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『ヘルタースケルター』蜷川実花監督 次に目指すは女子向け『クローズZERO』?

極彩色の世界で美貌のヒロインがもがき、嘆き、それでも負けない強さで疾走する。しかし、その美しさが虚構の産物だとしたら? そもそも美しさとは何なのか…? 岡崎京子のベストセラーコミックを沢尻エリカ主演で映画化した『ヘルタースケルター』では、全身整形を施したトップスター、りりこの心の旅が展開する。一見すると、狂気と絶望が目まぐるしく絡み合う不毛な旅。だが、そこには監督・蜷川実花の愛情と優しさがあった。

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『ヘルタースケルター』 -(C) 2012 映画『ヘルタースケルター』製作委員会
『ヘルタースケルター』 -(C) 2012 映画『ヘルタースケルター』製作委員会 全 5 枚
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極彩色の世界で美貌のヒロインがもがき、嘆き、それでも負けない強さで疾走する。しかし、その美しさが虚構の産物だとしたら? そもそも美しさとは何なのか…? 岡崎京子のベストセラーコミックを沢尻エリカ主演で映画化した『ヘルタースケルター』では、全身整形を施したトップスター、りりこの心の旅が展開する。一見すると、狂気と絶望が目まぐるしく絡み合う不毛な旅。だが、そこには監督・蜷川実花の愛情と優しさがあった。

「真ん中」に立っていることの自負と孤独

美しさを讃えられながら、そのメンテナンスに神経を尖らせる主人公・りりこ。世界的フォトグラファーとしてファッション業界に身を置く蜷川監督にとって、彼女は「“こういう子っているよね”という存在」だという。
「原作に描かれているりりこ自体、私にはちっともモンスターキャラクターに見えなかったんです。映画化にあたってはりりこが現在の彼女に至った背景を書き加えるプランもありましたが、それは拒否しました。何か大変な思いをしたからじゃなくたって、女性がりりこのようになり得る世界に私たちは生きている。試写の段階でファッション業界の友人にも作品を観てもらったんですけど、モデルの子の中には暗い顔をして帰っていく人もいました(笑)。人前に立って消費される者にとっては、ドキュメンタリーを観ている感覚すらあったようです」。

とは言え、りりこが立っているのはまさに業界の頂点。美に翻弄される者としての普遍的な共感を呼ぶ反面、彼女にはトップスターの自負があり、“共感”などという生ぬるい感情を蹴散らす気迫すらある。
「業種は違いますけど、矢面に立って最前線でやっているのは私自身も同じ。主演のエリカがあれだけの歓声と罵声を浴びながら何年も女優を続けていることに対し、共感できる思いを抱いたのも大きかったです。エリカの方がもちろん圧倒的に認知度は高いですけど、真ん中に立っている孤独さみたいなものは言葉にしなくても分かり合えるところがありました。だからこそ、そうある人間としての覚悟もきちんと描きたかったんです」。

スターとして生きるりりこ、彼女に振り回される女性マネージャー、彼女の地位を脅かす新進モデル…。交錯する人間模様を彩るのは、蜷川監督ならではの色づかいが視覚と脳を刺激するビジュアル世界だ。
「ビジュアルが美しいのはマストだと思っていました。とは言え、前作の『さくらん』もそうだったんですけど、美術的なことは得意で自信がある分、意外と後回しにする傾向にありました。それよりもまず、“脚本だ! キャスティングだ! 演出だ!”って。最終的には、それぞれの登場人物が使う携帯からりりこの部屋にある化粧品のメーカーまで、細かい部分まで結構うるさく言っていたんじゃないかな…。美術的なことに関しては、やっぱり自ら動いている部分も多い気がします。最初にスクラップブックみたいなものを作ってスタッフに渡すんですが、そういった画作りは難なく見えてきます。“夕飯はハンバーグにしようかな”なんて思いつくのと同じくらいの感覚で」。

男性を撮るなら、女子向け『クローズZERO』に?

タイトルの挙がった初監督作の『さくらん』でも、本作『ヘルタースケルター』でも、着目しているのは女性の世界。「“女性の世界を描きたい!”なんて頑なに思っているわけではないんですけど、その方がきっと得意なのかなとは思っています」と自己分析する。
「女性キャストにはリアリティを求めますが、男性キャストには夢の男を演じてほしい癖(へき)があって、夢の男たちがいっぱい出てくる楽しいエンタメみたいな映画なら撮りたいんですけどね。楽しそうでしょう(笑)? でも、ちゃんと心情を描いていくとなると、やっぱり同性じゃないと分かりきれないものはある気はする。監督をしているうちにシンクロしていくものもどこかあって、主人公と同じような気分になったりもするんですよ。だから、男性が主人公の映画となると、ひたすらイイ男が出てくる女の子向け『クローズZERO』とか…。そういうのがいいですよね。それを観て、女の子たちはハフ〜ッと喜ぶ。撮影現場も楽しそうだし(笑)」。

“女の子向け『クローズZERO』”の何とも女性に優しく甘美な響き…。もちろん、りりこを見つめる眼差しを含め、女性に優しい蜷川監督のスタンスは『ヘルタースケルター』の中でも存分に感じられる。
「(りりこの通う美容整形外科を調査する)検事役の大森南朋さんなんて、そもそも女性漫画から生まれたキャラクターである上に、私のこじれた乙女度を足してしまったので(笑)。さぞやりづらかったとは思うんですけど、役の背景云々よりも、この場でこう輝いてほしいというキャラクターを演じるために腹をくくってくれていました。でも、逆に考えると、ボンドガール然り、男性が主人公の映画にはそういったヒロインも多いですからね。今回はあくまでもりりこの物語なので、男性に対しては“カッコよくいてくれ! 以上!”のスタンスでいました。その結果、南朋さんの台詞に痺れる女性が続出していました。かなり夢を乗っけましたので…。逆に、綾野剛くんが演じたキャラクター(りりこのマネージャーの恋人)には、ダメ男が好きな私の経験が反映されています(笑)。家でゲームをしている感じとか…。うん、ダメそうでいいですよね」。

母・アーティストとしてのワークバランス

プライベートでは一児の母。「4歳の息子に向かって、『今日はハンバーグにチーズ乗せる?』なんて言ってるお母さんが撮った映画に見えないかな?」と不敵に微笑む姿がたまらなく素敵だ。
「普段は息子と遊んでばかりですね。息子のことが好き過ぎて超イチャイチャしているので、周りからはバカップルと言われています。子育てをして、仕事をして…、注ぎ込む対象は2つが限界かなと感じているので、オトコはいいやと思っています(笑)。ただ、子供がいるとすごく楽しいし、本当に幸せな反面、時間の全部を自分に使っていたときとはやっぱり勝手が違いますよね。そういった状況に対する少しのストレスみたいなものを上手く溜め込んで起爆剤にするのがいまの私のやり方。やっぱり満たされ過ぎていると、物を作る時にうまくいかなかったりするのも事実ではあるんです。『お母さんになって作品が柔らかくなったね』なんて言われるのも嫌ですし、今後も自分なりの方法を探りながら、バランスよく振り切っていきたいです」。



© 2012 映画『ヘルタースケルター』製作委員会

《渡邉ひかる》

映画&海外ドラマライター 渡邉ひかる

ビデオ業界誌編集を経て、フリーランスの映画&海外ドラマライターに。映画誌、ファッション誌、テレビ誌などで執筆中。毎日が映画&海外ドラマ漬け。人見知りなのにインタビュー好き。

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