1985年の製作から時を経て、4Kレストアされた坂本龍一のドキュメンタリー『Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto』4K レストア版が、来年公開。この度、これを記念して、時代とともに変わる坂本龍一と映画音楽の関係を紐解く、年代別おすすめ映画を4本紹介。
30代――『戦場のメリークリスマス』(監督:大島渚)
ドキュメンタリーにも登場し、坂本自らも出演を果たした本作は、第二次世界大戦下の日本軍捕虜収容所を舞台に、捕虜と日本兵の間に生まれる緊張と理解不能な感情の交錯を描き、戦争映画でありながら、“人間とは何か”を問う。
本作の音楽は、暴力や抑圧を直接強調することなく、言葉にならない感情を浮かび上がらせ、映画全体に忘れがたい余韻を残す。
40代――『御法度』(監督:大島渚)
新選組を描く時代劇。美貌の剣士・加納惣三郎の存在が隊内の均衡を揺るがし、次第に崩れていく秩序。武士社会の規律の裏側に潜む、欲望と不安が描かれている。
大島監督は、派手な立ち回りや英雄譚的な価値観を意図的に退け、美や欲望が組織を崩していく過程を描き出した。
そして、坂本の抑制された音楽は、不穏な空気を静かに支配し、権力と美、死の関係を鋭く浮かび上がらせる。
50代――『トニー滝谷』(監督:市川準)
孤独を抱えたトニーと愛する女性との静かな関係を通して、人と人の距離や喪失の感覚を描く、村上春樹の短編の映画化。
本作のミニマルな音楽は、旋律よりも沈黙を際立たせ、主人公の内面に広がる空白と時間の流れを、静かに浮かび上がらせる。
また50代は、映画音楽的にもとても豊作で、方向性の違う代表候補が複数ある年代といえる。
60代――『怒り』(監督:李相日)
吉田修一×李相日監督――いま『国宝』でも話題のタッグによる社会派ヒューマンドラマ。
殺人事件をきっかけに、「その男を信じていいのか」という疑念を抱えた人々の人生が、東京・千葉・沖縄の3つの場所で交錯していく。
人を信じることの脆さ、痛みに深く寄り添い、観る者の心に静かな問いを残す。坂本の音楽は、感情を煽らず、人物たちの内面の揺れと沈黙を、静かに包み込む。
そして、来年公開される『Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto』4K レストア版は、32歳当時の坂本が、スタジオで音楽を生み出す姿をはじめ、出演したCM映像、「YMO」の散開コンサートなどを通して、彼が育ち、表現の原点を刻んだ東京の街を記録。

時代とともに形を変えながら、常に映像の内側に深く寄り添ってきた、坂本の映画音楽。その原点となる若き日の姿を映し出すと同時に、彼が生涯をかけて追い求めた「映画と音の関係」を、改めて浮かび上がらせている。
『Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto』4K レストア版は2026年1月16日(金)より全国にて順次公開。

