第38回東京国際映画祭にて、コンペティション部門に正式出品され、観客賞受賞を果たした映画『金髪』。11月11日、本作の一般試写会トークイベントが実施され、坂下雄一郎監督と前野朋哉が登壇した。
本作は、日本独特のおかしな校則、教師のブラックな職場環境、暴走するSNSやネット報道という社会問題を背景に、大人になり切れない教師が、生徒たちの金髪デモに振り回されながらも成長(=自分がおじさんであることを自覚)していく様を、皮肉と愚痴と笑いを交えて描くオリジナリティ溢れる新感覚ムービー。主人公の中学校教師・市川を岩田剛典が演じ、白鳥玉季、門脇麦らが出演している。

イベント実施告知後に急遽登壇が決まったという前野朋哉は、「校門の前で喋っている人です。岩田さんの代打で参りました(笑)」と冗談を交えつつ挨拶。前野は本作で“金髪デモ”による大騒動に対して毎日のように校門で抗議する男を演じているが、これまで坂下監督作品に多数出演している。関係性について問われると、「大学の頃からで、二人とも大阪芸術大学映像学科だった。坂下君は一つ下です。映画研究部でも一緒でした」と先輩である前野から説明。監督の最終学歴である東京芸術大学の卒業制作から『エキストランド』(17)、『決戦は日曜日』(22)など、ほとんどの作品に出演している前野は、本作の脚本について「台本を読んだ時から坂下君らしいと思った。主人公にならないような人が主人公なんですよね坂下作品って…あってる?大丈夫?」と横で話を聞く監督に確認しながら話す様子に会場からクスクスと笑いが起こった。
続けて、「ずっと愚痴っている人が主人公にはなかなかならない。あと、ニッチなところにスポットをあてる傾向があると思っていて、『エキストランド』でいうとロケーションサービスという職業を取り扱ったりとか。本作の主人公は中学校教師ですけど、学校のいいところではなく、ブラックな部分をだしていたり、坂下君らしいな、面白いなと思いました」と語った。

監督は、本作の題材について「企画自体は4~5年前からで、当時のニュースでブラック校則が話題になっていて、映画でコメディに落とし込むと面白くなりそうだなと思った。特に、ネットニュースで、海外の学生が、制服に関する校則に抗議するため男子生徒がスカートを履いて登校したという記事を見て、抗議をするためにルールを破るというのが中学校で起きると物語になりそうだなと思ったのがはじまりです」と着想のきっかけを語った。
さらに、岩田演じる本作の主人公・市川について、前野は「おじさんの描かれ方が胸が痛くて、おじさんがおじさんを自覚する映画だと思ったけど、坂下君本人の状況とか気持ちを入れたんですか?」と緻密な描写を称賛しつつも、オリジナル脚本を手掛けた監督に気になる質問を投げかける。「抗議をする生徒を主人公にするのではなく、抗議される側を主人公にすることでコメディになる。それも、THE大人とTHE子どもの対立ではなくて、若者から大人になる中間の年代の人が主人公の方が面白そうだと思ったし、抗議をされる人は爽やかですごくいい人ではない方がいいと思った。熱い主人公だとつまらなくなりそうと思ったので」と答えた。

オリジナル脚本の作品が多い監督は基本的に事前に取材を行うそうで、本作での市川のセリフや、モノローグなどがかなりリアリティなものが多いのも、「文科省や教育委員会、教師の方など教育現場で働く方に話を聞いた」と現場の声を取り入れるべく取材を重ねたことを説明。「これまでの坂下作品も現場の声がセリフになっているなと思っていたのでめちゃくちゃ調べているんだろうなと思っていた」と前野も納得した様子をみせた。
大学時代の先輩後輩で和気あいあいと繰り広げられてきたトークも終盤に差し掛かり、第38回東京国際映画祭観客賞受賞の話題に。会場からも祝福の拍手が起こると、「本当にもらえてよかったです」と坂下監督が感想を述べると、前野は「おめでとうございます!公開前に箔がついてよかったなと思います。作品名、漢字二文字は波に乗ったね。『国宝』『爆弾』『金髪』といい流れだなと…」と、冗談を交えつつ、祝福の言葉を述べると、会場からは再び拍手が起こった。

流れで、監督がタイトルは初期段階から変わっていないことを話すと、「坂下君すごいしゃべるようになったよね。何回かトークショーをやっているが、基本口数少ないので周りが頑張らないと、と思う時が多かったけど、今日はちゃんと喋ってるなあと思って」と感動の前野。MCからも「前野さんの登壇が決まっていない時は2人と聞いていたから緊張感があったんですけど」と告白があり、しゃべり慣れしてきていると、2人から言及されると「じゃあよかった」とひとこと答える監督に、「褒めたら引くのやめてよ」と前野がツッコむ場面も。
最後に、前野は「『金髪』が11月21日公開で、『君の顔では泣けない』は11月14日公開、2本続けて上映はなかなかないのでうれしい。『金髪』はお客さんの反応がとても気になります。10歳の息子も食いついていて公開されたら観に行きたいと言ってくれたので、学生の人たちにも刺さるのかなと発見がありましたし、オジサンがどう受け止めるかですよね。オジサンが傷つきながら見る映画でもありますが、鑑賞後はオジサンであることを誇りに思えるような映画。反応が楽しみです」と期待を膨らませた。
監督は、「見ていただいてありがとうございました、気に入っていただけたら幸いです」と最後まで坂下監督らしく、短く挨拶し、終始和やかムードの中イベントは幕を閉じた。
『金髪』は11月21日(金)より全国にて公開。


