森田芳光監督×松山ケンイチの“相思相愛” ごく普通の日常にある“笑い”とは——
森田芳光監督がスクリーンに映し出すキャラクターたちは、とても人間味がある。そして監督はいつもちょっとだけ時代の先を歩き、観客に道しるべを作ってくれている気がしてならない。1981年に『の・ようなもの』で映画監督としてデビューを飾り、『家族ゲーム』、『それから』、『(ハル)』、『失楽園』、『模倣犯』、『阿修羅のごとく』、『間宮兄弟』、『椿三十郎』、『武士の家計簿』など、数多くの名作を送り出し、映画と人を愛した。そんな監督が「この1作目がヒットしたら、シリーズものにしたいんだよね」と、ぽつりとつぶやいていた最新作が『僕達急行 A列車で行こう』だった。森田監督が最後に遺してくれた道しるべは、趣味というごく普通に日常にあるものが、実は宝物であると気づかせてくれる、そんなハートフル・コメディ。
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本作は2009年の『わたし出すわ』に続く、森田監督自身によるオリジナル脚本。「これからは趣味の時代になる」と、十数年前から温めてきた企画だ。「鉄道ファンとして、僕はまだ末端の立場だけれど、鉄道好きの中に参加できたことが何だか嬉しくて。今このタイミングでこの映画を作ったのは、テレビ放送の多チャンネル化の影響もありますね。というのは、僕はいつも有線放送を聴いたり、CSの番組を見たりしていて、あるとき鉄道の番組ってものすごく多いことに気づいた。これを映画にしたらファン層も広がっていくんじゃないかなって。鉄道という趣味をテーマに、ひとつの時代性として、趣味に生きる2人の物語をやってみよう、そう思ったんです」。
趣味と鉄道を切り口に森田監督のイマジネーションは大きく膨らみ、松山ケンイチと瑛太という日本映画界を引っぱる若手実力派の2人が主人公に選ばれた。松山さんは『椿三十郎』、『サウスバウンド』に続く3度目の森田作品の参加となるが、どんな現場かを知っていても「毎回、びっくりさせられる」と撮影の日々をふり返る。
「この役ってこうなっていくんだ! こういうふうな動きをするんだ! と、いつも驚かされるんです。ああいう演出方法は森田監督だけ、森田監督に似ている監督なんていないですね。僕は監督の作品に出るのはこれが3作目で、その間にもほかの作品をやらせてもらって(経験を積んで)いますが、森田監督の現場ではそれがまったく通用しないんです(笑)。瑛太さんと2人で本読みをしているときも──『違うんだよ、セリフは言い方も重要でね。ちょっと言ってみるからね…』って、監督自らセリフを言ってくれる。それが僕らの何十倍も何百倍も面白いんですよ。だから、森田監督の演じてくれたものに追いつこうと必死でした」。悔しそうに、でも嬉しそうに語る松山さんの話を、隣ではにかみながら聞いている森田監督は、続けて俳優・松山ケンイチだからこそ任せた主人公の小町像をこう説明する。「僕が目指している笑いのツボって、瞬間芸的なものではなく、映画のストーリーに沿った人間的な笑いなんです。人間の正直さって、真面目にやればやるほど可笑しいわけで、それを松山くんならやってくれるだろうと思った。一流会社に勤めているけれど素朴で、かつ趣味を大切にしていて、名誉とかのために働いているふうでもなく、そういう現代のエリートですね、小町は」。
「俳優といっても自分の人格にないものは演じきれない」という森田監督の言葉は、キャスティングも重要であると伝えている。ちなみに、松山ケンイチ&瑛太の組合せは、脚本の段階から思い浮かべていたそう。「どっちがサラリーマンでどっちが労働者かっていうのは難しいところではあったんですど、悩んだのはそれぐらいかな。コンビものとしては、これまでに『間宮兄弟』を作っていますけど、今回はああいうテイストの面白さではなく、2人がピュアゆえの面白さ、少し違った面白さを目指したんです。面白いコンビではなく、心が温まるコンビっていうか、そのコンビがふと笑いを誘うというかね。コメディと言いながらも違った作戦なんです」。人間臭さを深く探り、観察し、繊細に映し出していく。森田監督のコメディセンスが唯一無二と言われるのは、そこにある。
コメディを描くうえで、森田監督が一番にこだわっているのはニュアンスだ。「愛しているとか好きだとか、おはよう、おやすみといった日常会話にしても、人によってニュアンスって違いますよね。僕は昔からニュアンスのことばかり考えているんですよ。大切なのは、言葉そのものが持つ意味ではなく、ニュアンスだと思うから。事実、台本上に書かれているしゃべり(セリフ)自体はそんなに面白いものではないんです。役者さんがニュアンスをもってしゃべっている、そうすると同じセリフでも意味が違ってくる、それが面白さにつながるんです」。話を聞けば聞くほど、森田監督の緻密さが浮き上がってくる。松山さんの「監督に追いつこうと必死だった」という言葉も納得だ。また、十数年温めてきた企画を主演・松山ケンイチに託したことにも、もちろん理由がある。取材前の雑談で「彼とはもう3回目になりますからね、彼のことはすべて知ってますよ、すべてね(笑)」と冗談っぽく話していた言葉が、実は核心だったりする。何度もタッグを組んだ相手だからこそ、託したものとは──。
「電車が遅れて、近くの駅を知っているからって女の子をナンパする、それって考えてみたらものすごく変な話じゃないですか。すごく軽くてバカみたいな男でしょう(笑)。おまけに、『ココまで来たら世界のどこへだって行けるよ』っていうセリフをしれっと言えちゃう、それが小町なんです。松山くんをよく知っているからこそ、この小町という役を頼めたんですよね」。照れくさそうに頭をかきながら、松山さんも言葉を足す。「そう、大きいこと言っているけれど、けっこうスケール小さいんですよ、小町って(笑)。そういう面白さが小町にはたくさんあって演じていても楽しかったですね。あと、僕が好きなのは、写真を撮っているそばでスプーン曲げをしている人がいたり、会議をしている最中にブナの話をしたりするナンセンスなシーンが好きなんです。映画のテーマとは全然関係ないんだけど(笑)」。そんな松山さんのコメントに「嬉しいなぁ」と喜びを噛みしめる森田監督。「そう、映画と全然関係ないんだけどね、僕もナンセンスは大好きですね。部屋探しのマンションで不動産屋さんに『跳んでみてください』って言うシーンとか、あれはけっこう自信あるんですよね(笑)。松山くん、やっぱりいいとこ見てるなぁ」。たとえば、恋人選びの項目に「笑いのセンスが一緒の人」を挙げる人が多いように、笑い、ニュアンス、空気…言葉にすると曖昧なものこそが、価値観と言えるのかもしれない。ということは、森田監督と松山ケンイチは、もちろん相思相愛!
最後にもうひとつ、森田監督は『僕達急行 A列車で行こう』の観客のために、ある招待状を添えた。それは誰もが映画の主人公になれるという、監督らしいアイディア。「この映画のテーマは、ひとつの趣味を持つことで、その趣味をきっかけに会話につながって、友達もできるという基本的なことなんです。今回は電車だったけれど、飛行機でもガーデニングでも同じように映画が作れると思う。それから、多くの映画の場合は、主人公になりたくてもなれない、できないことの方が多いじゃないですか。けれど、この映画の主人公たちには誰もがなれるんです。電車に乗って、景色を眺めながら『RIP SLYME』の曲を聴けば、誰でも松山ケンイチ=小町になれるんですよ(笑)」。
2011年7月某日
特集:私も発見、仕事と恋と、好きなコト。
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《photo:Toru Hiraiwa / text:Rie Shintani》
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