宮藤官九郎の衝動! 「子供以下のおっさん見て、若い人がどう思うか興味ありますね」
“時代の寵児”、“俳優が一緒に仕事をしたい男No.1”、“この10年の日本のエンタメシーンの最重要人物”——こうした称賛など耳に届かぬかのように、どこか飄々と、そして絶え間なく質の高い作品を世に送り出し続ける宮藤官九郎。そんな彼が2作目となる監督作品『少年メリケンサック』で描いたのは、中年オヤジたちのパンク。劇作家、脚本家、映画監督、俳優としての活躍に加え、自らに“暴動”という名を冠してパンクバンド「グループ魂」を組む彼がオリジナル脚本作品のテーマとしてパンクを選ぶのはある意味必然と言えるかもしれないが、なぜいまパンクなのか? 宮藤官九郎を突き動かす衝動とは? 監督デビュー作『真夜中の弥次さん喜多さん』から4年ぶりとなる新作の公開を控えた監督に話を聞いた。
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世代的に一回りしたパンクへの自分なりの“答え”
「前作から4年も空いたのは、オリジナル脚本にこだわっていたからというのがありますね。前作を撮って、わりと間を空けずに撮るという選択もあったんですが、いまは原作があるとか、主演俳優が決まっているとか、そうでない限りなかなか企画を通すのが難しい。そうしてる間にも舞台やドラマがあり、脚本の依頼を幾つも受けてしまって(苦笑)、もう撮れるとしたらここだけ、というギリギリのところでこの話を思いついたんです。そしたら(宮崎)あおいちゃんもちょうど空いていて、いろんなことがラッキーでした」とふり返る宮藤監督。“パンク”をテーマとする上で、30代の監督が40代、50代のオヤジたちの物語を描いた意図についてはこう語る。
「パンクって既成の音楽を破壊する“アンチ”として始まって当時は若い人がアンダーグラウンドでやってたけど、それから30年以上が経ち、半ば権威になっている。もう完全に一回りしたんだな、と。いまの若い人がどうやってフラストレーションを発散させているのか、全然分かんないけど、もうパンクがパンクたりえなくなってきているというのもあって、そこに対する自分の答えを出した感じですね」。
劇中、若者たちが25年前の“若き日のオヤジたち”の映像に熱狂する姿が印象的だが、オヤジたちを描くことで、覇気がないと言われる若者たちへのメッセージを意識した部分もあるのだろうか?
「まあでも、自分が若いときも、みんながパンク聴いてたかっていうとそんなことなくて、せいぜいクラスで3〜4人で完全に少数派の文化でしたからね。だから若者に向けて、というのを意識したわけではないですが、ただ、年齢は重ねたけど大人になりきれてない子供以下のおっさんたちを見て、若い人たちがどう思うか? というのは興味ありましたね」。
「若者とおっさんの間で揺れておっさんを選んでほしい(笑)」
「いい歳して丸くもならずに成長もしてないおっさんたちってかっこいいじゃないですか?」そうニヤリと笑って監督はこう続ける。
「子供みたいなオヤジと大人ぶっている子供という構図。(勝地涼演じる)マサルくんが『売れるとか売れないに縛られたくないから、まず結婚して生活を安定させて』とか言ってて、中年パンクスからしたら『何言ってんだお前?』というのがあって。世の中のこと知らない若者が大人びたこと言って、おじさんたちは『ち○こデカいのか? ち○こデカいのか?』ってずっと言ってる(笑)。それは現代の縮図だと思うし、その対比は若い人に見てほしいですね」。
マサルくんのような“堅実な”イマドキの若者と大人げなど微塵も持ち合わせていないアキオ(佐藤浩市)らバンドのメンバーたちの間に位置するかんな(宮崎あおい)を、監督は「僕自身の希望を投影したキャラクター」と明かす。
「いままであんなおっさんたちのこと知らずに同世代の若者と付き合ってたけど、結婚しようかとなったときにあんな中年たちが現れる。どちらを選ぶかと言ったら、おじさんを選んでほしい、中年パンクを好きになってほしいという自分なりの都合のいい妄想なんですけどね(笑)」。
「ファミレスのシーンを撮りながら『いける!』って感じました」
撮影に関して宮崎さんを始めキャスト陣からは「楽しかった」という言葉が伝わってくるが…。
「あおいちゃんにはかんなについて、大まかな説明はしましたが、互いに現場で作っていこうという気持ちでした。あおいちゃんて、こっちが何か言うとすごく変わるんですよ。それがすごくおもしろくて。基本的には違った一面を引き出してやろうなんて考えもなかったです。撮影3日目ぐらいですかね。『どうですか?』って聞いたんです。やりづらいことや分かんないことないですか? という意味で。そしたら『楽しくて仕方ないです!』って。それを聞いて楽しいならいいや。むしろ楽しさをキープして1か月やりきろうって思いました。中年の『メリケンサック』の4人は、みんなそれぞれ個性があって面白かった。やっぱり疑似体験とはいえバンドという不思議な連帯感もあって。あくまでもバンドの一員、4分の1として浩市さんがいるおもしろさがありました。最初がファミレスのシーンで、チャーハンだ焼き飯だハンバーグだって言ってるあのシーンを観て、この人たちの芝居はずっと観ててもおもしろいな、いけるって感じました」。
最後にひとつどうしても気になる質問を。主要キャスト以外にピエール瀧、哀川翔を始めとするミュージシャンたちが全く音楽と関係ない役で登場する一方で、音楽経験のない田辺誠一をビジュアル系(?)ミュージシャン“TELYA”として起用しているがその意図は?
「あれはビジュアル系のアーティストが事務所を支えてるという設定ですが、それだけじゃすまない異物感、違和感を出したかったんですよ。それを出すにはミュージシャンじゃなくてあえて役者を使った方がいいな、と。自分が知っている中で、そうは見えないけど一番変な人として田辺さんにお願いしました。本当は変な人なんですよ(笑)、田辺さんて。TELYAのプロモーションビデオをクランクインの日に撮ったんですが、おもしろくて必要な長さの10倍ぐらい回してました(笑)」。
《photo:Hirarock》
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