ウリエルの妖しさはまさに適任『ハンニバル・ライジング』レビュー
“人喰いハンニバル”ことハンニバル・レクター。『羊たちの沈黙』、『ハンニバル』、『レッド・ドラゴン』といったトマス・ハリス原作シリーズを観て、気品と狂気を持ち合わせた殺人紳士に魅了された人は多いことだろう。
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今回、トマス・ハリスが7年ぶりに発表した新作『ハンニバル・ライジング』は、ハンニバル・レクターの過去が明かされるということで、謎を明かしてしまうのかという寂しさと、ならばいったいどんな展開になるのかという、ためらいを感じつつもわずかに顔を出してきてしまう好奇心がまざり、どこか複雑な心境だ。
舞台は第二次世界大戦の最中、リトアニアから始まる。幼きレクターは戦火によって両親を失い、さらには可愛がっていた妹と自分の記憶までも失うことになる。戦後、かつて暮らした古城が孤児院と化し、そこに収容された青年のレクターは誰とも気持ちを通わせることなく脱走をする。母が残した手紙の出し主である叔父を訪ねるため、パリへ向かうのだが、そこにいたのは叔父でなく、レディ・ムラサキという美しい日本人女性。そこで彼女から華道や武道といった日本文化を教わり、技術とともに美意識も身につけていく。
今作品の特徴的な部分、レクターと日本文化の関係にどこか違和感を感じてしまうかもしれない。これまでの作品を思い起こすと、今回の日本文化の登場にあまり必然性を感じないからだ。そのせいか、従来のハンニバルシリーズと一本の直線上にあるようで、別の直線上にあるような、そんな印象が残った。
しかし、物語の展開には起伏や劇的な見せ場もあり、一つの作品として十分楽しめる。そして、ギャスパー・ウリエルの若々しい妖しさは、天才殺人紳士としてまたとない適役だ。
(TEXT:shioda)
《シネマカフェ編集部》
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