“スパイディ”なんて呼べないよ。サンドマンを演じたトーマス・ヘイデン・チャーチ
シリーズ3作目となる『スパイダーマン3』で、スパイダーマンの前に現れる敵の一人、サンドマンとなるフリント・マルコを演じたトーマス・ヘイデン・チャーチ。フリントはスパイダーマンでもあるピーター・パーカーの伯父を殺し、刑に服していたが、病に冒されている娘のために脱獄するという役どころ。『サイドウェイ』でのチャーミングな中年男とは一転、笑顔を見せず、常に暗い目をしているフリントを演じたトーマスに話を聞いた。
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「自分が今まで出演してきた作品、何と比べても一番大きな作品だね。そのシリーズの3作目に自分が入ることになって、それまでの2作のダイナミズムやドラマ性に、上手く自分がとけ込めるように心がけたよ」と言うトーマス。
「最初に、サム・ライミ監督や製作のローラ・ジスキン、アヴィ・アラド、原作者も含めて、それぞれのキャラクターについて話し合いをしたんだ。その時、『スパイダーマン3』は、もちろんピーター・パーカーの話が主流ではあるけど、そこにフリント・マルコとその娘との関わり、ピーターと伯父さんとの関わり、常にダブルで人間像が関わってきて、最終的にピーターとフリントの2人の人間が交わる。その時に初めてこの話の一つの筋が通ると解釈したんだよ。ピーターにしてもフリントにしても、自分ではどうにもできない感情ってあるよね。それが表し方によって、こうも違うんだというところなんかが、フリントの存在価値と言ったら変だけど、ピーターとフリントを対比させることができたと思うんだ」。
なるほど、フリントも、これまで登場した敵キャラ同様、完全に悪い人間ではない。自分一人では抑えがたいネガティブな感情が高じて、スパイダーマンの敵となってしまう。
「自分の元から大切なもの、ほかとは代え難いものを奪われた時、人はどうしても復讐心を持ってしまうものだと思うんだ。そんな時、人はどういう行動を取るのか。ハリー(ジェームズ・フランコ)とピーターとの関係も恨みというか、そういった感情で成り立っている。ピーターとMJ(キルステン・ダンスト)には特に恨みはないかもしれないけど、ちょっとした人間模様がある。エディ(トファー・グレイス)とピーターとの関係というのもやはり、仕事を取った取られたみたいな、そういう争いがある。人は、他人と難しい状況になった時に、どうやって相手を許すことができるのか。復讐心というのは誰もが持ち合わせていて、それが強くなると、なかなか自分自身の中で消化することが難しい。フリントとピーターの場合は特に、許したい気持ちと恨みを晴らしたい気持ち、それをいかに作用させるかというのが一つの大きなテーマなんだ」。
「基本的にフリントは悪い人じゃない」というトーマス。映画の冒頭でも、フリントが「俺は運が悪かっただけだ」と言うシーンがある。
「娘を守らなければいけない、娘を救うためのお金が必要だということがきっかけで犯罪者になり、かつ脱獄囚になる。それが立派な大義であっても世間では認められない行動を取るんだよ。だから悪事をはたらくということに関して、フリントには大きな言い訳があるんだよね。“娘を守るため”という。でも演技でそれを単純に見せてしまうというのも面白くないから、感情的にちょっとひねった感じにしたんだ。いくら良い人といってもあくまでも犯罪者。ある程度、凶暴性とか攻撃性なども心がけて役作りをしたよ。普通だったらフリントみたいな人間にはならないよね。だからしないであろうことを想像しながら演じる。それが一つのキーポイントになったよ」。
ところで撮影中、監督からある提案があったそうだ。
「監督から、フリントがスパイダーマンのことを“スパイディ”と愛称で呼ぶのはどうか、と提案されたんだ。でもフリントは単純な男だし、多少なりとも感情的に難しくなっていたとしても、すること言うことはシンプルであるべきだろう? インテリくさいセリフは似合わない。だから、カジュアルな気持ちで“スパイディちゃん”みたいな語りかけはしないだろうと思ったんだ(笑)。だからそれは良くないと思うと言ったら、監督も納得してくれたよ」。
今回のスパイダーマンの敵の1人はある意味、自分でもある。それも、奢りやうぬぼれにまみれた“黒い”自分だ。そんなストーリーを踏まえてトーマスは、私たちインタビュアーにこんな質問をした。「このフリント・マルコの存在というのは、ピーター・パーカーが人間として成長する上で、重要な部分を果たしていたのか、また、フリントがいたことによって、この話が良い形で完結に導かれたのかどうか」と。その答えは、作品を観れば見つかるはずだ。
《photo:Hirarock》
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