現在、Netflixシリーズ『鉄槌教師』で主演を務め、その圧倒的な存在感で世界中の視聴者を魅了している俳優キム・ムヨル。同作で彼を知り、強烈な印象を受けた人も多いのではないだろうか。
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彼は映像作品で注目を集める以前から、ミュージカル界で高い人気を誇る実力派俳優として活動。舞台で培った確かな演技力と表現力を武器に、映画、ドラマ、そしてNetflix作品へと活躍の場を広げてきた。ミュージカルスターから映画・ドラマ界を代表する実力派俳優へ。その歩みと魅力を紐解いていく。

(プロフィール)
1982年生まれ。2002年にミュージカル『チャンタ』でデビューし、その後『ヘドウィク』『スリル・ミー』『地下鉄1号線』など数々の舞台作品で活躍した。特に『スリル・ミー』での熱演により、韓国ミュージカル界を代表するスターの一人として注目を集めた。その後、舞台で培った高い演技力を武器に、映画やドラマへ進出。映画『記憶の夜』『悪人伝』『犯罪都市 PUNISHMENT』、ドラマ『リミット -My Beautiful Bride-』『未成年裁判』『于氏王后』など話題作へ出演。最新作『鉄槌教師』は配信直後から世界的な反響を呼び、キム・ムヨルの新たな代表作として高い評価を受けている。
キム・ムヨルは1982年、ソウルで生まれた。父親は国会議員の補佐官を務めていた人物で、息子には安定した職業に就くことを望み、俳優の道へ進むことには反対していたという。しかし、彼は父に内緒で2年間、演技学院へ通い続けた。
しかし1997年、韓国を襲ったIMF通貨危機(アジア通貨危機)の影響で家庭の経済状況は一変する。母親が商業施設の分譲詐欺被害に遭い、近所から借金をするなど生活は困窮。住居に差し押さえの通知が貼られたこともあったという。
さらに追い打ちをかけるように、父が脳出血で倒れ、長期間にわたって意識不明の状態に。その後、がんも発症し、長い闘病生活を送ることとなった。こうした状況の中で、キム・ムヨルは一家の生計を支える存在となっていく。
成均館(ソンギュンガン)大学演技芸術学科へ進学したものの、学費の工面に苦労し、満足に通学することはできなかった。のちにキム・ムヨルは「覚えていられないほど多くの仕事を経験した」と振り返り、生計を立てるために数え切れないほどのアルバイトを掛け持ちしていた当時を明かしている。
そんな厳しい家庭環境の中でも、父は誰よりも熱心な息子のファンであり続けた。
息子がドラマに出演することになった際には、父は近所の人たちに「息子がテレビに出る」と誇らしげに話していたという。tvNのトーク番組『ユ・クイズ ON THE BLOCK』に出演した際、キム・ムヨルは「もうそばにはいないけれど、良いことがあるたびに父のことを思い出す」と、亡き父への思いを語り、目を潤ませた。
そして2002年、ミュージカル『チャンタ』でデビュー。しかし、すぐに成功をつかんだわけではなかった。父の闘病や家計の困窮を支えながら、学業とアルバイトを両立し、舞台に立つ日々が続く。アンサンブル(群舞・端役)から地道に経験を積み重ね、俳優として着実に実力を磨いていった。
転機となったのは、韓国ミュージカル界の登竜門ともいわれる『地下鉄1号線』への出演だった。歌唱力と演技力が高く評価され、次第に主要キャストを任されるようになる。
なかでもキム・ムヨルの名を広く知らしめた代表作が、実在の殺人事件をモチーフにした二人芝居の心理サスペンス『スリル・ミー』だ。複雑な心理を抱えた主人公を繊細に演じ、その熱演は現在でも韓国ミュージカルファンの間で“代表作”として語り継がれている。
そんなキム・ムヨルを再び苦境に立たせたのが、“生活困難”を理由とした兵役免除をめぐる騒動だった。父の闘病中、経済的な事情から兵役延期を申請し、その後、厳しい審査を経て兵役免除の判定を受ける。
しかし、その後、この免除をめぐって所得基準などに疑問を呈する声が上がり、“兵役逃れ”との批判を浴びた。当時、本人にとっても非常に苦しい状況だったが、所属事務所を通じて「免除を受ける過程で恥ずべきことは一切していない」と説明。そのうえで、「これ以上、批判の対象になるのは嫌だった。自分の貧しさや亡くなった父の病気を利用して兵役免除を受けようと考えたことは一度もない」「入隊を決意したのは、していない過ちを認めるためではなく、受けたくない誤解から抜け出したかったから」と心境を明かした。
そして2012年10月、自ら現役兵として入隊。約21カ月間の兵役を誠実に務め、2014年に除隊した。
兵役除隊後、キム・ムヨルは活動の軸をミュージカルから映画・ドラマへと移していく。まず大きな転機となったのが、2015年放送のドラマ『リミット -My Beautiful Bride-』だ。恋人を救うため巨大な陰謀に立ち向かう主人公を熱演し、体当たりのアクションと繊細な感情表現が高く評価された。この作品をきっかけに、「ミュージカル出身俳優」の枠を超えた実力派俳優として広く認知されるようになる。
その後は映画界で存在感を強めていく。
2002年の日韓ワールドカップ開催中に起きた韓国と北朝鮮の艦艇による銃撃戦を描いた映画『ノーザン・リミット・ライン 南北海戦』(2015年)では、実在の海軍将校を演じ、観客動員600万人を超える大ヒットに貢献した。
続く『悪人伝』(2019年)では連続殺人犯を追う熱血刑事役を、『犯罪都市 PUNISHMENT』(2024年)では冷酷な悪役ペク・チャンギ役を熱演。卓越した身体能力を生かした迫力あるアクションを披露し、俳優としての存在感をさらに高めた。
なかでも『悪人伝』では、マ・ドンソク演じるヤクザのボスとの緊張感あふれる掛け合いが高く評価され、作品を代表する見どころの一つとなった。

一方、ドラマの出演本数は決して多くないものの、『バッドガイズ 悪の都市』『未成年裁判』『車輪』など話題作に次々と出演し、印象的な役柄を演じてきた。
なかでも『未成年裁判』では、少年犯罪を担当する判事チャ・テジュ役を好演。重厚な法廷ドラマの中で存在感を放ち、安定感のある演技が高く評価された。また、『車輪』では国会議員役に挑戦し、政治スキャンダルと夫婦の葛藤を抱える複雑な人物像を繊細に表現した。
さらに、それまで刑事や軍人、悪役など骨太な役柄のイメージが強かったキム・ムヨルだが、時代劇への本格的な挑戦となった『于氏王后』では、高句麗王コ・ナンムを熱演。王としての威厳と人間的な苦悩を併せ持つ人物像を見事に表現し、俳優としての新たな一面を印象づけた。

そんなキム・ムヨルのキャリアにとって、さらなる転機となったのが、2026年6月に配信されたNetflixシリーズ『鉄槌教師』だ。韓国の同名ウェブトゥーンを原作とする実写ドラマだが、配信前から作品をめぐるさまざまな議論が巻き起こっていた。
原作ウェブトゥーンをめぐっては、体罰描写や差別表現などを問題視する声が上がり、一部の教育団体から批判を受けた。また、制作初期のキャスティングをめぐっても議論が起こるなど、作品は配信前から大きな関心を集めていた。

そんな渦中の作品への出演を決めたキム・ムヨルには、「なぜこの作品を選んだのか理解できない」といった声も寄せられた。しかし本人は後に、次のように語っている。
「(オファーを辞退することは)キャスティングの過程でよくある出来事です。それよりも、作品に寄せられた懸念や批判について、監督や制作陣と常に真剣に向き合ってきました。「間違った方向に進んでいないか」と何度も確認しながら撮影を進めました」。
配信開始後の反響は大きく、公開直後からNetflixグローバルTOP10(非英語シリーズ)で1位を獲得。さらに韓国、インドネシア、マレーシア、フィリピンなど10カ国で首位を記録し、48カ国でTOP10入りを果たすなど、世界的なヒットとなった。
キム・ムヨルは『鉄槌教師』で、学校暴力や教育現場の問題に立ち向かう主人公ナ・ファジンを熱演。カリスマ性あふれるアクションと繊細な感情表現を兼ね備えた演技が高く評価され、それまで韓国映画ファンを中心に知られていた実力派俳優から、世界的な注目を集める俳優へと飛躍を遂げた。

私生活では2015年に女優ユン・スンアと結婚。2人が交際を公表した2012年頃、キム・ムヨルは兵役判定をめぐる騒動で批判を受けるなど、逆風の中にあった。そうした状況下でもユン・スンアは変わらず彼を支え続けたとされる。キム・ムヨルも後に「最も苦しかった時期を一緒に乗り越えてくれた人」と語っている。
2023年には第1子が誕生。現在は芸能界を代表するおしどり夫婦として知られ、インタビューでも家族への思いを語るなど、穏やかな家庭を築いている。

父の闘病、家計の困窮、兵役をめぐる騒動。幾度もの試練を経験しながらも、キム・ムヨルはそのたびに俳優として成長を遂げてきた。華やかな成功の陰には、地道な努力と決して諦めない強さがある。ミュージカル界のトップスターから映画界を代表する実力派俳優へ、そして『鉄槌教師』で世界中の視聴者を魅了する存在へ。その歩みは、これからも新たな代表作とともに続いていくだろう。
(文=韓ドラLIFE編集部)
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