レッテルを破り捨て、自分らしく生きたい――。自由や人権を制限してきた戒厳令が解除され、新しい風が吹き始めた1990年代初めの台湾。好きな音楽を追求し、マーチングバンドに情熱を燃やす若者たちの姿を描いた『進行曲 マーチングボーイズ』は、世界大会の頂点に立った台北市立建国高級中学マーチングバンド部の実話をもとにした青春映画だ。
進学校の建国高校に通う優等生、ジャン・ハオ(江浩)は、父親の期待を背負い、医学部進学を目指して勉強に励んでいた。そんな彼にとって音楽は、亡き母親がいた幼い頃の幸せな記憶を呼び起こす存在だ。
マジメなジャン・ハオとは対照的に、クラスメイトのリウ・ジーチュワン(劉智川/流川)は自由奔放。そんな正反対の2人が、それぞれの思いを抱えながら、マーチングバンド部に入部する。部長のタイチェン(太成)はまとまりのない後輩部員たちを鼓舞して大会出場を目指すが、なかなかうまくかみ合わない。衝突を繰り返しながら、彼らは目標を成し遂げることができるのか…?

企画の始まりは、本作のプロデューサー兼脚本家であるケリー・チェン(陳慧如)氏が、彼女のもとに持ち込まれた建国高校の実話に心を動かされて映画化を決意したこと。フレッシュな若手俳優の魅力と、迫力あるマーチングバンドのシーンが成功のカギを握ることは明らか。そこで白羽の矢を立てられたのが、ジャン・ルイジー(姜瑞智)監督だった。
日本でもファンの多いBLドラマ「We Best Love 永遠の1位」シリーズや、ヤクザ映画『角頭』シリーズなど、ヒット作を数多く手がけてきたキャリアの持ち主。男たちの絆や繊細な感情を撮るのがうまく、台湾の映画・ドラマ界で「最も男を魅力的に撮る監督」と称される。そんな彼に課せられたのは、マーチングバンドに情熱を注ぐ高校生たちの魅力を最大限に写し取るミッションだった。
台湾映画界期待の新星、主演3人の魅力とは?

主演キャストは、オーディションで200人の候補者の中から選ばれた。ジャン・ハオ役のムー・セン(牧森)、リウ・ジーチュワン役のリウ・ユーレン(劉育仁)、タイチェン役のユー・ジェエン(余杰恩)の3人は、台北映画祭が実力とスター性を兼ね備えた新人俳優の発掘を目的に始めた「非常新人」に選出されるなど、これからの台湾映画界を背負って立つ期待の新星だ。性格も個性も家庭環境も異なる3人が仲間となっていく姿を、瑞々しく演じている。
3人の魅力を、ジャン監督は次のように語る。
「ムー・センの魅力は一番説明が難しい。静かに考え事をしていたり、何かに集中していたりする時の彼に、私はとても引かれます。目に多くの物語が宿っている、とても将来性のある俳優だと思います。
リウ・ユーレンは端正な顔立ちのハンサムな俳優ですが、そのルックスの奥に、諦めない精神を秘めている。実は主演3人の中で、音楽が一番苦手だったのは彼。それなのに“音楽の天才”という役を演じなければいけなかったので、一番練習量をこなしていました。彼が努力している姿を見ると、なんだかいじらしくて、もっと気にかけてあげたくなります。

ユー・ジェエンは何をしていても魅力的で、子犬のような愛らしさがある。誰とでも自然に接することができる親しみやすさも彼の魅力だと思います」
俳優たちのケミストリーのよさは、ギャップから生まれる
劇中に「大事なのは何を成し遂げるかではなく、誰と一緒に成し遂げるかだ」というセリフがある。
BLドラマ、ヤクザ映画などで男同士の感情のぶつかり合いを描いてきたジャン監督は、俳優たちのケミストリーが観客の印象を大きく左右することをよく心得ている。

「仲間同士であれ、対立する関係であれ、組み合わせのバランスはとても重要。見た目だけでなく、それぞれが持つ雰囲気も含めてです。コントラスト、ギャップが必要で、雰囲気が違うからこそ、私が調整する余地も、2人を少しずつ近づけていく余地も生まれます。例えば、ハンサムの定義もいろいろですよね。私は1つのタイプの俳優だけを選ぶことはしません。そうすることで並んだ時に相乗効果を感じてもらえるし、映画を見終わったあと、観客の間で『流川のほうが気になる』『ジャン・ハオを応援する』といった会話が生まれるようにしたいのです」

胸を打つシーンの数々は、監督による親身な演出のたまもの
『進行曲』のジャン・ハオたちには、30年前の若者たちが勝ち取ろうとした自由や希望、魂の叫びにも似た思いが託されている。時代背景や世代が違っても、彼らの心の揺れは、観る者に青春の日の葛藤や反骨精神を思い出させ、ノスタルジーを呼び起こす。

繊細な情感を写し取るために、どのような演出を施したのか? ジャン監督が行ったのは、俳優たちに向き合い、親身に導いていくことだった。
「ムー・センにとって一番大変だったのは、父親と口論して泣いて怒るシーンだったと思います。あの場面のジャン・ハオには、悲しみだけではなく、自分に対する怒り、理解してくれない父親に対する怒りもあって、“怒りのあまり泣く”という状態になっている。でもムー・セン自身はあまり涙を流すタイプではありません。このシーンの撮影では、リハーサルのあとに食事を挟んだのですが、食後すぐ撮影に入ることはせず、近くのコンビニで小さなウイスキーを買い、彼とその辺をぐるぐる歩きながら、私は自分の考えを彼に伝え、彼の話にも耳を傾け、彼にこれまでの人生でつらかったことを話してもらいました。彼自身の記憶や傷を引き出すことができれば、ジャン・ハオの思いを理解できるようになるかもしれないと考えたのです。
リウ・ユーレンの場合は、流川がかき氷店で女子生徒に電話番号を聞こうとする場面を細かく指導しました。基本的に脚本に沿って撮影しましたが、あそこのセリフの多くは自由に演じてもらったものです。流川は自信家なので口説き方も心得ているはずですが、リウ・ユーレン自身はとてもシャイ。だから『自信を持て。“彼女は当然、教えてくれる”という気持ちで、どうすれば彼女の記憶に残るのかを考えろ』といった具合に伝えました。

ユー・ジェエンについては、両親との関係を描くところに力を入れました。タイチェンの両親は、息子以上に自分たちに自信がなく、劣等感を抱いている。だからこそ、タイチェンには、両親を傷つけたくないという思いがある。ユー・ジェエンに“相手を思いやる行動とはどういうものか”について話すと、すぐ理解してくれました。ユー・ジェエンは共演する年上の俳優たちに対しても、声をかけたり、気遣ったりしていましたね。人を思いやれるということは、俳優として大きなプラスになると思います」
吹き替えなし! クライマックスのパフォーマンスは必見
本作では、俳優たちが撮影の約半年前から楽器やパフォーマンスの練習を重ね、マーチングバンドのシーンを吹き替えなしで演じている。最後の大会のシーンは約70人の演奏隊が参加して、5日間にわたる撮影が行われた。スクリーンに映る演奏は、俳優たちが共に練習に打ち込み、積み重ねてきた努力と汗と時間の結実でもあるのだ。
ジャン監督は、多少クサいところもあるが(つまり王道!)、痒いところに手が届くような見せ場を演出するのがうまい。若者たちが繰り広げる、きらめく青春の1シーン1シーン。そして、マーチングバンドの迫力あるパフォーマンスシーンが、映画を最後まで盛り上げる。

台湾の社会に新たな光が差した時代。無限の可能性と希望を背負い、仲間とひとつの目標に向かって駆ける彼らの感情の高まりが大きなうねりとなり、クライマックスのダイナミックな演奏シーンへと流れ込んでいく。そのカタルシスを共有できるよろこびを、ぜひ映画館で味わってほしい。



