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夫婦、男と女…同じ苗字でも「社会の中では決して対等じゃない」『佐藤さんと佐藤さん』本音トークが白熱

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『佐藤さんと佐藤さん』アフターシネマカフェ(C)2025『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会
『佐藤さんと佐藤さん』アフターシネマカフェ(C)2025『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会 全 14 枚 拡大写真

岸井ゆきの、宮沢氷魚がW主演を務め、先日の第38回東京国際映画祭ウィメンズ・エンパワーメント部門公式出品された映画『佐藤さんと佐藤さん』が11月28日(金)より公開。

公開に先駆け、11月13日(木)に一般試写会が開催。上映後には「アフターシネマカフェ」として、天野千尋監督、映画ソムリエの東紗友美、映画・音楽パーソナリティーの奥浜レイラによるトークイベントと交流会が行われた。

(左より)奥浜レイラ、天野千尋監督、東紗友美

イベントでは、登壇者と観客が一体となって映画のテーマやリアルな夫婦像について語り、大いに盛り上がりを見せた。

さらにトーク終了後には、登壇者も参加する形で観客同士が自由に感想を交換するなど、映画を観た直後の余韻の中で、参加者同士が共感や気づきをシェアする貴重な時間となった。

本作は、“夫婦”というテーマを軸に、ヒリヒリするくらいリアルに描いたオリジナルストーリー。

苗字が“佐藤”同士のサチとタモツが、交際、結婚、出産を経て歩んだ15年間を丁寧に描き出す。苗字は変わらなくても、夫婦という関係は常に揺れ動き、ぶつかり合い、変化し続けるーー。そんなぐらっぐらで“リアルな夫婦”のかたちに迫る物語となっている。

「細部のリアルさがすごく刺さる。たぶん誰にでも思い当たる節がある」

イベントでは、まず東が鑑賞直後の率直な感想について、「この作品は人をすごく描いてる作品だなって。観終わったあと、何か心にあざが残るような映画でした。表面的には静かな物語なのに、感情の波がずっと押し寄せてくるんですよね。夫婦の喧嘩の場面も、ただの言い合いじゃなくて、“ああ、これあるある…”と、胸の奥を突かれるような瞬間ばかりで」と語る。

奥浜は深くうなずきながら「トイレットペーパーの『ないよ』の言い方ひとつで空気が変わるとかね。そういう細部のリアルさがすごく刺さる。たぶん誰にでも思い当たる節がある」と、予告編の公開時からSNSでも話題となったシーンを挙げながら話した。

天野監督は2人の感想に笑いながら、「まさにそこを狙っていました!」と即答。

「夫婦って、どちらかが悪いというより、立場が変わるだけで見え方も感じ方も全然違うじゃないですか。外で働く人と、家のことを担う人。どちらの大変さも、経験して初めて分かる部分がある。私自身も出産で一度仕事を離れて、また現場に戻ったときに、“あの頃の自分の視野の狭さ”に気づかされたんです。あの感覚を映画に刻みたかったんです」と、自身の経験を重ねて語った。

「めちゃくちゃリアル」“食洗機のシーン”に会場も共感

話題は作品のセリフのリアルさにもおよび、東が「セリフが全部、“リアル”なんですよね。説明的じゃないのに、その人の人生が滲んでいると感じました」と話すと、天野は「普段、自分が友達と話している会話を録音して、それを脚本に落とし込むような作り方をしました。人間って、怒ってるときほど本音が漏れるじゃないですか。その瞬間を逃さないように」と制作の工夫を明かした。

作品の“リアル”を支える日常のディテールについては大いに話が広がり、印象的なシーンについて、「例えば『食洗機買ったら楽になると思うよ』とサチがいつも家事をするタモツに言うシーンとかは、めちゃくちゃリアルでしたよね」と東が切り出すと、奥浜も即うなずき「家事の分担の小さな行き違いって、実はめちゃくちゃストレスの蓄積なんですよね。あそこで『あ~、それ言っちゃう?』みたいな、家庭のリアルな緊張感。あのワンシーンにぎゅっと詰まってた」と語り、会場からも共感の声が上がった。

なぜ『佐藤さんと佐藤さん』?「結婚は、“姓”にすごく結びついている制度」

さらには作品タイトルである“苗字”についての話題に。

奥浜が主人公を同じ佐藤という苗字にした意味について問いかけると、「結婚って、“姓”にすごく結びついている制度ですよね。名前が変わることで、自分の中のアイデンティティがぐらっと揺れる瞬間がある」と天野監督。

「どっちの姓を選ぶかじゃなくて、“そもそも名前が変わるってどういうこと?”を問い直したかったんですよね」と言い、「だからあえて、同じ苗字にしてみた。表面上はフラットに見えるけど、社会の中では決して対等じゃない、その矛盾を描きたかったんです」と説明する。

奥浜は「その“自分が誰か分からなくなる”感じは、女性だけじゃなく誰にでもある気がします。仕事や家族の中で“役割”が自分を先に決めてしまう。『佐藤さんと佐藤さん』は、その窮屈さを優しく見つめてくれる映画だなと思いました」と言葉を添えた。

また、日本の制度の“ちょっとした違和感”についても全員が「あるある」を共有する時間も。

奥浜が「請求書や書類とかって、“世帯主宛て”の名前で届くことがありますよね。細かいけれど、ふとした瞬間に“あれ?”って思うことがあります。誰が払っているとか、どっちが家計を握っているとか、そういうこととは別で、意外とそこが心に引っかかるんですよね。自分の生活はちゃんと自分でやっているつもりでも、“世帯主”で書かれると、どこか昔の枠組みに戻されたような感覚になることがある」と、個人の経験として語った。

天野監督も「映画の中で描きたかったのも、まさにその“小さな積み重ね”。 社会から見られる男性と女性みたいなところとの、そのバイアスに結構苦しんでるんだろうなってタモツに感じました。その辺は結構意識して脚本を書きました」と語った。

「社会の中の“正解”みたいなものに、みんな疲れてる」

本音トークは活発になり、イベント中には笑いも起こる場面も。

天野監督が「無人島で2人きりだったら、きっとサチとタモツみたいにはならないと思います。社会の中には、“妻ならこうあるべき”“夫ならこうすべき”という目が無意識に存在していて、それが2人を少しずつ追い詰めていく。誰かが悪いわけじゃないけど、そういう目線が確実に関係を変えてしまう。それを描きたかったんです」と話すと、東が「社会の中の“正解”みたいなものに、みんな疲れてるんですよね」と話し、奥浜も「でもこの映画は、誰かを断罪するんじゃなくて、ただ“見せる”。それが本当に優しい」と続けた。

また、天野監督は「私は“正しさ”より、“その瞬間の気持ち”を描きたかった。人間って、自分でもコントロールできない感情に支配されることがあるから」と語ると、観客の間に共感のうなずきが広がる。

そして特に印象的なラストシーンで魅せるサチの表情について、奥浜は「最後の岸井さんの表情は私もしたことがあります」と告白。「経験なされてないのに、あの顔になる岸井さんはすごいです。自分で踏ん切りつけたはずなんだけど、あの顔になるんです。いろんなものがないまぜになるあの感情をなんと言っていいかわかりません」と激しく共感。

天野監督は「脚本には悲しみの感情とは書いていなくて、悔しさなのか、懐かしさなのか、いろんな感情が込み上げてくるような表情で、岸井さんの演技が本当に素晴らしかった。また撮影時に風もすごい助けてくれました。ちょっと長めにカットを撮ってる時に、突然岸井さんの髪に風が吹いてきて、サチの感情の揺れ動きを表現しているようでした」と、撮影時の貴重なエピソードも明かした。

「男性も“こうあるべき”という社会の枠に苦しんでいる。その構造そのものを描きたかった」

終盤では、男性キャラクターの描写について観客から質問があり、ある男性が「実際の弁護士としても共感するリアリティがありました」と話すと、天野監督は「そう言ってもらえるのが一番嬉しいです!この映画は、女性の生きづらさだけを描きたいわけじゃないんです。男性だって、“こうあるべき”という社会の枠に苦しんでいる。その構造そのものを描きたかったんです」と回答。

「誰も悪くないのに、みんな少しずつ我慢して、気づいたらすれ違っている。それがいちばんリアルだと思います」と語った。

そして奥浜は「男女どちらかを責める映画じゃないっていうのが、本当に素敵。観る人の立場によって、共感する人物が変わる気がします」と話すと、東も「私は最初、妻の気持ちで観ていたけど、途中から夫にも共感してしまって…。その揺らぎこそ、この映画のリアルさだと思う」と絶賛した。

最後に天野監督が、「『佐藤さんと佐藤さん』は、有名な原作があるわけでも、大きな予算の映画でもありません。だからこそ、観てくださった皆さんが感じたことを、家族や友達に話してもらえたら、それが一番嬉しいです。口コミがこの作品の力になると思っています」と話す言葉に大きな拍手が起こり、会場は映画の余韻を抱いたままイベントは終了した。


『佐藤さんと佐藤さん』公式サイト

『佐藤さんと佐藤さん』は11月28日(金)より全国にて公開。

《シネマカフェ編集部》

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