もしもある日、あなたの“最推し”が殺人事件の容疑者となり、弁護士であるあなたに助けを求めてきたら――そんなオタクの妄想を、本気でドラマ化したのが『アイドルアイ』(全12話)だ。
一つ前の記事で筆者は「スタートダッシュは完璧なのに、中盤以降で失速してしまう」韓国ドラマのトレンドについて分析したが、『アイドルアイ』はむしろその対極にある。設定こそありえないけれど、物語は驚くほど堅実。過剰な演出に頼らず、「犯人は誰なのか」という謎を軸に、法廷ミステリーとして安定感のある展開を見せる。大作の陰に隠れがちだが、近年のラブコメドラマの中でも完成度は群を抜く。そんな『アイドルアイ』の沼深い魅力をひも解いていきたい。
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ある日突然、「推し」が容疑者に
スター弁護士メン・セナ(チェ・スヨン)は、“悪党専門”と陰口を叩かれる冷静沈着な実力派。ところが私生活では、人気バンド『ゴールドボーイズ』のセンター、ド・ライク(キム・ジェヨン)にすべてを捧げる熱烈なオタクという裏の顔を持つ。
ある日、その“最推し”であるライクが、殺人事件の容疑者として逮捕される。華やかな舞台の裏で、メンバーとの確執、ストーカー被害、母との因縁に苦しんでいたライク。セナはファンであることを隠し、彼の弁護を引き受ける。

「信じたい気持ち」と「証拠に向き合う理性」の間で葛藤するセナ。けれど長年のファンだからこそ知る彼の素顔や行動が、やがて弁護の鍵となっていく。そして所属事務所からも見放された孤独なライクにとって、唯一の味方であるセナの存在は次第に大きくなっていく。「推し」は無実なのか、それとも殺人犯なのかーー。

見どころ① オタクの妄想を本気のミステリーへ
「推しと偶然出会う」――推しのいる人なら誰しも経験のあるそんな淡い妄想を、一気に現実化したのが本作だ。けれど甘さに逃げず、軸にあるのは、「信じたい愛」と「疑わなければならない理性」の衝突だ。
ミステリー、法廷、ロマンス、K-POPの裏側。要素は多いが破綻も失速もしない。無駄のない展開と伏線回収の快感、12話を走り切る構成力が光っている。「推し×法廷」という攻めた設定を、淡々と成立させたバランス感覚こそ最大の魅力だ。
見どころ②「少女時代」スヨンが演じる“ガチオタ”弁護士の説得力
主人公を演じるのは「少女時代」のスヨン。クールなスター弁護士と、時間もお金も推しに捧げるオタクというギャップが鮮やかだ。トップアイドルであるスヨン自身がファン側を演じることで、推し活に全振りする熱量と、法廷での冷静さのコントラストが効いている。

明るいヒロイン像を想像して観始めると、スヨンの抑えた演技に驚くはずだ。過去のトラウマを抱えながらも弁護士としてひたむきに生きる女性を、華やかさを抑えた演技で表現している点に好印象が持てる。
そして、パンツスーツを完璧に着こなすスタイルの良さにも目を奪われる。少女時代の美脚担当だけあって、すらりと伸びた脚線美、特に後ろ姿のウエストのラインには注目してほしい。スター弁護士としての説得力をさらに底上げしている。
見どころ③素なのか、計算なのかわからない、奇跡の37歳キム・ジェヨン
ビジュアル系バンド『ゴールドボーイズ』のメインボーカル、ド・ライクを演じるのは、37歳のキム・ジェヨン。20代のトップアイドル役を違和感なく成立させる存在感に、「キャスティングした人は天才!」という声が上がるのも納得。顔も演技も声もいいのに、なぜ今までもっとブレイクしていなかったのか――そんな驚きすら込みで、本作を楽しめる。

低く落ち着いた話し声と高めの歌声のギャップ、カリスマと脆さを併せ持つ演技が魅力的だ。トップアイドルの精神的な揺らぎを繊細に表現し、「ライクの苦痛がつらすぎて、一緒に病みそう」という声が視聴者から上がったほどである。
OSTには、本人が歌う『Rock Star』『Echoes of You(Drama ver.)』の2曲が収録されているので、ぜひ聴いてほしい。先ごろ、日本でのファンミーティング開催(4月)が発表された。
見どころ④芸能界の「リアルな闇」と最強の脇役陣
本作では、華やかな芸能界の裏側を正面から描いている。スポンサー圧力、SNSでの誹謗中傷、契約トラブル、サセンファン(アイドルの私生活まで追いかけるファン)など、K-POP界のリアルな問題が作品に緊張感を与えている。ただ、闇を暴くだけで終わらないのがこのドラマの真骨頂で、孤立したライクが「商品」ではなく一人の人間として救われていく過程を丁寧に描き、最後は「人を信じることの痛みと救い」に着地する。

さらに物語に厚みを加えているのが、眼福かつ実力派のフレッシュなサブキャラクターたちだ。セナを公私に渡って支えるチュンジェ(キム・ヒョンジン)は、童顔×長身マッチョというギャップ萌えを誘う“最強の2番手男子”。セナに想いを寄せながら、常に紳士的な距離感を保つ姿勢にキュンとくる。また、『君は天国でも美しい』でミステリアスな役を演じたチェ・ヒジンが、ライクの元恋人を演じ、静かな緊張感をもたらす存在として光っている。
タイトルだけ見て「ただのアイドルドラマ」と思うのは、正直もったいない。法廷ミステリーとしてもロマンスとしても完成度が高く、重すぎず、軽すぎない。そして何より最終回の爽やかな余韻がいい。後からじわじわ効いてくる静かに沁みるエンディングを、ぜひ楽しんでもらいたい。
(文=田名部 知子/Xで気ままなソウルの日常を発信中:@t7joshi)

