「大友さんと仕事ができるなんて思ってもみなかった」大森南朋『蟲師』インタビュー
日本公開前に第63回ヴェネチア国際映画祭に出品されるなど、すでに世界から注目を集めている映画『蟲師』。かつての日本の自然界に生息し、不可解な現象を引き起こした“蟲”、その現象を鎮める蟲師ギンコの果てしない旅を描いたファンタジーである。漆原友紀の同名漫画に魅せられた大友克洋が映画化を熱望。自ら監督・脚本を手掛けた本作は『ワールド アパートメント ホラー』('91)以来、実に16年振りの実写監督作となった。
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大友監督の大ファンだという大森さんは、なんと脚本を読むことなく虹郎(こうろう)役を引き受けたのだという。
「高校生の時、ヤングマガジンで連載されていた『AKIRA』をきっかけに大友さんの作品を読みあさりました。好きだからこそ、僕でいいのかな…という不安もありました。でも、大友さんと仕事ができるなんて思ってもみなかったので虹郎役はとにかく嬉しかったです。オファーを受けたあとに脚本と原作を読んで──『この世界を大友克洋が撮るのか!』という驚きを感じましたね」また、大友克洋作品の魅力は「大友さん自身が少年のまま大きくなったような…男の子が大好きなマシンやメカ、冒険を描いていること」だと語る。
虹郎は、虹に似た蟲をつかまえるために旅する男。原作ではクールな二枚目として描かれているが、映画ではそれを壊してみようという狙いもあったのだという。
「虹郎役をもらったときに思ったのは、オダギリくんがいて、江角さんがいて、蒼井優ちゃんがいて、僕がいる。う〜ん、いい並びだ!って(笑)。ただ、虹郎ひとりだけ蟲が見えないので、その辺は意識して演じました。あと、今回は時代ものではあるけれど、監督とも相談の上で、こてこての時代劇にはしたくなかったなというのはありました」
ギンコを演じたオダギリジョーさんとの共演については、「気むずかしい人だという話を聞いていたんですけど、そんなことは全然なくて──ほぼ毎日飲んでいました(笑)」と意気投合した様子。
普通の人には見えない“蟲”は、最新VFXで描かれ、その世界は不気味で不思議でなんとも美しい。見えない蟲を相手に演技する、そこにはどんな難しさがあったのだろうか。
「撮影現場では『この辺に蟲が飛んでいるからね』という感じでしたが、監督の絵コンテから大体は把握できました。ただ、特撮にありがちな目線のズレだけは絶対に避けたくて気を付けました。もちろん、その場にいない者を相手に演技することは難しい。でも、監督の演出がしっかりしていたので特に問題なかったです」自らのイメージを伝えるために書いたという大友監督の絵コンテは、スタッフ、キャストすべてが「的確で素晴らしい」と口を揃えている。
そして、VFXを加えた映像を目にした感想を大森さんは次のように語ってくれた。
「ラストの虹のシーンを撮影する時の監督の演出は『ここで虹(虹蛇)が上がるから』という感じだったんですが、完成した映像を観て『ここまでだったんだ!?』って驚きました(笑)。あと、一番好きなシーンはギンコと淡幽(たんゆう)の2人が家を抜け出す回想シーン。ギンコと虹郎の後半の旅もロードムービーっぽさが出ていて好きです」
物語の面白さ、キャスティングの素晴らしさももちろんみどころの一つだが、『蟲師』の世界観を描くうえで欠かせなかったもの──それは、自然に溢れたロケ地。
「ロケーションに引っ張られるというのはあります。よくこんな場所を見つけてきたなって感心しました。虹蛇が現れる直前のシーンで高原を走るシーンは思い出深いです」と大森さん。原作に見合う自然を探し出してきたスタッフの粘り強さに驚いたという。
5ヶ月のロケ地探し、走行飛距離5万キロというロケハンによって、人工美(CG)ではない大自然をフィルムに収めることができたというわけなのである。また、そうしたこだわりは大友監督だからこそだという。
「監督の頭のなかには完璧なイメージが出来上がっているんでしょうね。だからそのイメージに現場全体が引っ張られている感じでした」
最後に、虹郎は虹蛇を探し求めて旅を続けたが、俳優・大森南朋は何を求めているのかを尋ねると──
「何が目的なのか未だに定かではないんです。自然の流れに乗っかっている感じですね…」と、大森さんらしいなと納得できる回答が返ってきた。今後、どんな流れに乗ってどんな色を出してくれるのか期待は膨らむばかりだ。
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