ファッション小噺vol.49 “めがね”の不思議
デビュー映画『バーバー吉野』でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞を受賞したのが2003年。昨年は、『かもめ食堂』という大ヒット作を放った脚本家でもある荻上直子監督。待望の新作は『めがね』。
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がんばってきて、急にふとどこかへ行きたくなる。そんな思いに駆られたタエコがたどり着いた南の海辺を舞台に、肩の力を抜き、何をするでもなくぼんやりと「たそがれる」というリラックスの有り難さを、ほんわりと優しく描いていきます。
ここで気になるのが、“めがね”。タイトルにあるくらいだから、とても重要なモチーフとして登場するのですが、特に意味ありげでもったいぶった描写は一切ありません。主要な登場人物(=物語の舞台となる南の島の宿に集まってくる「たそがれ上手」な人々)に共通するモチーフというだけ。ただ、それだけですが、実はただそれだけではない、とても大きな存在感があるのです。
この映画の中の“めがね”の存在感。それは、“めがね”本来の特徴にとても似ています。“めがね”って本来は視力を矯正する道具。基本的に、いつもかけている人は、寝るときやお風呂に入るとき以外は外さないので、まるでその人の一部のよう。それなのに、ある日突然、コンタクトに変えて現れたりすると、「確かにこの人なんだけど、なんだかいつもと違うな…」と原因がわからないことがほとんど。しばらくなじめずに違和感が。そして、かなりしばらくしてから、「ああ、めがねがないんだ」と気づく。そして、「なんだかこの人、めがねがないとのっぺりしていて物足りないな」と勝手に思ってしまうのです。
この映画でも“めがね”というモチーフは、実はなくてもいいんじゃないかと思うのに、やっぱりあったほうがいい気がしてくる。“めがね”というものが、何を象徴しているのか、何を意味しているのかは、観る人がいろいろ想像し、楽しみながら判断するのがいいのだけれど、確かなのはこの映画は“めがね”がなければ、のっぺりとしていて物足りなかっただろうなということ。不思議です。
もともと“めがね”は医療機器。でも、人によってはなくてはならないファッションアイテムにもなり得る、何とも不思議な存在です。つける人によっては、キツくみえたり、優しく見えたり。これも不思議。“めがね”には不思議がいっぱい。それと同様に、『めがね』には、ひとつの型にはめこむことのできない不思議な魅力があるのです。
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