖縄がいっぱい。みんなに優しくしようと思いました」(50代女性)、「受け継がれてきた沖縄の暖かさを忘れないで誇りを持って過ごしたいと思いました。松田るかさんの歌が上手くて最後のシーンは、特に涙が止まらなかったです」(20代女性)など、親・子いずれの世代からも支持されている様子が伺えた。
この感動を、ぜひ映画館で体験してほしい。
『かなさんどー』公式サイト
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