演技派が多い韓国俳優のなかでも、独特というべきだろうか。唯一無二のオーラを纏っているペ・ドゥナ。日韓の有名監督やハリウッドだけでなく、若手監督の作品にも積極的に出演している彼女。三大国際映画祭のひとつでもあり、冷戦下の西ベルリンではじまったという背景から社会派映画が多く集まる、2026年2月開催の「ベルリン国際映画祭」の審査委員に抜擢された。
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韓国映画界からは2006年の俳優イ・ヨンエ、2015年のポン・ジュノ監督に続いて3人目。そこで今回は彼女が今まで出演してきた作品をピックアップして紹介しようと思う。

▼『リンダ リンダ リンダ』(2005年)

舞台は、とある地方都市の高校。文化祭を目前のある日、相次いでメンバーが脱退するという思わぬトラブルに見舞われた軽音楽部のガールズバンドが物語のメイン。途方に暮れるメンバーは、韓国人留学生ソンを新たなボーカルに迎え、ザ・ブルーハーツのコピーバンドを結成する。文化祭最終日のステージを目指して練習を重ねる彼女たち。不器用でまっすぐな少女たちの数日間がみずみずしく描かれている。
留学生ソンを演じたのがペ・ドゥナ。そのほかにも前田亜季や香椎由宇、Base Ball Bearの関根史織、若きころの松山ケンイチも出演している。監督は山下敦弘。映像業界の日韓コラボレーションの先駆けともいえる作品だろう。2025年8月に公開20周年を記念して4Kリマスター版が全国ロードショーされ、再び話題にもなった。
▼『空気人形』(2005年)

是枝裕和監督が、業田良家による短編コミック『空気人形』を原作に映画化した作品。女性の「代用品」として作られ、古びたアパートで持ち主の秀雄と暮らすペ・ドゥナが演じる空気人形・のぞみ。空っぽの存在であるはずの彼女に、ある朝「心」が芽生える。
すれ違う人々や何気ない日常の風景の中で、少しずつ生きている実感を覚えていく彼女。やがて青年・純一と出会い、密かに想いを寄せるように。心を持ったからこそ知ってしまう喜びや孤独、そして切なさが描かれている。
心を持ってしまった空っぽの人形と、心にぽっかりとした空洞を抱えた人間。交流を通して、存在の意味と愛のかたちを静かに問いかける、嬉しくも切ないラブストーリー。
▼『ベイビー・ブローカー』(2022年)

子どもを育てられない事情を抱えた人が、匿名で赤ん坊を預けられる「赤ちゃんポスト(ベイビー・ボックス)」の存在を軸に描くオリジナル脚本の人間ドラマ。物語の舞台は韓国・釜山。借金を抱えるクリーニング店主と赤ちゃんポストのある施設で働く職員は、預けられた赤ん坊をこっそり連れ出し、養父母を仲介する「ベイビー・ブローカー」を裏稼業にしている。ペ・ドゥナはそんな彼らを追うスジン刑事を演じた。
作品はロードムービーのような雰囲気ながら、血縁とは何か、家族とは何かを静かに問いかけるもの。監督はこちらも是枝裕和。ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナ、イ・ジウン(IU)など、韓国のトップ俳優ともいえる人たちが揃って出演している。
▼『グエムル 漢江の怪物』(2006年)

ソウル中心部を南北に分けて流れる漢江。多くの市民が集い、普段はのどかな漢江の河川敷に突如正体不明の巨大怪物「グエムル」が出現し、一瞬にして地獄絵図と化す。物語の軸となるのは、漢江のほとりで小さな売店を営むパク一家。頼りない一家の大黒柱であるパク・カンドゥ役はソン・ガンホ。ペ・ドゥナは、アーチェリー選手の妹であるパク・ナムジュを演じている。
カンドゥの父ヒボン、弟ナミル、妹ナムジュらパク一家は、グエムルが持つウイルスへの感染を疑われ、政府に隔離されてしまうが、カンドゥの携帯電話に娘・ヒョンソからの着信が入る。まだ生きていると知った一家は病院を脱出。ヒョンソを救うため、再び漢江へと向かっていくというストーリーだ。
ストーリーだけ聞くとゾンビ映画のようにも思えるが、2000年に在韓米軍がホルムアルデヒドを漢江に流した実際の事件を背景においていたり、怪物のグエムルは国内の雇用条件の悪化や経済格差問題を暗に現したものであったりなど、韓国社会における問題を見事に反映した作品ともいえる。
▼『あしたの少女』

2017年に韓国・全州(チョンジュ)市で実際に起きた事件をモチーフにした社会派作品。ごく普通の女子高校生が、過酷な労働環境のなかで追い詰められていく姿を描き出している。高校生のソヒは、担任教師の紹介で大手通信会社の下請けコールセンターに実習生として就職。だがそこは、従業員同士を競わせる過酷な職場だった。さらに契約で保証されているはずの成果給も支払われない。高校生・ソヒの精神的な重圧が日に日に強まっていくなか、指導役の若いチーム長が自ら命を絶ち、追い込まれていく。
やがて、真冬の貯水池でソヒの遺体が発見される。ペ・ドゥナが演じたのはこの事件を担当する刑事オ・ユジン。捜査を進めるなかで、彼女を死に追いやった労働環境と背後に横たわる構造的な問題に迫っていく。ひとりの少女の悲劇を通して、社会の歪みと責任の所在を問いかける人間ドラマでもある。
こうやってペ・ドゥナが出演したものを改めて見てみると、韓国社会に対する問題提起が根底に流れている作品が多い。社会派作品が多く紹介されるベルリン映画祭に審査委員に抜擢されたのも納得だ。ペ・ドゥナの出演作をたどることは、その時代ごとに韓国社会が抱えてきた課題や葛藤を知る手がかりにもなるのかもしれない。これからもしっかりと作品を追いたい俳優の一人である。
(文=豊田 祥子)
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