筆者がソウルで暮らすようになって、朝の散歩でふと気づいたことがある。毛足の長い白い犬を本当によく見かけるのだ。むしろ日本では最近、白い犬はあまり見かけなくなったような気がするのだが、韓国では白くてモフモフなマルチーズ、ビション・フリーゼ、ポメラニアン、プードルなどが目につく。もちろん茶色や黒い犬もいるけれど、白い小型犬の存在感が際立っているのだ。
そして韓国ドラマを見ていると、その印象はさらに強くなった。『ユミの細胞たち3』『ドドソソララソ』『海街チャチャチャ』などには、白い犬が自然に登場し、『ワンダフルデイズ』では物語の重要な役割を担っている。白くてふわふわした犬は、癒やしや日常の温かさを象徴する存在として描かれているように見える。

ソウル市が2024年に公表した報告書によると、市内で登録されている犬種の1位はマルチーズ(19.8%)で、続いてプードル、ミックス犬、ポメラニアン、シーズーと、小型犬が上位を占めている。街で感じた印象は決して気のせいではなかったと言えそうだ。参考までに、日本の人気ランキングでは、ミックス犬、トイ・プードル、チワワ、柴犬、ミニチュア・ダックスフンドなどが上位で(『アニコム損害保険『人気犬種ランキング2025』より)、韓国とは人気犬種の顔ぶれが少し異なる。
では、なぜ韓国ではこうした犬が支持されているのだろうか。背景には、日本同様、マンションやオフィステル(単身者向けマンション)での生活が中心という住環境がある。また、日本以上のスピードで進む少子化、そして単身世帯、共働き世帯の増加を背景に、韓国では空前のペットブームが続いている。日本では「ペット」という言葉が日常的に使われているが、韓国では少し前までは「愛玩動物(애완동물)」と呼ばれ、現在では「伴侶動物(반려동물)」という呼び方が広く定着した。かわいがる対象から「人生を共に歩む家族」へと価値観が変化したことを表している。犬用ベビーカー、ペット同伴カフェ、ペットホテル、犬の幼稚園まで次々と誕生しているのも、その象徴と言えるだろう。
実際、俳優のパク・ソジュンやシン・セギョン、東方神起のチャンミンはビション・フリーゼ、SUPER JUNIORのイトゥクはマルチーズ、イェソンはポメラニアン、BLACKPINKのジスもマルチーズを飼っていることで知られる。韓国メディア『コリア・ヘラルド』は、人気犬種の流行はテレビや芸能人をきっかけに広がり、ペットショップやブリーダーがその流れを後押ししていると報じている。
そしてあくまでも筆者の主観になるが、江南を歩いていると、高級ブランドバッグを手にした女性が、小さな白い犬を小脇に抱いていたり、高級車の窓から真っ白な犬が顔をのぞかせていたりする光景を目にすることがある。真っ白な毛を美しく保つには、定期的なトリミングや日々のケアが欠かせない。つまり、白い犬は「かわいい」だけではなく、「きちんと手をかけて育てている」というライフスタイルまで映し出す存在なのではないだろうか。
だからこそ、韓国ドラマでも白い犬は富裕層やセレブの暮らしぶりを演出する小道具として登場することが多いように感じる。ブランドバッグや高級マンションのインテリアと同じように、白く美しく手入れされた犬もまた、その人物の暮らしぶりや価値観をさりげなく伝える演出の一つなのかもしれない。
韓国ドラマは恋愛やサスペンスだけでなく、その国の暮らしや価値観を映す鏡でもある。次に韓国ドラマを見るときは、主人公の隣を歩く一匹の白い犬にも注目してみてほしい。何気ない存在に見えても、そこには韓国のペット文化や美意識、そして時代の空気がさりげなく映し出されていることに気づくはずだ。
(文=田名部 知子/Xで気ままなソウルの日常を発信中:@t7joshi)
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