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SNSで測る、映画『国宝』が与えた衝撃の広さと深さ

2025年11月24日、映画『国宝』は興行収入173.7億円、観客動員数1231万人を記録し、歴代邦画実写の興行収入における最高記録を達成。6月6日に公開されてから、172日目の快挙となる。11月には韓国でも上映され、さらなる世界的な話題の広がりも期待されている。

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『国宝』©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
『国宝』©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会 全 8 枚
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2025年11月24日、映画『国宝』は興行収入173.7億円、観客動員数1,231万人を記録し、歴代邦画実写の興行収入における最高記録を達成。22年に渡り首位を守り続けてきた『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』を抜いての快挙である。6月6日に公開されてから、172日目の快挙となる。

11月には韓国でも上映され、さらなる世界的な話題の広がりも期待されている。


上映開始から半年が経過し、今や当たり前のように映画の大ヒットを世の中全体が受け入れているように見える。一方、世の中を見ると「タイパ」志向は多くの人々の24時間に浸透し、過処分時間の奪い合いは社会全体で加熱している。今や動画の「ながら見」や「倍速視聴」は当たり前で、「ショートドラマ」の市場規模は拡大を続けている。その中で「175分」という長尺の映画が歴代最高ヒットとなったことは、上記のような生活や価値観の変化とも一線を画しており、社会は映画『国宝』によって予期せぬ「衝撃」を受けたとまで言えるのではないだろうか。

「豪華キャスト」「映像美が凄い」「引き込まれるストーリー」「テーマ選定が秀逸」「SNS戦略が巧み」など、さまざまな角度から成功要因を語ることはできるであろう。しかし「キャストが豪華」な映画、「美しい映像」の映画、「ストーリーの面白い」映画、「テーマが時代にマッチ」した映画、「SNSキャンペーンが成功」した映画ということであれば、これまで他にもあったのではないだろうかという疑問も残る。では、映画『国宝』が放った衝撃の正体とは、いったい何なのだろうか。

本稿では「現代社会の声を映し出す鏡」であるX上の声の分析を行い、映画『国宝』が社会に与えた衝撃の広さと深さをあきらかにしていくことで、この衝撃の正体を探りたい。

映画『国宝』が言及された規模感

まず映画『国宝』の公開1ヶ月前から10月末までの「Xで言及された数」(以下、言及数)を調べてみたところ、1,475,382件であった。また直接的に「観た」ことを示す言及数は、230,254件であった。

半年を経過しても一定の規模の言及数が維持されている点に注目したい。あらゆる興味が高速で移ろいやすいSNS上で、「言葉にしたい」「語りたい」欲求が残り続けているのは脅威的だ。

また映画『国宝』に加え、2024・2025年に公開された邦画実写の映画の中から、興行収入50億円以上の作品を任意に選定し、公開後3か月(30日、60日、90日後)の言及数の変化率を調べた。

公開後3か月において、他作品が2か月目以降大きく減衰する中でも、映画『国宝』の言及数が高止まりしていることがわかる。

映画『国宝』を観た人に放たれた衝撃波

映画『国宝』が与えた衝撃を観測するため、映画を観た人がどのような感情になったのかを示す感情を表す言葉の言及を比較した。

喜怒哀楽や映画の特徴である「美しい」など以上に、「すごい」という尺度を表す言葉が最も言及が多かった。

わたしたちは日常生活において、感情に名前をつけるには曖昧だが、感情がとても動く時、「すごい!」のように端的に表現をすることも多い。これを踏まえると、簡単には「言い表せない」のにも関わらず「感情が動いた」と感じる人が多かったと言えるのではないかと推察する。「内容は嫌いだったが、面白かったし、圧倒された」のような、何とも説明しづらい感情を吐露する言及が見られたのも映画『国宝』ならではであろう。

約3時間という時間を「自由に行動できない」「スマホの画面すら見ることのできない」映画館という特殊空間に拘束されるにも関わらず、映画公開後「アッという間」という感想が3,894件観測されているが、このすごさが「アッという間」という言及につながったと推察される。

また「食らった」と言及するような投稿も散見され、「近年稀にみる食らった感」「傑作過ぎて食らった」のように語られており、映画『国宝』は観る人に衝撃波を放ち、食らわせていたのではないだろうか。もしかすると何か強烈なものを「食らいたい」というインサイトがあるのであろうか。なお映画について「笑った」と言及する投稿は、ほぼ確認されなかった。

映画が与えた歌舞伎への影響

映画『国宝』が与えた衝撃の深さを測るもう一つのアプローチとして、映画の内容に踏み込んだ歌舞伎の「演目」について、映画の公開前後120日でどのように増減したかを調べた。演目については過去に「映画『国宝』で心震えた演目」の記事で取り上げた上位の「曽根崎心中」「鷺娘」「二人道成寺」を選定した。


3演目共に10倍以上の言及数の増加が確認された。映画『国宝』が与えた衝撃は、歌舞伎の内容にまでしっかりと踏み込んで心に残り、関心に繋がったことを示している。

また「あなた歌舞伎が憎くて仕方ないんでしょう、でもそれでいいの、それでもやるの」という名セリフを自分なりにアレンジして投稿する「万菊構文」が、派生的なカルチャーとして一部で観測されたことも興味深い。


映画『国宝』が放つ衝撃の観測から見えたもの

ここまで映画『国宝』が放つ衝撃の観測結果を報告してきた。「すごい」「圧倒的」という言葉が観測された事実は、観客が日常における感情の尺度とのギャップ(差分)によって根源的に感情を揺さぶられたことを示唆している。

映画『国宝』の衝撃の正体は、この差分にあると考える。それは、タイパ志向の合理的で効率的なエンタメ摂取が浸透した日常と非合理的な没入体験との強烈な差分だ 。175分という長尺の映画であるにも関わらず「アッという間」と感じさせた非日常体験への現代人の根源的な渇望こそが、衝撃の正体であったと言えるのではないだろうか。

《協力:電通デジタル 鈴木崇太(文化観測)、友松彩奈(分析)》

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