韓国ドラマを見ていると、主人公がふと立ち止まり、街角に掲げられた看板のメッセージを見上げるシーンに出会うことはないだろうか。たとえば『誰だって無価値な自分と闘っている』では、自分を捨てた実母との確執に疲弊したヒロイン・ウナ(演者コ・ユンジョン)が、帰路、傷心のままぼんやり見上げた街の看板には、次のような言葉が映し出される。
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그 누구도 너에게
잘못오지 않는다
誰もがあなたの元に
訪れるべくして訪れる
『私の解放日誌』でも、日々の生活に疲れた主人公のミジョン(演者キム・ジウォン)が、通勤途中に電車の窓からふと見た看板には、
오늘 당신에게
좋은 일이 있을겁니다
今日、あなたに
良いことがあるでしょう
という前向きなメッセージが書かれている。
韓国ドラマでは、こんなふうに街の中に掲げられた言葉に、登場人物の心情を映す演出がしばしば用いられる。
実はソウルの中心地・光化門にも、人々の心を動かし続ける巨大な看板がある。多くの韓国人に親しまれている「광화문글판/光化門グルパン(メッセージボード)」だ。

「光化門グルパン」は、光化門交差点に建つ教保生命ビルにある横20メートル、縦8メートルの大型メッセージボードである。これほどの一等地であれば、通常は企業の広告として使われるだろう。けれども教保生命はここを広告ではなく、詩や名言を紹介するメッセージボードとして運営している。この看板は本社ビルだけでなく、江南の教保タワーをはじめ、大田、釜山、光州、済州の教保生命施設にも存在する。
始まりは1991年、教保生命の創業者シン・ヨンホ氏の提案だった。当初は経済成長に関する内容が中心だったが、のちに詩や名言へと性格を変えていった。初期には広告物とみなされ、罰金を科されたこともあったが、現在は、メッセージを厳選するための専門委員会が設けられ、慎重な審査を経て掲示されている。
2025年には光化門グルパン35周年を記念して、Netflixシリーズ『おつかれさま』との特別コラボレーションも実現した。添えられたのは、ドラマのナレーションから引用された次の一節だ。
아빠의 겨울에 나는 녹음이 되었다
그들의 푸름을 다 먹고
내가 나무가 되었다
父の冬に、私は青葉となった。
父母が注いでくれた命や愛をすべて糧として
私は一本の木になった

この一節は、親の深い愛情と献身によって子どもが成長するというテーマを木の一生になぞらえている。ここでの「父の冬」とは、父が人生の厳しい季節を耐え抜き、老いや苦労を引き受けたことを象徴する。そして、両親が惜しみなく注いでくれた愛情や若さを糧にして、子どもである自分が一人前の大人(木)へと育ったという深い感謝と家族愛が込められている。
また2026年3月、光化門でのBTSカムバック公演に合わせ、教保生命は光化門グルパンをBTS仕様の特別ラッピングに変更した。
나에게서 시작한 이야기가
온 세상을 울릴 때까지
Born in Korea, Play for the World
私から始まった物語が
世界中の人々の心を揺さぶるその日まで
韓国に生まれ、世界へ。
というメッセージが綴られた。教保生命は、「希望と励まし」という共通の価値観を持つ光化門グルパンとBTSのコラボレーションだと説明している。

光化門グルパンがソウルの人々に定着した大きな転機は、1998年のIMF通貨危機の時だった。苦境にあえぐ市民を励ますために、詩人コ・ウンの
떠나라 낯선 곳으로 그대 하루의 낡은 반복으로부터
旅立ちなさい。見知らぬ場所へ。あなたの一日の古びた繰り返しから
という一節が記され、光化門グルパンは大きな注目を集めた。
今でも季節ごとに変わるその短いエールを、多くの韓国人が楽しみにしている。ほんの短い言葉でありながら、街を行き交う人々に立ち止まって考えるきっかけを与え続ける「光化門グルパン」。
次にソウルを訪れ、光化門を歩く機会があれば、ぜひ教保生命ビルを見上げてみてほしい。そこにはその時々の季節や社会を映した温かなメッセージが添えられている。日本人旅行者にはまだあまり知られていないこの場所で、韓国ドラマの主人公のように、自分だけの時間を振り返ってみてはいかがだろうか。
(文=田名部 知子/Xで気ままなソウルの日常を発信中:@t7joshi)
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