堀北真希、高良健吾インタビュー 『白夜行』の裏に隠された葛藤と本音
東野圭吾のベストセラー作「白夜行」はその複雑でドラマティックなストーリーが作り手を刺激し、すでに舞台や連続ドラマ、韓国で映画化されている。それを改めていま、日本で映画化するのは大きな賭けと言える。だが、深川栄洋監督、堀北真希、高良健吾という若い才能を得て、父親を殺された少年と母親が容疑者となった少女の壮絶な19年の物語は新たな姿を得た。つらすぎる過去を背負い、美しき悪女となる雪穂を演じた堀北真希、雪穂の影のように生きる亮司を演じた高良健吾に話を聞いた。
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「現場で常に“騙してる”ことが気持ち悪かった」
原作には内面の描写はほとんどないが、どのように人物像を作り上げていったのだろう? 原作は読まなかったという高良さんは「自分で作るというより、周りが作っていってくれるところがたくさんあったと思います」と言う。亮司という人物の捉え方も当初は監督と異なった。「淡々と罪を犯していく男だと思っていたけど、監督には『もっと人間的に悩んでいこう』と言われました」。
堀北さんは雪穂について「原作から読み取るというより、周りの人の雪穂に対するリアクションや行動で雪穂という人物が成り立ってる印象がありました」と言う。高校生のときに原作と出会い、読み込んでいた彼女は「私の中でも雪穂のイメージはあって、それを忠実に再現したいと思いました」と言う。物語の構成上、実際に共演するシーンはほとんどなかった2人に互いの印象を尋ねると、堀北さんは「監督の演出で、亮司がつらいシーンのときは高良くん自身が本当につらい思いをしていたと聞いていたので、大丈夫かなって」と心配していたと明かす。
「亮司と雪穂は元々同じような闇を抱えているので、私自身が現場でつらいと思うことは、たぶん高良くんもつらいんだろうなって。そこを励まし合えないのがつらかったです。でも、彼が本当に苦しんだことがスクリーンに映っていたし、お客さんにも伝わると思います」。
高良さんは「短時間ではその人のことは分からないから」と言いつつ、女優・堀北真希については「もう徹底した雪穂というか。雪穂が真っすぐ前を見据えて歩いていくラストシーンは本当に悲しい。素晴らしいです」と絶賛。そのラストシーンについては「やってみないと分からないっていう結論になったんですよ、私と監督の中で」と堀北さんは語る。
「スケジュールが最後の方の撮影だったので、それまで演じてきて自分の中に蓄積されたものと、その時の瞬発力と集中力でできたシーンです。いま同じことを、と言われても、どこから役に入っていいのか分からないような、すごく複雑なシーンです。あのときしかできなかったと思います」。
高良さんは「現場で常に“騙してる”ことが気持ち悪かった」と話す。極論すれば、芝居とは人を騙すこととも言えるが、そこには違いがあるのだろうか。彼は、芝居について「騙してるとは思わないです」と言う。芝居で嘘はつきたくないとも。だが、今回亮司を演じるにあたっては、奇妙な感覚があった。「人を騙すとき、騙してる相手に核心を突かれて『いや違います』と答えたらばれると思うんです。そうではなくて、お客さんにも、亮司は本心で語ってるんだと思われるように騙さなきゃいけない。あるシーンでは『瞬きせずに、目を外さないで』と監督に言われました。僕が最初にやった芝居はきっと騙そうとした芝居なんです」と言う彼は「普段はフィクションの中でも嘘をつきたくないと思って演じてますけど、今回は自分さえも騙してる気がしました」とふり返る。
「精神的につらかったけど、自分で望んだからこそ逆に気持ちいい」
自分で直接手を汚さない雪穂、罪悪感と絶望の中で「雪穂に侵されて、後戻りできなくなってしまっている」と高良さんが評する亮司。全てを描き切らない演出のもと、それを表現するのは大変な苦労だったに違いない。だからこそ、堀北さんの「努力をしたということでもない感じです」という答えに驚いた。「精神的につらいこともあったけど、そこは自分が望んで飛び込んだわけだから、逆にすごく気持ちいいというか、楽しかったです」とまで言う。一方、高良さんは「『白夜行』の撮影が2週間空いた期間に『ボックス!』のキャンペーンで地方を回ったときは少ししんどかったです」と正直に明かす。
「自分が役に入り込んでいるのって好きじゃないんです。しかし今回ばかりはその方が楽だったので、あえてそれを選びました」。
実は堀北さんも『白夜行』の撮影時に『大奥』の撮影も重なっていた。それについて「本当は一個一個に集中できたら理想的ですよ。役の準備も心の準備もできて撮影に入って、撮影だけに集中できて、終わったらそれだけをケアしてっていうのが理想ですけど、現実的には難しい。お芝居をするときに役が重なってしまうのは大変ですが、どちらかで楽をするなんて自分の中で絶対許せない」と自分に厳しい言葉が。『大奥』では純情な娘役で、正反対の役柄だったのはむしろやりやすかった? と尋ねると、複雑な笑みを浮かべて「結構つらかった」とつぶやいた。「『白夜行』の現場に何日か通って、やっと何か見えてきた、何かつかめたかもと思ったときに、次の現場に行くとリセットされちゃうんですよ、気持ちが。それはつらいところではありました」と本音を語ってくれた。
雪穂の無慈悲な悪女ぶりについて、高良さんは「悪女とかよく分からないですけど」と前置きし、「つかみどころのない人って、もっと知りたくなるし、近づきたくなる」と言う。
「雪穂はそれを狙ってやっているのか、もともとそうなのか、分からないけど、男はきっとああいう女性には惹かれると思う。あまり血が通ってない感じがしますけど。幽霊っぽいというか」。
演じた堀北さんは「女の人って、他人より勝っていたい気持ちがあるんじゃないかな。雪穂の場合それが非常に強かったと思います」と分析する。
「誰よりも上に行くために、学生の時から上に上に、と登りだしたんだと思います。女の子から見ると雪穂のそういう心理は意外と理解できる。口に出したら自分も悪女と言われそうですけど、女性だったら、もしかしたら分かってくれるかな、と思っています」。
「雪穂って魅力的じゃないですか」と語る高良さんに、いたずらっぽい調子で「騙されるタイプだね」と茶々を入れていた堀北さん。「そうかな……」と素直に考え込む高良さん。まるで、児童館で仲良く遊んでいた雪穂と亮司に訪れることのなかった、穏やかな未来の幻を見ているようだ。微笑ましいやりとりが切なく思える。それほどまでに2人は雪穂と亮司としてスクリーンに存在している。
《photo:Toru Hiraiwa / text:Yuki Tominaga》
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