クリステン・スチュワートとケイティ・オブライアン共演で贈るA24映画『愛はステロイド』から、ボディビルダーのジャッキーと運命的な恋に落ちたことで破壊的な展開に巻き込まれていくルーを演じたクリステン・スチュワートのインタビューがシネマカフェに到着した。
本作は、『ミッドサマー』『シビル・ウォー アメリカ最後の日』『関心領域』など、観る者の心に焼き付いて離れないジャンルレスな映画を数々手掛けてきたスタジオA24が新たに贈る、規格外のクィア・ロマンス・スリラー。
クリステン・スチュワートが演じたのは、片田舎の町のトレーニングジムで働くルー。父親を嫌悪しながらも、その影響下から逃れられないでいるキャラクターだ。

クリステン・スチュワート自身は当初、「ジムに通い続けて強健な体を作る努力をしている人の気持ちが理解できなかった。全然惹かれなかった」と打ち明ける。
だが、「ボディービルのトレーニングをしてみて、取りつかれるようにトレーニングする人の心理が理解できたように思えた。アドレナリンの上昇を欲しているんだと思う」と分析。
「ルーは、自分の存在を小さくして世界の片隅で生きている。まるで存在自体がほとんど消えてなくたったような生き方。そこに突然、人生を大胆に、闊歩するように堂々と生きる女性(ジャッキー)に出会う。それによって自分の人生が発火し、ときには美しく、ときにはおどろおどろし変わっていってしまう。恋をしたせいで」と語る。

ローズ・グラス監督は、このルー役にクリステン・スチュワートを想定して本作の脚本を書いたという。
「私は彼女の『セイント・モード/狂信』(2019年)の大ファンだと言い続けてきた。だからそういわれたときは、不思議な気持ちになった」と言い、「普通は制作前の顔合わせのミーティングにはあまり行かないのだけれど、たまたまロンドンにいたので足を運んだ。絶対に彼女に会ってみたいと感じたから。まだそのときには脚本は完成していなくて執筆の途中で、どんな作品になるのかはわからなかったけれど、溺愛する映画を作った人に自分の役を折り込んだ脚本を書いてもらえるなんて最高だと思った」と、ふり返っている。

イギリス人であるローズ・グラス監督とのコラボについては、「アメリカは夢がかなう希望の国、という常識的な理想というか考え方があるけれど、私は現代のアメリカはそうではないと思う」と前置きしつつ、「誰もが勝ち組になれるわけではない。勝ち組になれずどん底に墜落することさえある。その絶望というかやるせなさを持つ人も多い」と言及。
そこに注目した監督の視点は「アメリカ的でない、と言えるかも、と同時にまさにそれこそがアメリカの現実であるという点で皮肉と言えば皮肉。おかしくもある。家族だから愛し合い励ましあおうということは確かに必要だけれど、それをうのみにしたら危険、とこの映画は語っていると思う」と考えを明かした。
役作りでは「ルーになるために髪は短くした。それ以外大したことはしていない」と話し、「特にこの役では衣装がとても重要だった」と言う。
「ルーは身にまとう1点、1点に細心の気配りをしている。自分の感じたままを表せるデザインを選んでいる。彼女は文化的に洗練されていて、明確なスタイルというのを意識している。彼女の住む小さな町では、ほかに1人として彼女のような服装やスタイルをしていない。たくましくもスタイリッシュな個性的なスタイルを彼女は研究し追求している」と語る。

「インターネットもヴィンテージショップもない時代、独自のスタイルを維持するのは、相当の努力が必要だから。主流の流行とはかなりかけ離れたテイストで、多くの人の好みではないだろうけれど、彼女はあのスタイルが気に入っている」と、ルーは自身の確固としたスタイルを追求し続けていた女性であることを強調した。
だが、気になるのは、オープニングから全編を通してルーが清掃するシーンが多く登場していることだ。
「彼女が清掃する汚れというのは、決して彼女が汚したものではない。一つ清掃するとまた一つ汚れが現れる。その繰り返し。人生のトラウマを無視しここから追いやろうとしても、最終的にはそれに追いかけられている感じ。他人の汚れを清掃することで、ルーは自分が善良な人間であると自身に言い聞かせているかのようでもある。とはいえ本当に彼女はそうなのか、が結末で問われることになる」と、意味深に明かした。

さらに、本作では同性愛の恋愛を語る物語でありながら、同性愛は設定の一部にすぎないことについて、「同性愛についてどう対処したらよいのか、みたいな点がテーマになっていないところ、1人の人間の存在を描く上での1要素となっているあたりがとても良いと思った」と語る。
「映画業界では、まだまだ過去のヒット作で証明された成功例を重要視する傾向にあるので、新しい価値観をもった新作をこの世に送り込むのは難しい。女性監督が女性の葛藤について映画を作って、そこで何を伝えるかというのはとても重要になる。本作では単に同性愛映画というふうに終わるのではなく、キャラクターの心理や欲望や様々な思いをそのまま伝えるということが重要だと思った」と、ローズ・グラス監督が斬り込んだ新たな領域に称賛を贈っている。
<取材と文:Yuko Takano高野裕子>
『愛はステロイド』は全国にて公開中。

