『エージェント・キム:リアクティベーティッド』(Netflix日本配信中)が、韓国では首都圏視聴率23.4%、全国視聴率23.0%、瞬間最高視聴率27.1%(ニールセンコリア調べ)を記録し、大きな話題を呼んだ。ソ・ジソブ主演の本作は、韓国ノワールの醍醐味であるハードなアクションに、コミカルな掛け合いや家族愛を巧みに織り交ぜ、新たなファン層を獲得した。寡黙で感情を表に出さない主人公キム部長が、時折見せる人間らしい表情に心を奪われた人も多いだろう。
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そもそも韓国ノワールとは、韓国社会の裏側に潜む犯罪や権力構造を舞台に、「欲望」「裏切り」「信念」の狭間でもがく人間たちを描くジャンルである。そこには、目を背けたくなるような残忍な暴力描写も少なくない。本サイトでもおなじみの作家・康熙奉氏は、「韓国作品には、表現したいものを最後まで描き切る韓国ならではの気質がある。その妥協のない描写力こそが、世界的な評価につながっている」と語る。ノワール作品が観る者を圧倒するのも、この"描き切る姿勢"があるからだ。容赦ない描写に目を覆いたくなる一方で、その世界観にしびれてしまうーーそれもこのジャンルが世界中のファンを惹きつける理由の一つだ。
改めて感じたのは、このジャンルの魅力は暴力や銃撃戦ではなく、「男たちの生き様」にあるということだ。主人公は決して完全なヒーローではない。善と悪の境界に立ち、義理と裏切りの狭間でもがきながら、信念だけは最後まで貫く。だからこそ彼らは傷だらけで、どこか孤独だ。そしてその不器用な生き方が、見る者の心を揺さぶるのだ。
そんな韓国ノワールを支えてきた俳優たちを、大きく三つのタイプに分けてみた。
1)「狂気のカリスマ」型
代表的な俳優:イ・ビョンホン、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミンなど

善人も悪人も演じるが、共通しているのは、画面に現れた瞬間に空気を変えてしまう圧倒的な存在感だ。『甘い人生』のイ・ビョンホンは、静かな表情の奥に狂気を宿し、『悪魔を見た』では復讐に取り憑かれた主人公を鬼気迫る演技で体現した。チェ・ミンシクは『オールド・ボーイ』で破滅を背負う人物を怪演し、『新しき世界』でも強烈な印象を残す。ファン・ジョンミンも『新しき世界』や『ソウルの春』で、人間臭さと恐ろしさを併せ持つ稀有な俳優だ。
2)「孤高の正義」型
代表的な俳優:ソ・ジソブ、チョン・ウソンなど

組織の中にいながら組織に利用され、裏切られ、それでも最後まで自分の信念を貫く。『ある会社員』のソ・ジソブは、殺し屋でありながら人間味を失わない男を演じ、『エージェント・キム』では、寡黙さの中に優しさとユーモアをにじませた。一方、チョン・ウソンは『アシュラ』や『ハント』で、正義だけでは乗り越えられない葛藤を表現している。
3)「欲望のリアリスト」型
代表的な俳優:ソン・ガンホ、イ・ジョンジェなど

社会の歪みそのものを映し出す存在で、彼らが演じる人物は、私たちの日常と地続きだからこそリアルで恐ろしい。『パラサイト 半地下の家族』のソン・ガンホは、格差社会に翻弄される父親を繊細に演じた。イ・ジョンジェは『ただ悪より救いたまえ』や『ハント』で、善悪の境界に立つ複雑な人物を体現した。
韓国ノワールが世界中で支持される背景には、軍事政権や民主化、格差社会、政治腐敗といった韓国特有の歴史や社会構造が色濃く映し出されている。今回の『エージェント・キム』は、その伝統を受け継ぎながら、コメディという新たな風を吹き込み、シリアス一辺倒ではない「ハイブリッド型ノワール」の魅力を示した。進化を続ける韓国エンタメの底力を、改めて示した作品でもある。そして時代とともに形を変えながらも、韓国ノワールの中心にいるのは、やはり傷だらけになっても信念を曲げない男たちだ。その不器用で揺るがない姿こそが、世界中のファンを魅了してやまない「韓国ノワールの男の美学」なのである。
(文=田名部 知子/Xで気ままなソウルの日常を発信中:@t7joshi)
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