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【特集】「短くて面白い」が選ばれる新時代――新たな配信サービス「Roadstead」の挑戦に迫る

2024年の国内映画業界のトピックのひとつに、Roadsteadという新たな配信サービスの台頭がある。シネマカフェでは継続的にRoadsteadのハウツーやラインナップを紹介してきたが、今回は“中の人”の取材を基にさらに踏み込んだ魅力や日本映画界の未来に対する想いを深掘りしていく。

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『オーガスト・マイ・ヘヴン』© Roadstead
『オーガスト・マイ・ヘヴン』© Roadstead 全 14 枚
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2024年の国内映画業界のトピックのひとつに、Roadstead(ロードステッド)という新たな配信サービスの台頭がある。

「映画をコレクションし、ユーザー間でレンタルできる」という画期的な内容はもとより、いきなり日本を代表する鬼才・黒沢清監督の完全オリジナル新作『Chime』を引っ提げてベルリン国際映画祭に上陸。全く新しい動きに各メディアや映画ファンが反応し、驚きのスタートを切った。【配信→劇場公開】というスキームも話題を呼び、東京のミニシアターStrangerから始まった劇場上映は口コミも広がり拡大公開を達成。

シネマカフェでは継続的にRoadsteadのハウツーやラインナップを紹介してきたが、今回は“中の人”の取材を基にさらに踏み込んだ魅力や日本映画界の未来に対する想いを深掘りしていく。


「短くて面白い」が選ばれる新時代

独自の存在感を強める「Roadstead」

『Chime』 ©Roadstead

氾濫ともいえるコンテンツ飽和状態の現代。ユーザー間では、かけた時間に対する見返りの高さを重視する「タイムパフォーマンス」の意識がこれまで以上に高まっている。

こうしたニーズを受け、音楽の領域ではサビに至るまでの時間をいかに短くするかという動きも生まれたと聞くが、こと映画においては「密度を上げる」アプローチや、劇場作品においては反発として長尺化や余白を強める心理が強まってきた。そんななか、今後のポイントとなりそうなのが実質的な尺の短さだ。60分弱の『ルックバック』のヒットが好例だが、ユーザー側が時間の確保をしやすく、しっかり満足できて劇場の回転数(1日における上映回数)も増やせるならばWin-Winといえるのではないか。映画というメディアに対して「短いなんて勿体ない」ではなく、「短くて面白い」が選ばれる新時代――この次なる潮流をいち早く取り入れているのがRoadstead。

『Chime』は約45分、続く『オーガスト・マイ・ヘヴン』は約40分と、中編という形態に絞ったオリジナル作品の製作を続けており、独自の存在感を日に日に強めている。

「DVT」(デジタル・ビデオ・トレーディング)という新たな概念により、ユーザーが購入した映画作品を視聴するだけでなく、レンタルやリセールができるという流通方法を取り入れた配信プラットフォームRoadstead。運営しているのはアカデミー賞国際長編映画賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』などで映画の製作に関わってきたIT企業・株式会社ねこじゃらしだ。同社は、国際映画祭への出品や記者発表、SNSの運用といったPRのロジックにおいても独自の美学を持っている。一般的な商業映画では主に動員=興行収入といった“数字”を上げるためにPR方法や費用感を選択・決定するものだが、Roadsteadの場合は、作品自体の“価値”を上げるための方策という理念の下、取り組んでいるという。ミニシアターに通う熱心な観客や自分から情報を獲りに行き自己発信をまめに行うコアな映画ファンをメインターゲットに据え、「自分で観たいものを探したい」かれらが鼻白むことのないようなアプローチを心がけているのだ。

先に述べたコンテンツの氾濫が生んだ戦国時代、選ばれるための過剰マーケティングも激化しているが、逆張り戦略ともいえる「作品そのものが宣伝」というアウトプットは実に興味深い。こうした“導線”の面でも、次なるトレンドとなる可能性を秘めた注目の存在なのだ。


若手の育成と支援

『オーガスト・マイ・ヘヴン』の企画開発

『オーガスト・マイ・ヘヴン』© Roadstead

『Chime』のように既に著名な監督と組むパターンだけでなく、Roadsteadがミッションに掲げているのが若手の育成と支援だという。その第一号として白羽の矢が立ったのが、新鋭・工藤梨穂。京都造形大学(現・京都芸術大学)の卒業制作『オーファンズ・ブルース』(2018)が第40回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを獲得し、2021年には『裸足で鳴らしてみせろ』で商業デビューを飾るなど、着実に実績を積んでいる。

「新しいプラットフォームは、若手がチャレンジできる場としてふさわしいのではないか」と考えたRoadsteadチームは工藤監督にコンタクトを取り、黒沢監督の『Chime』と同時進行で新作『オーガスト・マイ・ヘヴン』の企画開発を進めたそうだ(先のベルリン国際映画祭では2作ともに上映)。スタートから日本発世界行きを成し遂げたことで、多くの若手クリエイターが希望を感じたことだろう。

また、Roadsteadはプラットフォームとしての発表の場を提供するだけではない。黒沢監督の『スパイの妻』で製作に携わった、川村岬・岡本英之といった面々が制作面もバックアップする。

『オーガスト・マイ・ヘヴン』は工藤監督が古巣・京都を舞台に母校の仲間たちと作り上げた作品だが、その座組を提案したのもRoadstead側だ。「同世代のスタッフを中心に、なじみのある地域で撮影することで工藤監督本来の作家性がいかんなく発揮されるのではないか」という考えのもとの進言というが、監督の登用だけでなくスタッフィング・キャスティングにおいても業界全体の未来を見据えている。スタジオ/映画会社においては若手監督だけを引き抜き、周囲のスタッフは初めて組むベテランで固める“洗礼”を行うところも少なくない。若手にフルベットせず、経験豊富なスタッフで保険をかける座組はリスクヘッジの面では正解かもしれないが、結果的に監督の個性が死ぬパターンも往々にしてある。そうした現状を身をもって知っているからこそのアプローチともいえ、新たな才能に門戸を開くRoadsteadの懐の広さと覚悟が感じられる。

こうした背景もあり、『オーガスト・マイ・ヘヴン』は実に工藤監督らしいカラーが如実に出た一作となった。依頼人の家族や知人を演じる「代理出席屋」の女性が、行きつけの中華料理屋の店員の頼みで旧友に扮し、失踪したはずの男性と共に旅に出る物語となるが、設定の面白さはもちろんのこと「嘘によって生じる切なさや心の揺らぎ」「不在や喪失感」を映像全体に織り込んでいく抒情的なロードムービーに仕上がっている。


『オーガスト・マイ・ヘヴン』購入ページ

作家性はそのままメディアが拡大した形になっており、育成という面でも実に正しいロードマップを敷いているといえよう。同時に、古くから工藤監督を応援してきたファンをも裏切らない愛情に満ちており、Roadsteadが真の作家主義的スタジオであることを証明してもいる。

Roadsteadでは『オーガスト・マイ・ヘヴン』劇場公開を記念して、工藤監督の劇場公開2作(『オーファンズ・ブルース』『裸足で鳴らしてみせろ』)を3月末より2か月連続で期間・本数限定で発売予定。さらに、『オーガスト・マイ・ヘヴン』含む全3作品の購入者には、『オーガスト・マイ・ヘヴン』オリジナル デザインTシャツをもれなくプレゼントするスペシャルキャンペーンも実施する。

【劇場公開作2作品】
『オーファンズ・ブルース』(2018年)
・3月下旬プレミアセール開始
・ 販売本数/価格未定、販売ページ開設準備中

『裸足で鳴らしてみせろ』(2021年)
・4月下旬プレミアセール開始
・販売本数/価格未定、販売ページ開設準備中

【コンプリート特典】
『オーガスト・マイ・ヘヴン』オリジナルデザインTシャツ
※『裸足で鳴らしてみせろ』プレミア・セール終了後に配布開始の予定。
※配布の詳細は追って『オーガスト・マイ・ヘヴン』の販売ページにてお知らせ


映画制作レーベルとしても挑戦を続ける

「Roadstead」

映画ファンにはおなじみの存在であるアメリカの映画配給・製作会社「A24」。『ムーンライト』や『ミッドサマー』、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』等を手掛けてきた同社が日本でも厚く支持されているのは、攻めた作品を積極的に手掛ける思い切りの良さや、作品のバリューではなく中身を信じてピックアップする目利きの部分、前例にとらわれない革新的なプロモーション等が挙げられる。

しかしその根底にあるのは、ハートの部分。制作者を信じ、観客を信じる映画愛にあるだろう。『シビル・ウォー/アメリカ最後の日』の脚本・監督を手掛けたアレックス・ガーランド監督はその献身性に感謝を述べていたが、「作り手が好きに作れる」場はいまの時代、絶滅危惧種と言っていいレベルに激減している。市場規模がどんどんシュリンクしている日本ならなおさらで、「クリエイターの自由度を尊重する」だけでなく「悩んだときには相談を受け、一緒に作っていく」志を持ったRoadsteadの理念と姿勢には、大いに期待したいところだ。

冒頭に述べた「映画をコレクションし、ユーザー間でレンタルできる。売り上げの一部は制作者に還元」という仕組みによってクリエイター支援の可能性も拡げたRoadstead。第3弾以降のオリジナル作品を楽しみに待ちながら、作り手と観客の双方にとって幸福なサービスを目指すかれらが日本の映画業界にもたらすものに引き続き目を凝らしていきたい。


Roadstead 公式サイト


《SYO》

物書き SYO

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、小説・漫画・音楽・ゲームなどエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。並行して個人の創作活動も行う。

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