【シネマモード】『タイピスト!』恋も仕事もファッションも…“50年代”の魅力
フランス映画というと、“ちょっと難解”“大人&玄人向け”という印象が強いですが、いま日本にはとってもキュートでおしゃれなフランス映画が上陸しています。それは『タイピスト!』。
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
1950年代を舞台に、田舎から憧れのパリにやってきたドジで不器用な主人公・ローズが、唯一得意とするタイピングで、世界を、そして大好きな上司のハートを魅了していく物語。全編に流れる音楽、ファッション、ストーリーラインにレトロテイスト満載な上、恋に仕事に奮闘するスポ根的清々しさまで同居した、キュートでポップなラブコメディなのです。
秘書、タイピストといえば、かつて女性の社会進出を大きく後押ししたプロフェッション。しかも、本作でモチーフとなっている「タイプライター早打ちコンテスト」は、当時、実際にヨーロッパで盛んに行われていた人気イベントだったとか。
本作誕生のきっかけも、タイプライターの歴史に関するドキュメンタリーを見ていた監督が、その中で、早打ち大会の模様を見つけたからだといいます。突拍子もない話だと思いきや、何と歴史的事実にインスパイアされたこの物語。
ロックンロールが生まれ、女性の地位も変わり、ファッション、ライフスタイルに変化が訪れていた時代の物語だけに、当時は劇的なドラマにあふれていたはず。本作が持つ時代の空気感は、人々が抱いていた多くの期待や不安までも感じさせてくれます。そんな50年代に思いを馳せるのも一つの楽しみ。でも、本作を楽しむポイントはほかにもまだまだあるのです。
主演のデボラ・フランソワが体現する50年代の女性像も素敵。監督が彼女に観るよう指示したのは『麗しのサブリナ』『昼下がりの情事』『パリの恋人』『マイ・フェア・レディ』などの名作。50年代の女性たちの体型、立ち振る舞い、佇まいを理解するようにとの意図があったといいます。
それにしてもつくづく思うのは、この時代というのは同性の目から見ても、女性が最も女性らしさを強調していた時代なのだということ。きゅっと絞られたウエスト、品の良いふんわりとしたミディ丈のフレアスカート、綺麗にカールされまとめられた髪、服に合ったヘアアクセサリーと、見ているだけでおしゃれへの並々ならぬ執念というか情熱が感じられます。
それは、現代の比ではないのかもしれません。もっと根源的な、動物的な印象を受けるのです。当時は結婚するのが当たり前の時代。女性たちの興味の中心は、どんな男性と結婚するかということだったことでしょう。しかも現代女性よりも行動範囲が狭く、出会いも限られていたでしょうから、自分の行動範囲内でいかに効率よく旦那様を探せるかが重要だったはず。
そういう意味では、日々のおしゃれを怠らないことこそ、人生を切り開く道だったのでしょう。常によそいき的なおしゃれをしているローズのようにはいかないまでも、家にいるとき、そっとそこまでの外出にも、もっと気を使ったほうがいいのかもと反省した私。50年代の美女たちを見習いたいものです。
よく見ているとファッションだけでなく、数々のシーンに当時の名作へのオマージュがちりばめられていることも、映画ファンなら気づくことでしょう。『アパートの鍵貸します』『シェルブールの雨傘』『めまい』などへのオマージュも登場しています。監督が用意した映画ファンへの粋なプレゼント、ぜひ見つけてみてください。
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