終戦から81年目となる今年の夏は、戦争の記憶を未来へつなぐ作品が数多く公開される。
なかでも9月11日公開の『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』は、『野火』や『ほかげ』など、これまで数々の戦争を題材にした映画を手掛けてきた塚本晋也監督が、ベトナム戦争に従軍した元アメリカ兵、アレン・ネルソン氏の実体験を基に、“戦争加害者の傷”という、従来の戦争映画では十分に描かれてこなかった側面に迫る渾身作。

そこで今回は、戦争を「歴史」としてふり返るだけでなく、そこに生きた人々の声や感情に触れることで、平和について改めて考えるきっかけとなる新作映画8選を紹介する。
『開戦前夜』公開中
猪瀬直樹のノンフィクション「昭和16年夏の敗戦」を原案に、開戦前夜の日本を舞台にした社会派ドラマ。
1941年、官僚や軍人、民間から選抜された若きエリートたちが集められ、「総力戦研究所」が発足した。彼らは対米戦争の行方を分析する極秘任務に挑み、膨大な資料から「日本は敗北する」という予測を導き出す。しかし、その警告が届くことはなく、日本は戦争への道を進んでいく。
主人公・宇治田役を池松壮亮が務めるほか、仲野太賀、岩田剛典、中村蒼、三浦貴大、佐藤隆太、國村隼、江口洋介、佐藤浩市ら実力派・豪華キャストが集結。

銃撃戦や戦場の描写ではなく、頭脳を武器に戦った実在の組織を通して、「なぜ日本は敗北を予見しながら戦争へ向かったのか」という歴史の核心に迫る、重厚な人間ドラマとなっている。
『バグダッド・メッシ 片足のサッカー少年』公開中
2015年にアカデミー賞短編実写映画賞の最終候補に選ばれ、大きな反響を呼んだ短編を基に、9年の時を経て長編映画化。第97回アカデミー賞国際長編映画賞のイラク代表にも選出された社会派ドラマ。
舞台はイラク戦争下のバグダッド。爆撃によって片足を失い、心に深い傷を負った少年ハムディが、憧れのサッカー選手リオネル・メッシの存在を支えに、過酷な状況で再び夢のために立ち上がる姿を描く。
主人公を演じるアフマド・モハメド・アブドラは実際に、幼い頃にテロで片足と父親を失った。その実体験を重ね合わせるような真摯な演技が、作品に圧倒的な説得力とリアリティをもたらす。極限状況の中でも人が希望を失わずに生きることの尊さを静かに、そして力強く映し出し、非情な現実のなかで、人間が生き抜くことの真の意味を我々に問いかける1作。
『白パンと独裁者』公開中
舞台は、第二次世界大戦終結間近のドイツ。12歳の少年ナニングは、わずかな食糧で妊娠中の母や家族の生活を支えていた。しかし、ヒトラーに忠誠を捧げる母は、ヒトラーの死をきっかけに深い絶望へと沈み、日常は一変する。
生気を失い、食事も拒む母が唯一口にした願いは、「たっぷりのバターとはちみつを塗った白パン」。ナニングはその願いを叶えるために奔走する中で、家族の秘密を知ることになる――。
『女は二度決断する』でゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞したドイツの名匠ファティ・アキンが、自身の恩師でありドイツ映画界の重鎮ハーク・ボームの少年時代の記憶を基に映画化。
第78回カンヌ国際映画祭カンヌ・プレミア部門に正式招待されるなど、ドイツ国内外で高い評価を獲得した。1945年という歴史の転換点を、雄大な自然と静謐かつ詩的な眼差しで映し出す、名匠の新たな到達点となる1作。
『八月の声を運ぶ男』8月21日公開
高度経済成長のただ中にあった日本を舞台に、被爆者の証言を記録し続けた実在のジャーナリストの歩みを描く人間ドラマ。
長崎の放送局に勤める辻原保は、原爆の記憶を後世へ残そうと日本各地を訪ね歩いていた。しかし、戦後間もない当時、その活動は周囲の理解を得られない孤独な闘いでもあった。そんな中で辻原は、1人の被爆者・九野和平と運命的な出会いを果たし、それぞれが抱える戦争の記憶と向き合っていく。
主演は本木雅弘。石橋静河、伊東蒼、尾野真千子、田中哲司、阿部サダヲら実力派俳優が共演。2025年にNHKで放送され反響を呼んだ戦後80年ドラマを基に、未公開シーンを加えて登場人物の心情をより丁寧に描いた劇場版として再構成。
いままで語られずに埋もれてきた声に耳を傾け、戦争の記憶を未来へつなぐことの意味を静かに語りかける作品。
『ヒンド・ラジャブの声』9月4日公開
2024年にガザで実際に起きた悲劇を基に描く実録ドラマ。
イスラエルによる銃撃によって車内に取り残された6歳の少女ヒンド・ラジャブから、人道支援組織に1本の緊急電話が入る。電話越しに少女を繋ぎ止めながら、スタッフたちは刻一刻と悪化する状況のなかで救出の可能性を探り続ける。
限られた情報と時間の中で命を救おうと奔走する人々の姿を通して、戦禍の現実を緊迫感あふれるタッチで映し出す衝撃作。
監督は、アカデミー賞に3度ノミネートされた経験を持つカウテール・ベン・ハニア。実際の音声記録や現地の映像などを取り入れながら、極めて高い臨場感を持つ作品へと昇華させた。

製作総指揮には作品の理念に賛同したブラッド・ピット、ホアキン・フェニックス、ルーニー・マーラらが参加。ひとりの少女の声を通して、戦争がもたらす現実と私たちが向き合うべき問いを突きつける力強い1作となっている。
『戦場0地点』9月4日公開
第96回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『マリウポリの20日間』のミスティスラフ・チェルノフ監督が、新たにウクライナ戦争の最前線へとカメラを向けたドキュメンタリー。
2023年、ウクライナ軍第3強襲旅団に同行した監督は、ロシア軍に占領されたアンドリーウカ村の奪還作戦を記録。兵士たちと寝食を共にしながら、わずか約2キロ先の目的地へ進む極限の戦場を、兵士たちと同じ視点で映し出していく。
映像の多くは実際の兵士たちのヘルメットカメラによって撮影されており、観客はまるで部隊の一員となったかのように、命懸けの前進を体感する。
ドローンが戦局を左右する21世紀の戦場を克明に記録し、ニュースでは伝わらない実像を映し出す。人は何のために戦い、何を失っていくのか――その答えの一端を観る者に重く突きつける、渾身のドキュメンタリー。
『わたしの知らない子どもたち』10月16日公開
終戦直後の日本。戦争によって家族を奪われた12歳の少女・琴子は、性的搾取の危険に晒される混乱の時代を生き抜くため、「少年」として生きる決断をする。
一方、琴子の疎開先の学校教師・曽根は軍国主義教育に加担していたことで、信じてきた価値観も立場も失い、過去の責任と向き合うことを余儀なくされる。
戦争が奪ったもの、そして、それでもなお未来を求める人々の姿を描く、喪失と再生のヒューマンドラマ。
原案・脚本・監督を務めるのは、『すばらしき世界』の西川美和。主人公・琴子役には、約500人が参加したオーディションを勝ち抜いた小八重葵美が抜擢され、曽根役を二階堂ふみが演じる。

音楽は『国宝』で高い評価を受けた作曲家・原摩利彦が担当し、『ゴジラ-1.0』で第96回アカデミー賞視覚効果賞を受賞した映像制作プロダクション・白組がVFXを手掛け、戦後日本の街並みを圧倒的なリアリティでスクリーンに甦らせた。
『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』9月11日公開
『野火』『斬、』『ほかげ』など、戦争と人間の本質を見つめ続けてきた塚本晋也が、監督・脚本・撮影を手掛け、本年度のヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に正式出品された戦争がもたらす傷痕を容赦なく描く社会派ドラマ。

ベトナム戦争に従軍した元アメリカ兵アレン・ネルソンの手記を原作に、“戦争加害者の傷”というテーマに真正面から挑み、PTSDを背負って生きるひとりの兵士の人生を描き出す。

1966年、18歳でベトナム戦争の最前線へ送られたアレン・ネルソンは、命を奪う経験を重ねるうちに心の感覚を失っていく。23歳で帰国した後も、戦場の記憶から解放されることはなく、突然の物音や暗闇に怯え、日常生活や家族との関係を失うことに。
だが、退役軍人病院のダニエルズ医師との出会いをきっかけに、自身の苦しみに真正面から向き合いはじめる。
主人公アレン・ネルソンを演じるのは、ブロードウェイミュージカル「RENT」のオリジナルキャストとしても知られるロドニー・ヒックス。共演には、『英国王のスピーチ』などで知られる名優ジェフリー・ラッシュ。

さらにリリー・フランキーが、ネルソンの活動を支えた日本人・黒井役を務め、全編英語での演技に挑んだ。

戦争とは何を奪い、関わった人々にどのような傷を残すのか。現代を生きる私たちにも重い問いを投げかける。
『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』は9月11日(金)よりkino cinéma新宿ほかにて公開。



