2025年公開のマーベル映画としてはラストとなる、『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』。
マーベル・コミックスを代表するヒーローの一つ、ファンタスティック4が“家族”として一丸となり、その絆で最大級のスケールで地球を脅かすヴィラン・ギャラクタスと、その使者であるシルバーサーファーに立ち向かう。アクションはもちろん、登場人物同士の関係性やドラマに力を入れた脚本が印象的な本作。あくまで4人の物語に終始徹しているからこそ、キャラクターそのものに感じる愛おしさや魅力に溢れている作品だ。
ヒーローとして、人間として、というように人物像を多角的に捉えているからこそ、本作からの登場なのにもう暫く前から彼らのことを知っているような気持ちになる。それを実現させた俳優陣の演技がとにかく素晴らしい本作。本稿ではいかに実力派俳優が本作に集結したのか、ファンタスティック4のメンバーはもちろん、ヴィランを演じたキャストまで紹介したい。
※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
“ペドロ・パスカル疲れ”を払拭させた!?
リード・リチャーズ役のペドロ・パスカル

まずチームのリーダーであるリード・リチャーズ。本作では他のメンバーと共にヒーローとして地球を守ろうとするのだが、どちらかというと天才科学者として脅威に立ち向かう姿が印象的だ。世界が解かなければいけない問題は、リードにとっての問題。それゆえに休まることを知らない彼だが、パートナーのスーとの間に生まれた息子のフランクリンとの時間を通して少しずつ変化していく様子がなんとも人間らしくて心打たれる。
特に最初の場面でスーとの関係が少し冷めていたことがセリフのやり取りでなんとなく理解でき、その原因が二人のコミュニケーションの取り方の違いなのだろうなと想像できるなど、二人の関係が実は生々しく描かれているのもポイント。そんなリードを演じたペドロ・パスカルは「ナルコス」や「THE LAST OF US」の主演としてブレイクし、とにかく世界で今大人気な存在。それ故に、メディア露出も新作出演も多くアメリカでは“ペドロ・パスカル疲れ”という不名誉な言われ方をされてしまっていた。多くの観客が今回のキャスティングに関しても「とりあえずパスカルにしとけばいいと思っているんだろ」と納得のいかない様子だったが、映画公開後は一転。ヴァネッサ・カービー演じるスーの存在感に負けないくらい、リードの繊細な心情の機微を表現するパスカルの演技が評価され、人気だからではなく“演技のできる”俳優としての威厳を保った。
チームとこの映画の“心臓”となった
スー・ストーム役のヴァネッサ・カービー

さて、本作はなんと言ってもスーがストーリーの核となっていると言っても過言ではない。彼女の妊娠に始まり、出産を経て母親となる様子が劇中も力強く描かれている。ヴァネッサ・カービーは『ミッション:インポッシブル』シリーズでホワイト・ウィドウ役として出演していたことで知られているが、その時の狡猾な役柄とは打って変わって本作では女性の柔らかさと母性を表現している。2021年にNetflix映画『私というパズル』で出産時に乳児を亡くしてしまった母を演じている彼女はその時にも繊細な演技を見せ、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた経歴を持っている。そんなカービーが再び演じる“母親”は、だからこそというべきか、格別なのだ。
スーのキャラクターは少し難しく、やっとの思いで産むことができた最愛の息子フランクリンと地球を天秤にかけられてしまうなど、多くの問題に直面する。自分の想いと、ヒーローとして地球を守らなければいけない想いが一致しない。そんなスーの複雑な気持ちをカービーは見事に体現したように思う。彼女自身、現在第一子を妊娠中であることも素敵だ。
新たな一面を見せてくれた
ジョニー・ストーム役のジョセフ・クイン

本作で新鮮な印象があったキャラクターといえば、恐らくジョセフ・クイン演じるジョニー・ストームだったかもしれない。これまでにも映像化されてきた『ファンタスティック・フォー』において、ジョニーは常に “お調子者”くらいの軽いキャラクターとして描写されてきた。しかし本作ではそれだけだけでなく、彼の頭脳の高さにも焦点が当てられていた。単なるチームのムードメーカーや盛り上げ役ではなく、彼もリードたちとともに“選ばれた” 4人の宇宙飛行士の一人であることを強調するかのように、シルバーサーファーの言語を解読する役割を担っていた点が素晴らしい。
そんなジョニーを好演したクインは「ストレンジャー・シングス」シーズン4のエディ・マンソン役でブレイク。その後、『クワイエット・プレイス:DAY 1』や『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』などの話題作への出演が続いている。
声の演技がとにかく上手い
ベン・グリム役のエボン・モス=バクラック

個人的に本作で最も知られてほしいのがベン・グリム役のエボン・モス=バクラックだ。ザ・シングことベン・グリムはもともと皮肉屋で、ぶっきらぼうな性格で言葉が荒いこともあるが性根は優しい性格の持ち主である。本作ではスーツ姿で手料理を作っていたり、子育ての教育本を読み耽ったりと、彼の落ち着いていて人間らしい部分に焦点が当たっているのもすごく良かった。何より、そんなベンをバクラックが演じるのは必然的だったように思える。
バクラックは近年話題のドラマ「一流シェフのファミリーレストラン(原題:THE BEAR)」のリッチー役としてブレイクし、本作でエミー賞を二度も受賞している。リッチーもレストランのマネージャーという“チーム”のメンバーを見守る立場なのだがかなり口が悪く、ぶっきらぼうで周囲と衝突してばかりだった。しかし本当はいいやつで自分を省みてどんどん成長していくなど、ところどころベンと重なる部分もあるのだ。
そんなバクラックの魅力はなんと言っても“声の演技”だ。彼の特徴的な台詞回しはどこかリズミカルで、演劇出身ということもあって抑揚と空気のコントロールがうまい。本人は過去の宇宙探検前の映像でしか登場しないが、その後も声だけで感情移入させるような人間臭い演技がとても得意な俳優である。また、彼は脇役としてシーンを攫う力を持っていて、演じているキャラクターを鑑賞者に愛させる力にも長けている。2026年春にはスティーブン・アドリー・ギルギスの舞台版『ドッグ・デイ・アフタヌーン』でジョン・バーンサルと共演し、ブロードウェイデビューする予定もあり、今後の活躍にも注目したいところだ。
ジュリア・ガーナー&ラルフ・アイネソンの存在感も
最後に、本作のヴィランとして登場する2名にも触れたい。シルバーサーファー役のジュリア・ガーナーは「オザークへようこそ」のルース役でエミー賞を受賞するなど、実力派として知られている。台詞よりも目の動きや表情筋で語る様子が印象的で、ルース役でも怒りや葛藤、孤独や愛情を一瞬の表情の揺れで見せていた。一方、「令嬢アンナの真実」では役作りで話し方のクセも含めて別人のようになっていて、カメレオン俳優であることを証明している。そんな彼女が本作で感情を全て排除したような表情や声の抑揚で話すシルバーサーファーを演じること自体が興味深い。しかし、物語の後半で見せる彼女の変化を考えると、やはりガーナーが演じるべきキャラクターだったことがわかるのだ。
そしてギャラクタスはこれまでもの『ファンタスティック・フォー』映像化作品の中で、最もコミックの姿に忠実に再現されて登場している。この辺が北米のコミックファンにとってかなり評価されていて、特に演じるラルフ・アイネソンの重くて深いバリトンボイスが、ギャラクタスの恐ろしさをより強調している。彼の“ヴィラン声”といえば、ラッセル・クロウ出演の『ヴァチカンのエクソシスト』での悪魔アスモデウス役が印象的だ。また、ロバート・エガース監督の『ウィッチ』で演じた宗教的な厳格さと、人間としての弱さが絶妙に滲み出ていた父親役も忘れ難い。「ゲーム・オブ・スローンズ」でもそうだが、いるだけで何となく“圧”がある……そんな俳優だからこそギャラクタス役にピッタリだったと言える。
俳優の魅力を通して再び『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』のキャラクターたちに触れると、さらなる魅力に気づけるかも。


