【G.W.は何を観る?】匠イーストウッドが描く、愛すべき頑固者『グラン・トリノ』
唯一の理解者だった妻には先立たれ、心が通わない息子や孫たちとは距離を置き、愛犬にだけ心を許す偏屈な老人、ウォルト・コワルスキー。名匠クリント・イーストウッドが描く物語の主人公は、そんな人物だ。朝鮮戦争の従軍経験からか誰に対しても攻撃的な態度を崩さず、孤独な暮らしを貫くウォルトは、ひょんなことから隣に住むアジアのモン族一家と親交を深めるようになる。
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イーストウッド監督自らが演じるウォルトは、いわゆるタフガイであり、頑固者過ぎる頑固者。口を開けば出てくるのは皮肉ばかりで、差別発言もお構いなしの粗野な内面を見せる。しかしながら、元来は茶目っ気のある人物のようであり、ブツブツとつく悪態もどこかユーモラス。そんな彼の変化が、イーストウッドのピンク色がキュートな頬や眉間の皺もチャーミングに示されていく。決して変化を望んでいるわけではなく、むしろ現状維持のまま人生を終えたい本人の思惑とは裏腹に、差別主義的姿勢が正直者の本音へ、マッチョイズムがヒーローの頼れる力へ、頑固さが強靭な意志へと形を変えていくのだ。
老境のウォルトとモン族の若き姉弟の交流はヒューマンでほのぼの。しかし、この映画はハートウォーミングなどという柔な感動を許さない。悲劇的な出来事の末にたどり着いたラストは西部劇の鎮魂歌のようで、イーストウッドの美学が炸裂。頑なだが愛すべき主人公のキャラクターと同様、頑なだが愛すべきエンディングだ。
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