真利子哲也監督作『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が9月12日(金)に公開される。主演の西島秀俊の妻役を演じるのはアジアを代表する実力派、グイ・ルンメイだ。
本作は、ニューヨークで暮らす日本人の賢治(西島秀俊)とアジア系アメリカ人の妻ジェーン(グイ・ルンメイ)を中心に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が明らかになり、家族が崩壊していく様子を描いたヒューマンサスペンス。
グイ・ルンメイは、2002年に『藍色夏恋』で俳優デビューを果たし、『GF*BF』(12)で金馬奨で最優秀主演女優賞を受賞。『薄氷の殺人』(14)や『鵞鳥湖の夜』(19)などで国際映画祭で高い評価を獲得するなど、世界が注目する実力派俳優。

本作でグイ・ルンメイが演じるジェーンは、息子のカイを育てながら、親の小さな売店の経営を頼まれ、人形劇団のアートディレクターとしての仕事も抱える。多忙な日々の中で夫・賢治(西島秀俊)との間に生まれる微妙な歪みは、言葉だけでは語り尽くせない深い感情の揺れを表現している。
グイ・ルンメイが本作で特に惹かれたのは、賢治とジェーンという夫婦が全く異なる方向を向いて生きている姿。互いに言葉にできない思いを抱えながらも、母語ではない英語で会話を重ねる夫婦像に深い興味を覚えたそう。また、ジェーンが人形を使って抑圧された感情を代弁させる構図も印象的だったという。
「人には直接口にできない思いがあり、それがすれ違いや衝突を生む。伝えたい思いをたくさん抱えているのに、相手に告げることができない。ジェーンは心の奥にしまい込んだ感情を人形を通して表現しているのだと思います」と語る。
また本作の脚本について、「独特の気品があり、さまざまな象徴や哲学的要素を通して、人間の在り方を静かに暗示しているように感じた。表層的に語られないものこそ、人間にとって最も魅力的で、最も真実に近い」と話している。
母国語以外の英語で演じることも大きなハードルで、感情を正確に伝えるために撮影前から徹底的にトレーニングを行ったという。セリフを覚えるだけでなく自然に感情を乗せられるよう努力し、ジェーンの分身ともいえる人形劇の稽古にも打ち込み、抑え込まれた思いを動きでどう表現するかを探った。
撮影現場では監督の指示が通訳を介して伝えられることもあり、微妙なニュアンスを掴むために監督の仕草や視線を読み取り、言葉の向こうにある真意を感じ取るよう努めたそうだ。

また真利子監督はグイ・ルンメイの演技について、「限られた時間の中で、パペットの操作を誰よりも熱心に取り組んでくれました。台湾の人気女優なので、ハードルのある方かと思っていましたが、とても親しみやすく、この作品に情熱を注いでもらいました。ルンメイさんのおかげで信頼関係が生まれ、スタッフ間にも広まり、すごくいいムードで撮影できたんです」と絶賛。
劇中では緊張感のある夫婦関係を描きつつ、共演した西島秀俊とのシーンについては、「セリフを通じて伝わってくる感情が、テイクごとに新鮮な感覚をもたらしてくれました。これは過去の作品の撮影ではあまり経験したことがない、今回の現場では自然な感情の流れが数多く生まれたんです。西島さんとの感情的なシーンの数々も、とても生き生きとしたものになりました」と語る。

西島も、「僕にとって、ルンメイさんとご一緒できたのは非常に幸運でした。自然で真摯な演技を見せてくださる稀有な俳優さんです」と語り、国籍や世代を超えた信頼関係のもと、グイ・ルンメイと西島は互いに刺激し合いながら、リアルな夫婦の関係性を演じていった。
デビューから20年以上が経つ今も、映画や演技への情熱は純粋なまま。役を選ぶ際には物語の核にある価値観を必ず確認し、それが自ら信じられるものであれば全身全霊を注ぐという。
「諦めず、勇気を持って一歩ずつ進み続ける」。そう語る彼女の姿勢が、スクリーンに映し出されるジェーンの姿と重なる。
観客の心に深い余韻を残すグイ・ルンメイの存在は、本作を語るうえで欠かせない核心となっている。
『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』は9月12日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国にて公開。

