2025年の時代劇は、歴史ロマンの枠を軽々と飛び越えてきた。魂が入れ替わる恋物語、王宮の欲望をえぐる政治劇、背徳と謎が絡むミステリー、そして“無法地帯”で生き残りを賭ける群像劇まで――同じ時代劇でも味わいはまったく違う。日頃から韓国ドラマを見続け、取材し、書き、映像やビジュアルと向き合ってきた編集者やライター、デザイナー、カメラマンたちが選んだ「2025年のベスト5」。今回は2025年を象徴する時代劇をまとめて紹介する。
5位『この川には月が流れる』(韓国MBC)
『この川には月が流れる』は、2025年11月7日から韓国のMBCで放送されたファンタジー時代劇ロマンスで、笑顔を失った王世子と記憶を失った女行商人という立場も人生も異なる2人の魂が入れ替わることで始まる物語だ。イ・ドンヒョン監督とチョ・スンヒ脚本のタッグによる本作は、王宮と庶民社会という対極の世界を舞台に、対立と共感、そして恋愛感情の変化を描いた異色のラブストーリーとして注目を集めた。
主演は、放蕩と権力闘争の狭間で深い傷を抱える王世子イ・ガン役のカン・テオと、記憶を失い行商として自由奔放に生きるパク・ダリ役のキム・セジョン。イ・ガンはかつて愛した妃を失い、笑顔を忘れていたが、ダリとの出会いと入れ替わりを通じて心の再生を体現する。一方のダリは、王族の体を得たことで宮廷の権力争いに巻き込まれつつも、持ち前の機知と生き抜く力で周囲を翻弄し、物語にユーモアと躍動感を加えている。

ストーリーの見どころは、魂の入れ替わりというファンタジー設定を軸に、立場の違いが登場人物の価値観や行動にどう影響するかを鮮やかに描き出している点だ。世子としての責務と庶民としての視点を体験することで、イ・ガンとダリの心は徐々に変化し、互いを理解し支え合う絆が育まれる過程が視聴者の心を掴んでいる。
放送後は視聴率も着実に伸び、登場人物の深い感情表現や緻密な演出が高評価を得た。特に社会階層の違いや権力闘争のなかで芽生える“理解と共感”の物語は、従来の時代劇ロマンスとは一線を画す完成度を示している。本作は、魂の入れ替わりというファンタジックな設定を通じて、人間の本質や愛の形を描いたドラマとして幅広い支持を集めた。
4位『鬼宮』(U-NEXT/Lemino)
『鬼宮』は、王家に恨みを抱く鬼の呪いに立ち向かう不思議な力を持つヨリと、悪神カンチョリが織りなすファンタジーロマンス時代劇である。
『哲仁王后~俺がクイーン!?~』『花郎<ファラン>』を手がけたユン・ソンシク監督が演出を担当し、放送前から大きな注目を集めた本作は、韓国で大ヒットを記録した。
物語は、主人公ヨリの初恋の相手である検書官ユン・ガプが、龍になれなかった大蛇の悪神カンチョリに体を奪われるという衝撃的な出来事から幕を開ける。ユン・ガプとカンチョリという相反する存在を一人二役で演じるのは、卓越した演技力で知られ、「ファンタジー演技の天才」と称されるユク・ソンジェだ。

一方、幼いころから強い霊力を持ちながらも、巫女としての運命を拒んで生きてきたヨリを演じるのは、『朝鮮弁護士カン・ハンス ~誓いの法典~』で幅広い世代から高い評価を得たキム・ジヨン。初恋の相手ユン・ガプへの想いと、憎むべき存在であるはずのカンチョリに抱いてしまう複雑な感情の狭間で揺れ動く心情を、繊細に表現している。
ヨリは、カンチョリに体を奪われたユン・ガプの魂を探し求めながら、悪鬼との戦いに身を投じていく。物語が進むにつれて変化していく三者の関係性こそが、『鬼宮』の大きな見どころとなっている。
3位『元敬(ウォンギョン)~欲望の王妃~』
『元敬(ウォンギョン)~欲望の王妃~』は、朝鮮王朝第3代王・太宗(テジョン)の正妃であり、世宗(セジョン)大王の母として知られる元敬王后の生涯を描いた一代記。王妃として、母として、そして一人の女性として、激動の時代をどう生き抜いたのか。その歩みを、彼女自身の視点から描き出す点が大きな特徴だ。
物語の軸となるのは、王宮内で繰り広げられる熾烈な権力闘争、夫・太宗との政治的駆け引き、そして王子たちの将来を背負う母としての責任である。華やかな王妃という肩書の裏にある重圧と孤独、決断の連続に立ち向かう元敬の姿は、単なる「王の妻」ではなく、国家運営に深く関与した政治的パートナーとしての存在感を強く印象づける。知性と胆力、戦略眼を武器に運命を切り開いていく姿は、現代を生きる視聴者にも強い共感を呼ぶ。

朝鮮初期を扱ったドラマは、『六龍が飛ぶ』や『太宗イ・バンウォン~龍の国~』など、これまで太宗の視点から描かれることが多かった。しかし本作は、元敬という女性の視点から歴史を再構築する点で新鮮だ。理想と野望を胸に、時代と権力に翻弄されながらも前へ進み続けた一人の女性の物語として、画期的な試みとなっている。
物語は王位継承をめぐる争いを軸に、愛と義務の狭間で揺れる王妃の葛藤、国家を背負う者たちの理想と現実を重層的に描く。血縁を超えた信頼や嫉妬、友情、裏切りが複雑に絡み合い、宮廷に渦巻く陰謀と策略が丁寧に積み重ねられていく。王と王妃、側室、家臣たち、それぞれの立場が交錯する構成により、サスペンス性と重厚な人間ドラマが融合した作品に仕上がっている。
主演を務めるのは『ザ・グローリー~輝かしき復讐~』で強烈な印象を残したチャ・ジュヨン。聡明さと情熱を併せ持つ元敬という難役を、繊細かつ力強い演技で体現している。元敬の夫・太宗役にはイ・ヒョヌクが抜擢され、静かな怒りと野望を内に秘めた王の姿を説得力ある表現で描き出す。
さらに、『おつかれさま』などで注目を集めたイ・ジュニョンが、のちの世宗大王役で特別出演している点も話題だ。加えて、豪華な衣装や重厚なセット、時代考証に基づいた美術など、映像面へのこだわりも随所に感じられる。歴史ドラマの醍醐味を存分に味わわせつつ、現代にも通じるテーマを内包した一作である。
2位『呑金/タングム』(Netflix)
Netflixオリジナルシリーズとして全世界同時配信された時代劇。主演を務めるのはイ・ジェウク。美しさと残酷さが交錯するミステリーロマンス時代劇として、公開前から大きな注目を集めている。
物語は、朝鮮最大の商団の息子ホンラン(イ・ジェウク)が、12年間の失踪を経て突然戻ってくるところから始まる。幼少期の記憶をすべて失った状態で現れた彼を、周囲は「本物のホンラン」だと受け入れる。しかし、ただ一人、その正体に疑念を抱くのが義理の妹ジェイ(チョ・ボア)だった。彼女は直感的に、目の前の男が“本物ではない”と感じ取る。

ホンランとジェイは互いを警戒しながらも、次第に言葉では説明できない感情に引き寄せられていく。疑いと惹かれ合いが同時に存在する関係性は、物語に緊張感と背徳的な空気をもたらす。一方で、ホンランの失踪の真相、彼が何者なのかという謎、そして彼の帰還と同時に再び起こり始める子どもたちの失踪事件が、物語をミステリーとしても大きく前進させていく。
演出を手がけるのは『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』『客-ザ・ゲスト-』『ボイス』などで知られるキム・ホンソン監督。心理的緊張と暴力性を巧みに描いてきた演出力が、本作でも存分に発揮されている。脚本はApple TV+『Dr.ブレイン』を執筆したキム・ジナが担当し、ミステリーとロマンスを重層的に絡める構成が特徴だ。
キャストには、ホンラン役のイ・ジェウク、ジェイ役のチョ・ボアをはじめ、商団に迎え入れられた養子ムジン役のチョン・ガラム、商団の女主人ミン・ヨネ役のオム・ジウォン、実父シム・ヨルグク役のパク・ビョンウン、そして朝鮮随一の審美眼を持つ芸術家ハンピョン大君役のキム・ジェウクと、実力派が揃う。
原作は、作家チャン・ダヘによる小説『呑金:金を飲み込む』。タイトルが示す通り、「死ぬまで金を飲み込まされる」という古代の刑罰を象徴的モチーフに、人間の欲望、血縁、嘘と真実を描き出す。美しくも残酷な運命に翻弄される登場人物たちの姿が、時代劇という枠を超えた普遍的な物語に。疑念から始まり、やがて抗えない感情へと変わっていくホンランとジェイの関係。ミステリーとロマンスが交錯する背徳的な世界観が魅力の時代劇だ。
1位『濁流』(Disney+)
Disney+(ディズニープラス)初のオリジナル韓国時代劇として制作された2025年最大の時代劇。
物語の舞台は、かつて青く澄んでいた景観が濁流と化した無法地帯・京江(キョンガン)。富と権力が錯綜する社会の中で、波乱の運命に翻弄される者たちの姿を描く群像劇だ。中心となるのは、ならず者として過去を隠しながら生きるチャン・シユル(ロウン)、清廉な官吏を志すチョン・チョン(パク・ソハム)、そして朝鮮一の商人を夢見るチェ・ウン(シン・イェウン)。三者三様の信念と夢を胸に、激動の時代を切り開こうとする若者たちの姿が描かれる。
主演のロウンが演じるチャン・シユルは、序盤こそ言葉少なに無法者として登場するが、その目力と存在感が視聴者の心を強く捉えるキャラクターだ。作品内では、物流の要衝である麻浦(マポ)で日々を生き抜こうともがく労働者から、理不尽な差別と放火事件で逃亡者となった過去が明かされ、信念を胸に荒波と闘う“孤高の男として描かれる。

チェ・ウンを演じるシン・イェウンは、京江の富と物資が集まる商業都市で、慣習に縛られず自らの夢に向かって突き進む力強い女性像を体現している。物資や富の流れが濁流のように渦巻く世界で、彼女の存在は物語の多層性を支える重要な役割を果たす。
作品では、単なるアクション時代劇にとどまらず、社会の理不尽や格差、弱者の叫びと抗争が丁寧に織り込まれ、若者たちがそれぞれの道を模索する過程が描かれる。タイトルである「濁流」は、外的状況としての激動だけでなく、人々の内面にも渦巻く混沌と矛盾を象徴している。
配信後は、キャラクターたちの関係性や社会描写、そして主演ロウンの新境地ともいえる演技が高評価を得ており、視聴者からは「これまでの時代劇とは異なるリアリティ」といった評価が寄せられている。『濁流』は時代劇ジャンルの枠を超え、人間ドラマとしても普遍的なテーマを照らし出す力作として注目を集めている。
(文=韓ドラLIFE編集部)
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