「イメージを変える絶好のチャンス」涙を封印した山田孝之の『クローズ ZERO』
これまで数多くの感動ドラマに出演してきた山田孝之が、最悪、最強の不良学生・芹沢多摩雄に扮した『クローズ ZERO』。伝説のカリスマ・コミックと名高い「クローズ」のオリジナルストーリーとして描かれた本作で、新しい顔を見せてくれた。
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今回の多摩雄役について「楽しかったです。望んでいたキャラクターでした」と言う。「役者としてイメージが固まりつつあるのを自分で感じていました。僕の出演する映画は基本的に泣けるものだというイメージを壊したかったんです。もちろん、そういう作品がダメということではなくて、そればかりだと自分が楽しくないし、変化が欲しくなってきていたんです。だから今回は絶好のチャンスだと思いました」。
ひげを生やし、前髪を上げることで外見のイメージをまず変えた。そして、共演の小栗旬さんにお願いして、ボクシングジムに連れて行ってもらった。
「格闘技の経験が全くなくて。パンチやアクションを習いたかったというよりも、敗北感を味わいたかったんです。(僕は)殴られて、『この野郎!!』って相手に向かっていく気持ちも分からない。殴られて、ふっと意識が飛んで『あ、負けたんだ』っていう敗北感を味わいたかったんです。『一度KOしてくれないか?』って頼んだんですけど、さすがにそれは無理で。素人相手にさすがにそれはできないって言われました。でも僕の熱意に負けたのか(笑)、『そこまでがんばるんだったら』って2ラウンドだけスパーリングしてくださったんですよ。これはためになりましたね。今まで生きてきた中でもっとも長い3分間でした。もう長い長い! 3分が20分くらいに感じるんですよ。それに目の前にいるたった一人が何より怖かった」。
多摩雄は、とにかくケンカ、ケンカの毎日。その分セリフが少なく、表情や行動でキャラクターを際立たせなければならない。
「やはりセリフって説明ですから。自分の気持ちを声に出して言ってるから、それを聞けばすぐ分かるけど、何も言わないということは動きと表情で表現しなきゃいけない。だからセリフがあったほうが楽ではあります。でも無いほうが楽しいんですよね。その気持ちを言葉で説明しているよりも、ちょっとした表情…目がちょっと動いたとか…そういったことで伝わった方が嬉しいと思うんです」。
監督は鬼才・三池崇史。誰もが「また一緒にやりたい」と言う彼との初仕事について聞いてみると…「三池さん最高です」と一言。
「実は『クローズ ZERO』をやる前は三池監督のことをよく知らなかったんです。撮影前に資料をもらって“あぁ、こういう作品を撮ってきた人なんだ”って思ったくらいで。“一度やった人は、またやりたい、やりたい言うんだよ”って聞いていて。現場入ったら、その気持ちが分かりました。いないですよ、こんなに役者に全部好きなようにやらせてくれる監督は。“セリフも関係ない、動きも関係ない、やりたいようにやってください。こっちは撮るだけなんで”って。役者にとってはこれ以上の幸せはないと思うんですよ。自分で作った役を好きなように、その中で生きていればいいっていうのはね」。
監督から、多摩雄というキャラクターについての説明もほとんどなかったそうだ。
「多摩雄に関しては、台本の段階でキャラがきっちり出来上がっていたし、余計な設定を足すのもどうかと思っていたので、僕から監督に表立って提案したこともありませんでした。僕が唯一提案をしたのは“貧乏人”ということです。台本にはなかったんですけど、あそこまで戦う理由というか、原動力というか。なぜそこまでするのかという糧が欲しかったんです。だから“貧乏で失うものがない人間は強い”という設定を作りました」。
「多摩雄のように強い面もあるし、意外と弱い部分もあります。どちらがより近いとは言えないです」と自身を分析してくれた山田さん。今回の作品を観て、そしてこのインタビューを通して、さらにまだ隠された面があると見た。次、その次、さらにそのまた次、と先々が気になる人である。
《photo:Yoshio Kumagai》
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